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ジャーナルクラブ

このページでは、研究室のジャーナルクラブ(JC)で扱った論文を簡単にご紹介していきます。

JC-032(May 2, 2024)
ILC2は皮膚組織のシングルセルRNA-seqからアンドロゲン受容体高値の免疫細胞として特定された

"Sexual dimorphism in skin immunity is mediated by an androgen-ILC2-dendritic cell axis"
Science. 2024 Apr 12;384(6692):eadk6200. doi: 10.1126/science.adk6200. Epub 2024 Apr 12.

免疫機能の性差を示す知見は数多くあるが、その原因は殆ど明らかではない。本研究では、マウス皮膚感染モデルにおいてアンドロゲンによる2型自然リンパ球(ILC2)の抑制が皮膚免疫の性差を規定する主要因として示された。

ILC2は皮膚組織のシングルセルRNA-seqからアンドロゲン受容体高値の免疫細胞として特定された。雄マウスではアンドロゲン依存的なILC2の抑制から皮膚免疫が低下し、同ホルモンの阻害は雌と同等の免疫機能をもたらした。性ホルモン調節の免疫治療への応用が期待される。

担当:網代将彦 @Masahiko_Ajiro

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JC-031(Apr 30, 2024)
免疫システム回避の主なメカニズムとされていたMHC class I欠損に対する新たな治療法

"Long-lasting mRNA-encoded interleukin-2 restores CD8+ T cell neoantigen immunity in MHC class I-deficient cancers"
Cancer Cell. 2024 Apr 8;42(4):568-582.e11. doi: 10.1016/j.ccell.2024.02.013. Epub 2024 Mar 14.

MHC class I欠損がん細胞では免疫細胞の砂漠化が生じ、免疫チェックポイント阻害剤、抗がん剤への耐性が生じる。IL-2 mRNAをdeliveryすることによって、IFNg産生CD8+T細胞がマクロファージの提示するneoantigensを認識、免疫反応を引き起こした。

免疫システム回避の主なメカニズムとされていたMHC class I欠損に対する新たな治療法。現在phase1試験が進行中であり、今後IL2とtumor-targeting monoclonal antibodyや #免疫チェックポイント阻害剤 との併用での効果が期待される。

担当:工藤麗 @Reik0110

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JC-029(Apr 5, 2024)
造血幹細胞(HSC)は鉄のホメオスタシスを介して細胞の運命制御を行い、その過程はヒストンアセチルトランスフェラーゼTip60に依存している

"An iron rheostat controls hematopoietic stem cell fate"
Cell Stem Cell. 2024 Mar 7;31(3):378-397.e12. doi: 10.1016/j.stem.2024.01.011. Epub 2024 Feb 22.

本研究では鉄キレート剤による鉄制限モデルを用いることにより、造血幹細胞(HSC)が鉄のホメオスタシスを介して細胞の運命制御を行うこと、その過程がヒストンアセチルトランスフェラーゼTip60に依存していることを明らかにした。

また遊離鉄プールの制限が脂肪酸代謝を増強することが示された。加齢による細胞内鉄の蓄積がHSCの機能低下に寄与するが、細胞内の鉄負荷を緩和することで老化したHSCのTip60活性を再活性化し、老化関連のHSC機能不全を軽減する可能性が示された。

担当:山内浩文 @HiroYama0123

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JC-028(Mar 28, 2024)
アルギニンメチル化酵素9(PRMT9)阻害は抗白血病効果を示した

"Targeting PRMT9-mediated arginine methylation suppresses cancer stem cell maintenance and elicits cGAS-mediated anticancer immunity"
Nat Cancer. 2024 Feb 27. doi: 10.1038/s43018-024-00736-x. Online ahead of print.

アルギニンメチル化酵素9(PRMT9)阻害は抗白血病効果を示した。PRMT9の基質としてエキソヌクレアーゼXRN2とポリA結合タンパクPABPC1を同定することで、抗腫瘍効果の細胞内因性機序をDNAダメージと翻訳抑制により説明している。

加えて細胞外因性機序も示しており、根治治療開発の点から意義深い。PRMT9阻害はcGAMPの腫瘍細胞外放出により樹状細胞とT細胞のクロスプライミングを誘導し、抗腫瘍免疫応答を賦活化する。実際、免疫チェックポイント阻害剤との併用で強力な抗腫瘍効果を示した。

担当:武藤朋也 @mucyotomo

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JC-027(Mar 25, 2024)
腫瘍抗原提示を行うHLA-DR+CD74+好中球サブセットは良好な予後に関連する

"Neutrophil profiling illuminates anti-tumor antigen-presenting potency"
Cell. 2024 Mar 14;187(6):1422-1439.e24. doi: 10.1016/j.cell.2024.02.005. Epub 2024 Mar 5.

がんにおいて好中球は相反する機能が報告されている。今回17種類の腫瘍の143人225の患者サンプルの単細胞好中球トランスクリプトーム解析により腫瘍浸潤好中球を10種類に分類し、その機能の多様性を示した。

腫瘍抗原提示を行うHLA-DR+CD74+好中球サブセットはロイシン代謝によりミトコンドリア呼吸の増加、アセチルCoA産生、HLA-IIのエピジェネティックな活性化を介して増加し、良好な予後に関連する。抗原提示好中球の送達やロイシン食はマウスモデルでICIの効果を高めた。

担当:吉田澪奈

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JC-026(Mar 18, 2024)
化学療法耐性神経芽腫に対する免疫チェックポイント阻害剤の併用療法の有用性を示した点が期待

"Integrative analysis of neuroblastoma by single-cell RNA sequencing identifies the NECTIN2-TIGIT axis as a target for immunotherapy"
Cancer Cell. 2024 Feb 12;42(2):283-300.e8. doi: 10.1016/j.ccell.2023.12.008. Epub 2024 Jan 4.

小児神経芽腫の治療前後のsingle-cell RNA-seqの解析よりT・NK細胞の機能不全が示された。特にその原因としてNECTIN2-TIGITによる免疫抑制が働いていることがInteraction networkの解析から同定された。

iv vivoモデルではPD-L1に加えてTIGITをブロックすることにより長期間の腫瘍抑制効果と生存率の改善を示した。化学療法耐性神経芽腫に対する #免疫チェックポイント阻害剤 の併用療法の有用性を示した点が期待できる。

担当:工藤麗 @Reik0110

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JC-025(Mar 8, 2024)
DNAトランスロケースSMARCAL1の喪失は二重のメカニズムで腫瘍免疫を回避することに関わる

"SMARCAL1 is a dual regulator of innate immune signaling and PD-L1 expression that promotes tumor immune evasion"
Cell. 2024 Feb 15;187(4):861-881.e32. doi: 10.1016/j.cell.2024.01.008. Epub 2024 Jan 31.

DNAトランスロケースSMARCAL1の喪失は

✅ゲノム不安定性の結果生じるcGAS-STINGシグナルによる自然免疫を活性化
✅同時にクロマチンアクセシビリティを変化させてPD-L1の発現を抑制

二重のメカニズムで腫瘍免疫を回避することに関わる。
DNA損傷応答(DDR)とクロマチン制御が、抗腫瘍免疫に影響を与える事が知られていた。しかし、これまで自然免疫応答とPD-L1の両方を調節する特定のDDRおよびクロマチン関連遺伝子は解明されていなかった。本研究はその点で新規性がある。

担当:栗川美智子

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JC-024(Mar 1, 2024)
血液がんの病態理解に新たな視点

"Inherited blood cancer predisposition through altered transcription elongation"
Cell. 2024 Feb 1;187(3):642-658.e19. doi: 10.1016/j.cell.2023.12.016. Epub 2024 Jan 12.

UK Biobank約16万人のデータからRVASで骨髄性腫瘍の遺伝性希少バリアントを同定した論文。PAF1転写伸長複合体を構成するCTR9遺伝子の部分喪失が、造血幹細胞の自己再生能を高め、血液がんのリスクを10倍増加させることを示した。

さらに、CTR9が転写伸長の正の調節因子であるPAF1cの構成因子でありながら、造血幹細胞の自己複製に必要な遺伝子の転写伸長に働くSuper elongation複合体の形成において拮抗的に働くことを示し、血液がんの病態理解に新たな視点をもたらした。

担当:山内浩文 @HiroYama0123

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JC-023(Feb 21, 2024)
将来のTCF4をターゲットとした治療戦略へ発展する可能性

"A TCF4-dependent gene regulatory network confers resistance to immunotherapy in melanoma"
Cell. 2024 Jan 4;187(1):166-183.e25. doi: 10.1016/j.cell.2023.11.037.

#免疫チェックポイント阻害薬 (ICB)による治療に抵抗性を示すメカニズムを検討。メラノーマのecosystemに注目しmesenchymal-like (MES) stateとその調節遺伝子としてTCF4が #免疫微小環境 とICBに対する抵抗性に影響を及ぼす可能性が示された。

Single-cell RNA sequenceと空間オミックス解析を組み合わせて、治療早期に採取された検体の中でICB/non-responderと診断された群でTCF4が高発現し、免疫関連遺伝子の抑制に関わる点を示した点が面白く、将来のTCF4をターゲットとした治療戦略へ発展する可能性がある。

担当:前之園良一 @r_maenosono

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JC-022(Feb 15, 2024)
腫瘍樹状細胞においてpSAPがTGF-βにより過剰糖化すると、抗原提示能が低減し、免疫回避に寄与する

"Hyperglycosylation of prosaposin in tumor dendritic cells drives immune escape"
Science. 2024 Jan 12;383(6679):190-200. doi: 10.1126/science.adg1955. Epub 2024 Jan 11.

本研究では、プロサポシンpSAPがCD8+T細胞を介した #腫瘍免疫 を惹起する一方で、腫瘍樹状細胞においてpSAPがTGF-βにより過剰糖化すると、抗原提示能が低減し、免疫回避に寄与することが明らかになった。

糖化を至適化したリコンビナントpSAPにより、腫瘍に対する免疫応答を回復させることが可能であった。抗PD-L1抗体と併用すると、腫瘍移植マウスの腫瘍増殖が抑制され、#免疫チェックポイント阻害薬 に対する治療抵抗性を克服する可能性が示唆された。

担当:高崎哲郎

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JC-021(Feb 7, 2024)
ReDeeMはシングルセル解析情報からmtDNA由来情報を濃縮し解析する新たな手法として応用が期待される

"Deciphering cell states and genealogies of human hematopoiesis"
Nature. 2024 Jan 22. doi: 10.1038/s41586-024-07066-z. Online ahead of print.

Sankaran @bloodgenes , Weissman @JswLab らは #シングルセル解析 における新たな細胞系譜解析手法ReDeeMを報告した。同手法は細胞系譜解析の解像度を約10倍向上させ、HSCクローンの分化傾向の差異・加齢に伴うクローナリティ減少が明らかになった。

ミトコンドリアDNA(mtDNA)は細胞あたり100-1,000コピー存在し、変異頻度はゲノムDNAよりも10-100倍高いため細胞系譜を識別するバーコードとなる。ReDeeMは #シングルセル解析 情報からmtDNA由来情報を濃縮し解析する新たな手法として応用が期待される。

担当:網代将彦 @Masahiko_Ajiro

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JC-020(Feb 1, 2024)
腫瘍特異的な環状RNAが免疫療法の標的となりうることが示された

"Tumour circular RNAs elicit anti-tumour immunity by encoding cryptic peptides"
Nature. 2024 Jan;625(7995):593-602. doi: 10.1038/s41586-023-06834-7. Epub 2023 Dec 13.

ヒト乳がん検体でRibo-seq, HLA-Iペプチドーム質量分析等を組み合わせることにより、腫瘍特異的に発現するnon-coding領域由来の環状RNA、circFAM53Bから翻訳されるペプチドがcryptic antigenとなり、#抗腫瘍免疫 が惹起されることが明らかになった。
circFAM53Bとそのペプチドの発現は生存率向上と関連し、マウスモデルでもこれらの接種による抗腫瘍効果が認められた。#免疫療法 の標的となりうる抗原性を持つCDS変異はごく一部にとどまるが、今回腫瘍特異的な環状RNAが免疫療法の標的となりうることが示された。

担当:吉田澪奈

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JC-019(Jan 24, 2024)
膵癌におけるsuper enhancer RNA (seRNA)のm6A修飾がクロマチン構造を制御する新機能が発見された

"Super-enhancer RNA m6A promotes local chromatin accessibility and oncogene transcription in pancreatic ductal adenocarcinoma"
Nat Genet. 2023 Dec;55(12):2224-2234. doi: 10.1038/s41588-023-01568-8. Epub 2023 Nov 13.

膵癌におけるsuper enhancer RNA (seRNA)のm6A修飾がクロマチン構造を制御する新機能が発見された。CFL1とMettl3が協調してseRNAをメチル化し、この修飾を認識したTYHDC2がMLL1と複合体を形成し、H3K4がメチル化される。
seRNA m6Aレベルが高い膵癌患者は予後不良の傾向を示し、CFL1過剰発現した膵癌細胞株は悪性度が高まることから、CFL1を介したseRNAのメチル化が膵癌のドライバーである可能性と、これらが、治療標的となる可能性が示唆された。

担当:河知あすか @AsukaKawachi

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JC-018(Jan 22, 2024)
非浸潤性乳がんモデルにおいて、癌に関連した炎症により造血・間葉系幹細胞の転写・空間的分布が変化し、Myeloid-biasedな分化が誘導される

"Breast cancer remotely imposes a myeloid bias on haematopoietic stem cells by reprogramming the bone marrow niche"
Nat Cell Biol. 2023 Dec;25(12):1736-1745. doi: 10.1038/s41556-023-01291-w. Epub 2023 Nov 30.

この論文では、非浸潤性乳がんモデルにおいて、癌に関連した炎症により造血・間葉系幹細胞の転写・空間的分布が変化し、Myeloid-biasedな分化が誘導されることが見出された。
本論文で示された造血幹細胞の骨髄分化は、間葉系幹細胞の骨分化傾向が関与しており、造血幹細胞および間葉系幹細胞の分子レベルでのクロストーク、そして分化誘導におけるがん細胞由来の因子の役割の解明が待たれる。

担当:栗川美智子

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JC-017(Jan 10, 2024)
肺癌病変の成熟マクロファージにおけるIL-4シグナルは抗腫瘍免疫応答には関与しない

"An IL-4 signalling axis in bone marrow drives pro-tumorigenic myelopoiesis"
Nature. 2024 Jan;625(7993):166-174. doi: 10.1038/s41586-023-06797-9. Epub 2023 Dec 6.

#非小細胞肺癌 では、骨髄内好酸球と好塩基球由来のIL-4が顆粒球・単球系前駆細胞に作用し、単球由来マクロファージによる抗腫瘍免疫応答を抑制する。
さらに、IL-4阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤の併用療法の有効性を臨床試験で示している。

肺癌病変の成熟マクロファージにおけるIL-4シグナルは抗腫瘍免疫応答には関与しないことが示されており、興味深い。
また、乳癌や膵癌でも腫瘍微小環境におけるIL4の重要性が報告されており、今後様々な癌種の新規治療に結びつく可能性がある。

担当:武藤朋也 @mucyotomo

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JC-016(Dec 28, 2023)
CUT&RUN を用いた検討によりZNF683がCD69/KLRF1やTCF7などの免疫関連遺伝子のregulatory regionに結合しT細胞のpathwayを調節する可能性を示した

"ZNF683 marks a CD8+ T cell population associated with anti-tumor immunity following anti-PD-1 therapy for Richter syndrome"
Cancer Cell. 2023 Oct 9;41(10):1803-1816.e8. doi: 10.1016/j.ccell.2023.08.013. Epub 2023 Sep 21.

慢性リンパ球性白血病に由来するRichter症候群が抗PD-1抗体に反応するメカニズムを骨髄17検体のsingle cell RNA sequenceで検討。Responderは転写因子であるZNF683を発現するintermediate exhausted CD8 effector/memory effecter T細胞を有していた。

CUT&RUN を用いた検討によりZNF683がCD69/KLRF1やTCF7などの免疫関連遺伝子のregulatory regionに結合しT細胞のpathwayを調節する可能性を示した点は面白い。末梢血や固形癌でもZNF683発現が見られ、今後ZNF683が抗PD-1抗体治療のキーの一つとなる可能性がある。

担当:前之園良一

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JC-015(Dec 25, 2023)
がんの発生には腫瘍特異的なエピジェネティックドライバーが関与する一方、TP53, Hypoxia, TNF signalingなどの共通因子も存在

"Epigenetic regulation during cancer transitions across 11 tumour types"
Nature. 2023 Nov;623(7986):432-441. doi: 10.1038/s41586-023-06682-5. Epub 2023 Nov 1.

Single-nucleus(sn) ATAC-seqとsnRNA-seqを用いて、がん横断的にエピゲノムとトランスクリプトームを同時に解析。がんの発生には腫瘍特異的なエピジェネティックドライバーが関与する一方、TP53, Hypoxia, TNF signalingなどの共通因子も存在した。

本研究では臨床検体では難しかったがん発生過程のエピジェネティックな変化について、がん細胞と、発現パターンやchromatin accessibilityからがんに一番近い正常細胞とを比較することにより明らかにした。このような解析からエピジェネティックな新規標的の同定が期待される。

担当:工藤麗 @Reik0110

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JC-014(Dec 13, 2023)
GoT-SpliceはRNAスプライシング情報を統合した新たなシングルセル多層オミクス解析パイプラインであり、本研究では骨髄異形成症候群患者細胞に適用することでSF3B1変異細胞が赤血球前駆細胞に集積することが見出された

"Single-cell multi-omics defines the cell-type-specific impact of splicing aberrations in human hematopoietic clonal outgrowths"
Cell Stem Cell. 2023 Sep 7;30(9):1262-1281.e8. doi: 10.1016/j.stem.2023.07.012. Epub 2023 Aug 14.

GoT-SpliceはRNAスプライシング情報を統合した新たなシングルセル多層オミクス解析パイプラインであり、本研究では骨髄異形成症候群患者細胞に適用することでSF3B1変異細胞が赤血球前駆細胞に集積することが見出された。

本解析手法はONTロングリード解析によりRNAスプライシング変動を捉えることを特色とし、悪性腫瘍で認められる多様なRNAスプライシング異常の機能的理解に向けた有力な解析ツールと期待される。

担当:網代将彦 @Masahiko_Ajiro

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JC-013(Dec 8, 2023)
腫瘍特異的なネオ抗原候補のセットをminigeneで樹状細胞に導入してナイーブT細胞と反応させるユニークな手法を用いて、FLT3 D835Y変異に反応するT細胞を作製し、同変異を有するAMLのPDXモデルへの治療に用いて有望な結果を得た

"A T cell receptor targeting a recurrent driver mutation in FLT3 mediates elimination of primary human acute myeloid leukemia in vivo"
Nat Cancer. 2023 Oct;4(10):1474-1490. doi: 10.1038/s43018-023-00642-8. Epub 2023 Oct 2.

本論文では腫瘍特異的なネオ抗原候補のセットをminigeneで樹状細胞に導入してナイーブT細胞と反応させるユニークな手法を用いて、FLT3 D835Y変異に反応するT細胞を作製し、同変異を有するAMLのPDXモデルへの治療に用いて有望な結果を得た。
同治療モデルでは微小残存病変陰性を達成し、CD34+ AML細胞を排除することに成功したことから、FLT3 D835Y変異を標的とするT細胞免疫療法の今後の展開が期待される。 

担当:山内浩文 @HiroYama0123 

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JC-012(Dec 4, 2023)
in vivo CRISPR スクリーニングとsingle cell RNA-seqを組み合わせることで(scCRISPR screen)、CD8陽性T細胞(CTL)の分化を制御する遺伝子ネットワークと遺伝子チェックポイントが同定された

"Single-cell CRISPR screens in vivo map T cell fate regulomes in cancer"
Nature. 2023 Nov 15. doi: 10.1038/s41586-023-06733-x. Online ahead of print.

in vivo CRISPR スクリーニングとsingle cell RNA-seqを組み合わせることで(scCRISPR screen)、CD8陽性T細胞(CTL)の分化を制御する遺伝子ネットワークと遺伝子チェックポイントが同定された。
IKAROS-TCF-1経路は前駆疲弊T細胞(Tpex)から疲弊T細胞(Tex)への分化を促進し、ETS-BATF経路は抑制的に働く。RPBJ-IRF3経路はTexの最終疲弊化を誘導する。ICI抵抗性の改善に寄与する新たな標的の同定が期待される。

担当:河知あすか @AsukaKawachi

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JC-011(Nov 27, 2023)
肝内胆管癌においてKRAS変異が、インターロイキン1受容体アンタゴニスト(IL1RN)-201とIL1RN-203の発現上昇を通じて、腫瘍微小環境を抗腫瘍的に変化させることを同定した

"An Inflammatory Checkpoint Generated by IL1RN Splicing Offers Therapeutic Opportunity for KRAS-Mutant Intrahepatic Cholangiocarcinoma"
Cancer Discov. 2023 Oct 5;13(10):2248-2269. doi: 10.1158/2159-8290.CD-23-0282.

本研究では、肝内胆管癌において#KRAS変異が、インターロイキン1受容体アンタゴニスト(IL1RN)-201とIL1RN-203の発現上昇を通じて、#腫瘍微小環境を抗腫瘍的に変化させることを同定した。

IL1RNのalternative splicingを通じた腫瘍微小環境の変化は、IL-1阻害薬とPD-1阻害薬の相乗効果を説明する根拠となりうる。スプライシング因子ではないKRAS変異が、炎症に関連した特有のalternative splicingを惹起し、新規チェックポイントを創出するという新規性が大変興味深い。

担当:西村一希

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JC-010(Nov 15, 2023)
ヒストン脱メチル化酵素KDM3Bとヒストンメチル化酵素G9aによるH3K9me01月02日ならびに転写制御因子CTCF占有率の不適切なバランスを介したMLL遺伝子増幅と染色体異常の促進が示された

"Epigenetic balance ensures mechanistic control of MLL amplification and rearrangement"
Cell. 2023 Oct 12;186(21):4528-4545.e18. doi: 10.1016/j.cell.2023.09.009. Epub 2023 Oct 2.

#MLLは白血病の代表的原因遺伝子である。今回、ヒストン脱メチル化酵素KDM3Bとヒストンメチル化酵素G9aによるH3K9me01月02日ならびに転写制御因子CTCF占有率の不適切なバランスを介したMLL遺伝子増幅と染色体異常の促進が示された。

ドキソルビシン投与はKDM3BとCTCFの発現低下を介した治療関連MLL遺伝子増幅ならびに染色体異常を誘導した一方で、G9a阻害剤はこれらの異常を抑制したことから、本研究がMLL遺伝子増幅や染色体異常を制御する新規治療に結びつく可能性がある。

担当:武藤朋也 @mucyotomo

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JC-009(Nov 9, 2023)
膜タンパク質を標的にしたIn vivo CRISPR-Cas9スクリーニングで同定したCD300ldは、腫瘍微小環境TMEの構成要素で免疫応答に抑制的に働く顆粒球様骨髄由来免疫抑制細胞を腫瘍にリクルートすることにより腫瘍増大に寄与する

"CD300ld on neutrophils is required for tumour-driven immune suppression"
Nature. 2023 Sep;621(7980):830-839. doi: 10.1038/s41586-023-06511-9. Epub 2023 Sep 6.

膜タンパク質を標的にしたIn vivo CRISPR-Cas9スクリーニングで同定したCD300ldは、腫瘍微小環境 TME の構成要素で免疫応答に抑制的に働く顆粒球様骨髄由来免疫抑制細胞 (PMN-MDSCs) を腫瘍にリクルートすることにより、腫瘍増大に寄与する。

さらに、S1008A/9AがCD300ldの下流で作用し腫瘍増大に寄与していること、S1008A/9AがSTAT3によって制御されることを明らかにした。また、CD300ldを失活させることで、TMEのリモデリングが生じ、抗PD-1抗体と相乗効果を引き起こす可能性が示唆された。

担当: 高崎哲郎

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JC-008(Nov 1, 2023)
PD-1欠損は解糖系-アセチルCoAの産生による代謝プログラムの変化を引き起こし、AP-1転写因子の活性を介して増悪に寄与する

"PD-1 instructs a tumor-suppressive metabolic program that restricts glycolysis and restrains AP-1 activity in T cell lymphoma"
Nat Cancer. 2023 Oct;4(10):1508-1525. doi: 10.1038/s43018-023-00635-7. Epub 2023 Sep 18.

T細胞リンパ腫のPD-1機能欠損は高頻度にみられ、病勢の増悪に関わるが、今回PD-1欠損は解糖系-アセチルCoAの産生による代謝プログラムの変化を引き起こし、AP-1転写因子の活性を介して増悪に寄与することがマウスモデルと臨床検体で示された。

PD-1がT細胞リンパ腫の代謝に関与するという点は興味深く、今後は PDCD1変異症例に対するAKT-mTOR–HIF1α–ACLYパスウェイをターゲットとする治療法の開発につながる可能性がある。

担当:工藤麗 @Reik0110

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JC-007(Oct 25, 2023)
Long Read Sequencing を用いた神経系の全長の mRNA isoform の同定と定量により、globalなTSSとPASの選択の対応関係が示された

"Sites of transcription initiation drive mRNA isoform selection"
Cell. 2023 May 25;186(11):2438-2455.e22. doi: 10.1016/j.cell.2023.04.012. Epub 2023 May 12.

転写において、転写開始点(TSS)とポリアデニル化部位(PAS)は複数箇所から選択され多様な成熟mRNAを産生する。今回Long Read Sequencingを用いた神経系の全長のmRNA isoformの同定と定量により、globalなTSSとPASの選択の対応関係が示された。

さらに組織ごとに使用されるTSSには傾向があり、TSSに対応するPASが選択されることで、組織特異的に発現するmRNA isoformが調節される。また、TSS-PASの対応関係がある遺伝子のpromoterと3’末端はエピジェネティック修飾や結合因子の動員により特徴づけられることも一部示された。

担当:吉田澪奈

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JC-006(Oct 18, 2023)
NSUN2m5Cメチル化酵素として知られているが、ブドウ糖がNSUN2を直接活性化することでオンコプロテイン活性を調整する

"NSUN2 is a glucose sensor suppressing cGAS/STING to maintain tumorigenesis and immunotherapy"
Cell Metab2023 Oct 3;35(10):1782-1798.e8. doi: 10.1016/j.cmet.2023.07.009. Epub 2023 Aug 15.

NSUN2m5Cメチル化酵素として知られているが、本論文ではブドウ糖がNSUN2を直接活性化することでオンコプロテイン活性を調整することを示した。またTREX2発現を維持することでがんの発生と免疫療法への抵抗性を促進することを示した。 

さらに、ブドウ糖/NSUN2/TREX2の関連遺伝子の欠失は、cGAS/STINGの活性化を介して、アポトーシスとCD8+ T細胞の腫瘍への浸潤を促進し、免疫細胞の浸潤が少ない"cold tumor"におけるがんの発生を抑制し、抗PD-L1免疫療法への抵抗性を克服する一助になり得ることを示した。 

担当:山内浩文 @HiroYama0123 

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JC-005(Oct 11, 2023)
CD44陽性肺癌幹細胞から派生した血管ペリサイトが、血管内外への移行能を獲得し、脳内で脱分化することで脳転移を引き起こす

"CD44+ lung cancer stem cell-derived pericyte-like cells cause brain metastases through GPR124-enhanced trans-endothelial migration"
Cancer Cell2023 Sep 11;41(9):1621-1636.e8. doi: 10.1016/j.ccell.2023.07.012. Epub 2023 Aug 17.

肺腺癌が脳に転移するメカニズムの詳細は不明であった。本論文ではCD44陽性肺癌幹細胞から派生した血管ペリサイトが、血管内外への移行能を獲得し、脳内で脱分化することで脳転移を引き起こすことを明らかにした。 

さらに、一連の過程では血管ペリサイト内でGPR124-Wnt-βカテニンシグナルが増強している事を発見し、この経路が治療標的になりうる可能性を示唆した。 

担当栗川美智子

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JC-004(Oct 2, 2023)
CD58-CD2軸の欠損がT細胞活性低下を惹起し、T細胞の浸潤・増殖を阻害することで免疫回避を促進する

"The CD58-CD2 axis is co-regulated with PD-L1 via CMTM6 and shapes anti-tumor immunity"
Cancer Cell. 2023 Jul 10;41(7):1207-1221.e12. doi: 10.1016/j.ccell.2023.05.014. Epub 2023 Jun 15.

CD58発現と免疫チェックポイント阻害薬抵抗性との関連が近年指摘されたが、その詳細なメカニズムは明らかでない。本論文では、CD58-CD2軸の欠損がT細胞活性低下を惹起し、T細胞の浸潤・増殖を阻害することで免疫回避を促進することを明らかにした。

さらにCRISPRスクリーニングを用いて、CMTM6がCD58発現を正に制御することを同定し、CD58とPD-L1がCMTM6を介して互いの発現を制御し合うことを明らかにした。これらの発見は、#免疫チェックポイント阻害薬 に対する耐性を克服する一助になり得る。

担当:西村一希

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JC-003(Sep 20, 2023)
cDC1の特定のsubpopulationがCD8+ T細胞の免疫応答を活性化する

"A distinct stimulatory cDC1 subpopulation amplifies CD8+ T cell responses in tumors for protective anti-cancer immunity"
Cancer Cell 2023 Aug 14;41(8):1498-1515.e10. doi: 10.1016/j.ccell.2023.06.008. Epub 2023 Jul 13

がん免疫療法 は細胞障害性リンパ球が要である一方で、腫瘍組織内でその活性化を調整するメカニズムは明らかではなかった。
この研究ではcDC1の特定のsubpopulationがCD8+ T細胞の免疫応答を活性化することが示されている。

DeepLearning を用いた画像解析技術により腫瘍免疫の動態がさらに深掘りされた点は面白く、特定の免疫細胞の役割を理解しがん免疫療法の新たな戦略を開発する可能性がある。

担当:前之園良一

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JC-002(Sep 13, 2023)
1wellで300以上の GPCR を同時評価するスクリーニング技術"PRESTO-Salsa"

"Highly multiplexed bioactivity screening reveals human and microbiota metabolome-GPCRome interactions"
Cell 2023 Jul 6;186(14):3095-3110.e19. doi: 10.1016/j.cell.2023.05.024. Epub 2023 Jun 14

GPCRのligandが結合してarrestin-TEV adaptorがrecruitされると、GPCRに融合させたtTAがTEVにcleaveされて核内移行→Reporterのbarcodeを転写→NGSで活性化したGPCRを同定することがわかりました。

細胞膜受容体中で最大ファミリーであるGPCRは、リガンドの包括的なスクリーニングが技術的に困難とされています。"PRESTO-Salsa"は、より効率的なスクリーニングを実現し、人体生理において中心的な役割を果たすGPCRに関する理解を大きく促す可能性があります。

担当:高崎哲郎

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JC-001(Sep 6, 2023)
スプライシング因子RBFOX2の喪失によるスプライシング制御異常が膵がんの転移を促進する

"RBFOX2 modulates a metastatic signature of alternative splicing in pancreatic cancer"
Nature 2023 May;617(7959):147-153. doi: 10.1038/s41586-023-05820-3. Epub 2023 Mar 22

 
我らが共同研究者Woody(Kuan-Ting Lin)たちが、ミッション・インポシブルと嘆きながらも(笑)
見事にまとめた論文を、記念すべきジャーナルクラブ第1回目の論文として取り上げました。

これまで膵管腺癌PDAはDEG解析等から予後因子等の知見は得られていましたが、転移能獲得の決定因子は不明でした。今回、転移性PDAが特徴的なスプライシング変動を示すことに着目して解析し、RBFOX2の発現消失が転移能獲得を決定づけることがわかりました。

 がんのスプライシング異常はまだまだ未解明の要素が多く、今後も発展が期待されます。

担当:網代将彦

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