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胸腺腫と胸腺がん

胸腺とは

 胸腺は胸骨の裏にある組織で、骨髄で作られた未熟なリンパ球(Tリンパ球*)が正常に働くようにする役割を担っています。胸腺の機能は幼児期まで活発に働き、思春期で最も大きくなり、その後は年齢とともに萎縮していき、脂肪組織と置き換わることで周囲の脂肪組織と見分けがつきにくくなります。そのため胸腺腫や胸腺がんで胸腺を切除しても、健康に影響がでることはありません。

*Tリンパ球はおおまかにはウイルスやがん細胞を攻撃する細胞障害性T細胞(CD8T細胞)と、他のリンパ球の働きを手助け・調節するヘルパー-T細胞(CD4T細胞)に分けられます。

胸腺1     胸腺2
                                          
                           がん情報サービス旧ページより転載

胸腺腫とは

胸腺の上皮(じょうひ)から発生する腫瘍で、30歳以上に発生することが多く、男女同程度の発症頻度です。人口10万人あたり0.5%前後の発症頻度と、比較的稀な疾患です。
時に、他の縦隔腫瘍と異なり、重症筋無力症、赤芽球癆(せきがきゅうろう)と、低ガンマグロブリン血症、筋炎など様々な合併症を起こすことが知られています。
遠隔転移をきたした症例を除き、基本的には外科切除が治療の第一選択となります。完全切除ができない場合は薬物療法や放射線治療を行う場合がありますが、手術で腫瘍を取り除く(縮小する)ことで、症状のコントロールや予後改善する可能性があります。

重症筋無力症

胸腺腫の23-25%に合併します。筋肉の力が弱くなる病気で、疲れやすくなったり、眼瞼下垂(まぶたが下がる)、複視(ものが二重に見える)、手足の筋力低下などを認めます。また呼吸筋が弱くなることで息がしにくくなることがあります。無症状の胸腺腫患者においても術後重症筋無力症が0.9-20%に発症すると報告されています。

赤芽球癆

胸腺腫の0.7-2.6%に合併し、赤血球がつくられなくなることで貧血の症状を認めます。

低ガンマグロブリン血症

胸腺腫の0.4-0.7%に合併する稀な病気です。体を守る免疫反応が不十分となり、感染が起こりやすくなります。

胸腺がんとは

胸腺の上皮から発生する悪性腫瘍であり、胸腺腫よりも頻度は低く、予後不良です。また、胸腺腫でみられるような重症筋無力症などの合併症は伴いません。
治療方法については胸腺腫と同様、外科切除が第一選択となります。

胸腺腫の手術

胸腺腫の手術は、腫瘍の切除、もしくは腫瘍を含む胸腺摘出術を行います。また病期に応じて、化学療法や放射線療法と組み合わせ手術を行うこともあります。

胸腺腫の手術で特徴的なことは、肺がんとは異なりstageIV期の場合でも手術を行うことがあります。完全に取り切ることができなくても、可能な限り切除することを目指します。胸腺腫は、このように完全切除ができなくても、手術を行わなかった場合よりも生存期間を延長すると考えられており、私たちは切除対象と考えられる場合は積極的に手術を行っています。

胸膜播種(きょうまくはしゅ)に対する手術

胸膜播種

胸膜播種とは腫瘍が胸腔内に広がる状態で、胸腺腫の進行や再発した場合に多く認めます。胸腺腫が胸腔内にこぼれることで、壁側胸膜(胸郭の裏側)や肺胸膜(肺の表面)に広がります。このような状態でも播種病変の切除を行い、中には播種を繰り返す場合ありますが、可能な限り切除を行い生存期間の延長を目します。

胸腺腫に対する拡大手術

胸腺は心臓、大動脈などの重要な臓器に隣接しており、胸腺腫が増大することにより周囲の臓器へ進展します。このような場合でも人工心肺を使用したり、人工血管置換などを用いて完全切除を目指し手術を行います。

更新日:2022年3月16日