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卵巣がんの治療について

卵巣がんとは

子宮の左右にある卵巣から発生するがんです。その原因は腫瘍のタイプによって様々ですが、他のがんと同様に若い年代には少なく、年代が上がるにつれて患者数が増える傾向にあります。HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)という遺伝的に乳がんや卵巣がんにかかりやすい家系の方が卵巣がん患者の約10%を占めることが分かっており、この場合は若い年代の方でも発症するリスクが高くなります。

初期には自覚症状が全くなく、腫瘍が大きくなったり腹水が溜まってくると腹部の張りや腹痛、排尿時の違和感といった自覚症状が出ます。進行が速いため検診は一般的には行われておらず、約半数の方がIII期・IV期の進行した状態になって診断されます。

また卵管がん、腹膜がんも卵巣がんと非常に良く似た性質を持っており、検査や治療法は全く同じものです。

病期(ステージ)について

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出典:日本婦人科腫瘍学会(編):患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第2版, 金原出版, p154, 2016

病期(ステージ)ごとの治療法

I期

腫瘍が卵巣内に限局している状態です。子宮摘出、両側付属器(卵巣、卵管)摘出に加えて、大網(たいもう)切除、リンパ節郭清(かくせい)(骨盤から傍大動脈)を行います。画像検査(CT、MRI)では分からない微小な転移の有無を調べるためであると同時に、再発しやすい臓器をあらかじめ切除しておくことで、将来的な再発を減らすためです。

またI期の場合は妊孕性温存(妊娠機能を残す)治療についてもご相談可能です。

II期

腫瘍が骨盤内の他の臓器(子宮、骨盤腹膜、直腸など)に転移している状態です。II期以上は進行がんと分類され、卵巣がんに特化した手術の技術が必要となります。

国立がん研究センター東病院 婦人科では腹膜に転移がある場合には骨盤腹膜切除という、国内ではまだ限られた施設でしか行っていない手術に先進的に取り組んでいます。また直腸に転移がある場合は大腸外科と連携して直腸切除も行います。こうした手術方法を組み合わせることで、ほとんどの症例で腫瘍を全て取りきることが可能です。

III期、IV期

腫瘍がお腹全体に広がってしまった状態(III期)、または肝臓や肺などの臓器に遠隔転移してしまった状態(IVA期)です。治療法は大きく2つに分けられます。

1.手術を先に行う方法


 拡大手術で腫瘍をできる限り切除(理想的には全て切除)

化学療法で目に見えない残った腫瘍を叩く

 メリット:手術で腫瘍を全て取りきれた場合、2より治療成績がいい

 デメリット:多臓器の合併切除が必要なため体への負担が大きく、術後合併症も多い

 2.化学療法を先に行う方法


化学療法で腫瘍を小さくする

拡大手術で腫瘍をできる限り切除(理想的には全て切除)

化学療法で目に見えない残った腫瘍を叩く

 メリット:腫瘍が縮小・消失しており切除範囲が少なくて済むため体への負担が少ない

 デメリット:手術で腫瘍を全て取りきれた場合でも、1より治療成績が悪い

1の手術で腫瘍を全て取りきれた場合の治療成績(再発率、死亡率)が最も良いため、当院では1を基本的な治療方針としています。

国立がん研究センター東病院 婦人科では上腹部の腹膜に転移がある場合には全壁側腹膜切除術という、国内ではまだ限られた施設でしか行っていない手術に先進的に取り組んでいます。腸に転移がある場合は大腸外科と連携して腸管切除を行い、肝臓に転移がある場合は肝胆膵外科と連携して肝臓部分切除も行います。こうした手術方法を組み合わせて、可能な限り腫瘍を取りきることを目指しています。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)に対する予防的卵巣卵管切除(RRSO)について

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC;Hereditary Breast and Ovarian Cancer)とは、BRCA1/2という遺伝子に異常があるため、乳がんや卵巣がんにかかりやすい遺伝性の疾患です。一般女性が生涯で卵巣がんを発症する確率は約1%ですが、HBOCの方ではその確率は8から62倍と非常に高いことが分かっています。さらに、卵巣がんは早期発見が難しく、診断された時点で進行していることが多い病気です。

そのため2020年4月より、HBOCの方を対象に、予防的卵巣卵管切除(RRSO;risk reducing salpingo-oophorectomy)という手術が保険適応になりました。RRSOは、まだ卵巣がんを発症していない正常な卵巣・卵管をあらかじめ摘出しておくことで、将来の発がんを予防するための手術です。

 

国立がん研究センター東病院 婦人科ではRRSOを腹腔鏡手術で行っています。おへそからカメラをお腹の中に挿入し、術者はその映像を見ながら、下腹部2から3ヶ所からお腹に挿入した鉗子で手術を行います.手術時間は30分から1時間程度です。傷はいずれも1から2センチメートルと非常に小さいため術後の痛みも開腹手術に比べると小さく、体力の回復も早く、傷も目立ちにくくなります。

国立がん研究センター東病院 遺伝子診療部門ではHBOCに関するカウンセリングも行っておりますので、お気軽にご相談ください。

更新日:2020年9月29日