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国立がん研究センター 東病院

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研究について

見逃し少ない大腸内視鏡検査

大腸内視鏡検査で、見逃しなく病変を発見することは大切です。しかし、1回の検査で約25%の腫瘍性病変を見逃されていると報告されています。その原因として、1つは、ひだ裏、屈曲等の盲点による見逃し、もう1つは凹凸が目立たず視認しにくい平坦・陥凹性病変の見逃しが考えられています。
盲点による見逃しを改善するため、広角内視鏡、アタッチメント装着等の有効性が報告されています。当院も、330度の超広角内視鏡と140度の通常内視鏡での多施設ランダム化比較試験に参加しましたが、超広角内視鏡の方が、病変発見の指標である腺腫性病変発見割合(adenoma detection rate:ADR)も高く、見逃し率は低い結果でありました。そのことから、盲点での見逃しを減らすためにも今後広角レンズの内視鏡の必要性を強く感じています。
視認しにくい病変の見逃しに関しては、Narrow Band Image(NBI)やBlue Laser Imaging (BLI)、Linked Color Imaging(LCI)等の画像強調観察が有効であると考えています。当院での検討を含め、多くの比較試験が行われ、画像強調観察の方が白色光観察より発見率が高く、特に微小病変、平坦病変の発見に有用であると報告されています(Ikematsu H, et al. J Gastroenterol. 2012 Oct;47(10):1099-107、Ikematsu H, et al. Gastrointest Endosc. 2017 Aug;86(2):386-394)。図1のような微小さい病変だけでなく、図2のがん病変でも画像強調観察の方が視認しやすいことが分かっていただけると思います。

図1
大腸内視鏡検査_図1 

図2
大腸内視鏡検査_図2

画像強調観察が、一般病院や初学者の先生方にも有用であるかを検討しましたところ、一定の経験が必要であるとこも分かりました。
上記以外にもう一つ見逃しの原因があるのではと考えています。内視鏡医がどのような目線で検査しているかは過去調査されていないため、アイトラッキングを使用して観察中の目線を検討してみました(Kumahara K, et al. Dig Endosc. 2019 Sep;31(5):552-557)。結果いろいろな見方をしていることが明らかになりましたが、大きく図3のように分かれました。その中でもDefect typeの検査医は、ある一定の部分を見ない傾向にあることが分かりました。その検査医は、見ない部分にある病変を認識しないで検査され見逃してしまうことが予想されます。また、観察の見方によってADRに差があることも分かってきました。そのため、現在開発されているAIを用いた観察が、補助的に必要になってくる可能性があると考えています。

図3
 大腸内視鏡検査_図3

今後も、病変の見逃しない大腸内視鏡検査を目指し研究を継続していきます。

酸素飽和度イメージング内視鏡

がんの内部には、血流の不均衡や腫瘍による圧排で酸素飽和度が低い低酸素の領域があることが知られています。低酸素のがんは、血流が悪かったり活性酸素が発生しにくいことが原因で、抗がん剤治療や放射線治療が効きにくいことが以前から報告されています。我々は、企業と共同研究を行い、消化管がんの酸素飽和度をリアルタイムに測定できる内視鏡「酸素飽和度イメージング内視鏡」を開発しました。当院で行った動物実験や臨床試験の結果、酸素飽和度イメージングは客観的に正しく粘膜表面の酸素飽和度を測定できていること、一部の早期消化管がんは低酸素の腫瘍であることを明らかにしました。(Kaneko K, et al. PLoS One 2014, DOI: 10.1371/journal.pone.0099055)これらの結果を基に、2017年に酸素飽和度イメージング内視鏡は、内視鏡イメージングとしては我が国で初めて薬事承認を取得しています。

図1.早期胃がんの内視鏡画像(左側が通常の内視鏡画像、画面中央に早期胃がんが写っています。右側が酸素飽和度イメージング内視鏡画像、周囲の粘膜と比べるとがんの部分が青く見え、低酸素であることが確認できます。)
酸素飽和度イメージング_図1a酸素飽和度イメージング_図1b

一方で、酸素飽和度イメージング内視鏡を実用化するための課題として、特に進行したがんの評価では、がんの表面に付着した血液などがノイズになり、正確な酸素飽和度が測定できなくなるという問題点がありました。この課題を解決するために、我々は企業と共同研究を行い、通常内視鏡画像の画像情報から算出したデータを基に酸素飽和度画像内の付着物とがんの部分を判別するアルゴリズムを開発し、特許出願を行い論文発表しました。(Nishihara K, et al. PLoS One 2021, DOI: 10.1371/journal.pone.0243165)

図2.進行胃がんの内視鏡画像(左側が通常の内視鏡画像。がんの所々に血液が付着しています。右側が酸素飽和度イメージング内視鏡画像、血液が付着した部分の酸素飽和度が正確に測定できなくなっています。)
酸素飽和度イメージング_図2a酸素飽和度イメージング_図2b

これらの研究により、酸素飽和度イメージング内視鏡画像は、より正確にがんの酸素飽和度を測定できるようになります。今後は、がんの生物学的な性質や深さの診断、抗がん剤治療や放射線治療の効果予測などでの有効性を明らかにするために研究を継続していきます。

近赤外ハイパースペクトルイメージング内視鏡の開発

近赤外光は生体透過性が優れていることが知られており、通常の可視光では見ることができない生体深部(数十mm程度)の情報を得ることができます。また、ハイパースペクトルイメージングカメラは撮影した1画素毎に物質の波長情報を得ることができるため、その波長毎の特徴を基に物質の性質の違いを見分けることができます。我々は、東京理科大学、理化学研究所と共同研究を行っており、これらの特性を組み合わせた近赤外ハイパースペクトルイメージング(Near-Infrared Hyper spectral imaging: NIR-HSI)を用い、通常の内視鏡では見ることができない生体深部の情報を可視化する内視鏡の開発を行っています。この技術の応用先の一つとして、表面からは直接見ることができない腫瘍の観察や診断に用いることを検討しています。現在私達が通常の検査で使用している内視鏡は、あくまで胃や大腸などの粘膜表面を観察し、腫瘍の種類や広がり方の診断をしています。そのため粘膜の下に腫瘍が潜っている場合には、その種類や広がり具合を診断することは困難ですが、NIR-HSIによってそれが可能となることが期待されています。我々は、下図(a)にあるようなNIR-HSIカメラを用いて粘膜の下に発生する特徴をもつ消化管間質腫瘍(Gastrointestinal Stromal Tumor: GIST)の手術直後の検体を撮像、機械学習を用いて解析し、粘膜下にあるGISTを認識できるか検証を行いました。その結果、高い精度でGISTが存在する領域を識別することが可能でした(b)(Sato D, et al. Sci Rep. DOI: 10.1038/s41598-020-79021-7)。

図.a: NIR-HSIカメラ。ステージの上に手術検体を置いて撮像します。
図.b: GIST手術検体と機械学習によるGIST領域予測結果。GIST検体は粘膜に覆われているため、表面からはGISTを直接見ることはできませんが、NIR-HSIと機械学習を組み合わせることでGISTが存在する領域を予測することが可能です。 

近赤外ハイパースペクトルイメージング_図a 近赤外ハイパースペクトルイメージング_図b


今後は、粘膜下に潜り込んで広がっていく胃がんの範囲診断への応用や、手術中の腫瘍部位の同定支援、日常診療で使用している内視鏡にも搭載可能な小さなサイズのNIR-HSIデバイス開発などの研究を継続していきます。

【プレスリリース】近赤外光を利用したハイパースペクトル画像から粘膜下腫瘍(GIST)を識別~GISTの早期発見、切除部位の最小化につながる画像識別手法の開発に成功~

難治性食道狭窄に対する治療開発

食道は内腔が2-3cmの長細い管状です。胃や腸と比べて細いため、がんを治療した影響で細くなることがあります。これを狭窄(きょうさく)といいます。食道が狭窄すると食事の通過障害症状がおきるため、患者さんのQOL(生活の質)が著しく下がってしまいます。また栄養状態低下やうつ状態など2次的な影響を引き起こすこともあります。
食道癌に対する治療では内視鏡治療・外科的手術・化学放射線治療のいずれの治療においても、約15%の患者さんで治療後に狭窄が起きることが知られています。また、胃癌の手術後や頭頚部癌や肺癌の放射線治療後にも食道の狭窄が起きることもあります。
狭窄がおきた場合、内視鏡を用いたバルーン拡張術(風船による拡張)で治療を行います。バルーン拡張術は、多くの場合1回の治療では治りきらないため、2週間に1回程度の頻度で繰り返しの治療が必要です。当院の治療成績を調べたところ、難治性狭窄(拡張5回で改善しない狭窄)は外科的手術では45%、内視鏡治療と化学放射線治療では75%でした。(Yoda Y. et al. Surg Endosc. 2012. DOI: 10.1007/s00464-012-2273-9) 現状のバルーン拡張術は治療期間が長く、より効率的な治療法の開発が求められています。
我々は、新たな狭窄治療として、欧州で使用されている生分解性ステントの日本導入に向けて臨床開発を行っています。このステントはポリジオキサノンという生体で吸収・分解される素材でできており、留置後2-3ヶ月後に分解される特性を持っています。我々は2013年に先進医療Bに申請し、食道癌治療後の狭窄18例に対してこのステントで治療を行いました。(研究代表:矢野友規) その結果、12人(67%)で3カ月間の有効性を確認しました。(Yano T. et al. Gastrointest Endosc. 2017. DOI: 10.1016/j.gie.2017.01.011) この良好な治療成績を受けて、国内企業が日本導入に向けて動き出し、現在、企業治験・薬事申請準備を進めています。

 
図1.生分解性ステントELLA-CS社製(外科吸収糸と同じポリジオキサノンでできている。留置後2-3ヶ月後に生体内で加水分解されるため、抜去は不要。
難治性食道狭窄_図1     

図2.食道の難治性狭窄〔左〕とステント留置後〔右〕(高度な食道狭窄に対して生分解性ステントを留置した。内腔は開存し、食物の通り道が確保されている。)
難治性食道狭窄_図2a  難治性食道狭窄_図2b

人工知能を用いた内視鏡診断補助機器

内視鏡画像を機械に学習させ、病変の有無や質的診断を補助する人工知能システムを開発しています。画像診断における機械学習の領域は近年大きな進歩が得られている領域であり、機械学習に関する専門家との連携を通じて内視鏡診断への応用を進めています。

早期胃癌の自動検出

胃癌の画像から多数の微小な領域を多数切り出し、データを拡張して学習する事により、少数の正解画像により構築された人工知能による、早期胃がんの高精度な自動検出法を確立しました。

1.早期胃がんの正解画像からランダムに切り出した「がん」と「正常」の学習用画像

がんの部分、正常の部分をランダムにそれぞれ一万枚切り出、あわせて約2万枚の画像を取得しています。

早期胃がんの正解画像からランダムに切り出した「がん」と「正常」の学習用画像(図)

2.タイプ別の早期胃がんの自動検出例

緑色は医師が癌と診断した領域、紫色は癌を自動検出した領域を示しています。
多量の微小領域を学習させる事により、がんの形態によらず高い検出能(86%)が認められました。

タイプ別の早期胃がんの自動検出例(図)

大腸ポリープの自動検出

セグメンテーションデータ付き一般画像を事前学習したアルゴリズムを用いる事により、少数の学習用画像により構築された、大腸ポリープの自動検出法を確立しました。

1.微小な大腸ポリープの検出例

微小な大腸ポリープを自動的に検出し、赤い四角で囲んで提示しています。

微小な大腸ポリープの検出例(図)

2.学習画像数と、大腸ポリープの検出能の推移

高い学習効率を持つ事前学習モデルを用いることにより、少数の学習用画像
(learned image)で、高い正診率(98%)を達成しています。
学習画像数と、大腸ポリープの検出能の推移(図)

咽喉頭表在がんの自動検出

咽喉頭領域のがんは早期発見が難しいとされてきましたが、NBI(Narrow band image)システムという特殊な波長を用いて内視鏡観察する方法が考案されて以降、早期発見率が向上してきました。しかしながら咽喉頭領域は解剖学的にも複雑な構造をしており、また内視鏡挿入時に咽頭反射が起きやすく観察が難しい場合や、内視鏡での細胞の採取が難しい場合もあり、がんの発見、観察、診断は必ずしも容易ではありません。
近年、消化管領域(食道、胃、大腸)において、人工知能によるがんを含む腫瘍性病変の早期発見の有用性が報告されるようになり、内視鏡の診断補助機能の一つとして注目されています。咽喉頭領域のがんを含む腫瘍性病変の早期発見にも、人工知能の利用が有効なのではないかと考えられます。
我々は咽喉頭表在がんと正常な咽喉頭領域粘膜の内視鏡画像を学習させて咽喉頭領域の表在がんの検出のための人工知能モデルを作成し、その性能を検証しました(Inaba A, et al. Head and Neck 2020, DOI: 10.1002/hed.26313)。静止画像のみを用いた検証でしたが、感度(がんがある部位に対して「がんがある」と判断できる確率)は95.5%と非常に高い数値を示しました。

図1. 咽喉頭表在がんの検出例(青色の枠:内視鏡専門医が表在がんがある部位を囲った範囲、赤色の枠:人工知能が表在がんがあると予測して囲った範囲、10mm以下の表在がんも内視鏡専門医と同じように検出できています)
 咽喉頭表在がんAI-図1

また、がんのない正常な咽喉頭領域の粘膜を追加学習させることで、特異度(がんがない部位に対して「がんがない」と判断できる確率)が改善する(学習前:83.6%→学習後:98.4%)ことも明らかになりました。

図2. 人工知能に対する内視鏡画像の学習枚数と性能の推移について
 咽喉頭表在がんAI-図2

これらの研究をもとに現在、我々は企業との共同研究を行い内視鏡動画を利用してリアルタイムに咽喉頭表在がんを検出するための人工知能モデルの開発を進めています。