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新型コロナウイルス感染症の基礎知識
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の一般的な特徴
- 咳などの呼吸器症状が中心で、多くは軽症だが一部重症化することもある
- 初期は風邪との区別が困難な症状(発熱や咳など)だが、改善なく持続悪化する場合は注意が必要
- 発熱や咳などがない患者さんも多いため、発熱や咳がなくても体調がすぐれない場合には新型コロナウイルス感染症への注意が必要

新型コロナウイルスに感染し、発症した際の症状は発熱や咳が中心で、通常の風邪と見分けがつきにくいことが多いとされています。ウイルスに感染しても少なくとも3分の1は無症状との報告がありますが(参考文献1)、その正確な割合はわかっていません。
症状を有する多くの症例は軽症で自然に改善し、約80%の症例は軽症~中等症、約15%が重症(呼吸苦、呼吸数の増加、血中酸素濃度の低下など)、約5%が重篤(呼吸不全、敗血症性ショック、多臓器不全など) と報告されています。(参考文献1)
世界保健機関(WHO)のデータでは2021年11月4日時点で約2.5億人の感染者のうち約502万人が死亡しており、2%の感染者が亡くなられています(参考文献3)。
国内372施設5194例の登録データのうち2020年5月31日までの症例を第1波、7月31日までのデータを第2波として検討したところ、第1波では重症例(死亡例)が33.1%(7.3%)だったのに対し第2波では12.0%(1.2%)まで減少していました。(参考文献4)。しかし、直近の第5波ではワクチンによる影響などから重症化率、死亡率は下がってきています。例えば大阪府の報告では第4波、第5波の重症化率(死亡率)はそれぞれ3.2%(2.8%)、1.0%(0.3%)と報告されています。(参考資料5)また、死亡率には年齢が大きく関連し、高齢者ほど死亡率が高いことが知られています。
新型コロナウイルス感染症を発症した患者さんでは咳や筋肉痛、頭痛などが多く、ほかにも下痢や咽頭痛、嗅覚・味覚障害などもよく報告されています。
2020年7月7日までに国内227施設から登録された2638例の検討では、入院時の症状は以下の表のような結果でした。軽症・中等症患者さんの入院時には発熱や咳などの症状は半分程度でしか見られていません。(参考文献6)。 米国の37万人を超えるデータでも同様に38度以上の発熱は43.1%、咳が50.3%と報告されています(参考文献7)。また、約01月03日は食思不振、下痢、吐き気や嘔吐、腹痛などの消化器症状で発症します(参考文献8)。たとえ発熱や咳がなくても体調不良と感じた時には注意しましょう。
入院時の症状(参考文献6より一部改変)
入院時軽・中等症 | 入院時重症 | |
---|---|---|
37.5度以上の発熱 | 44.5% (799/1796) | 71.7% (602/840) |
咳 | 50.3% (902/1975) | 61.3% (514/839) |
倦怠感 | 35.5% (638/1797) | 52.1% (438/840) |
呼吸困難 | 14.2% (256/1797) | 48.3% (406/840) |
下痢 | 11.0% (198/1797) | 14.7% (123/839) |
咽頭痛 | 14.5% (261/1797) | 12.0% (101/840) |
味覚障害 | 20.7% (372/1798) | 9.5% (80/840) |
嗅覚障害 | 18.3% (328/1797) | 8.2% (69/840) |
注)入院時重症:酸素投与、人工呼吸器管理(侵襲的、非侵襲的)、呼吸回数が1分あたり24回以上、酸素飽和度(SpO2)94%以下のいずれかを満たす場合
重症化する症例の多くは、発熱や咳などの症状が出現してから5日から8日後ぐらいから急速に悪化することが多いことが報告されていますが、がん患者さんなど基礎疾患を有している人は発症数日で悪化する場合もあるため注意が必要です。
ダイアモンドプリンセス号で感染した患者さん104名を診療した自衛隊中央病院からの報告では、無症状もしくは軽微な症状を有する患者さんでも、約半数に肺に異常陰影があることが報告されています。 (参考文献9)。
新型コロナウイルス感染症から回復後も長期間の呼吸困難感や倦怠感、咳、脱毛症などに苦しむ患者さんがおられることも国内から報告されています(参考文献10)。また、20%前後の症例にPTSD(心的外傷後ストレス障害)や記憶障害、集中力に問題を来すといった海外の報告もあります。(参考文献11)
【参考文献】
- Oran DPらの報告(Ann Intern Med. 2021)(外部サイトにリンクします)
- WHOと中国を含む25か国専門家による報告(2020年2月25日)(クリックすると和訳のPDFが開きます)(外部サイトにリンクします)
- WHOのホームページ(外部サイトにリンクします)
- Saito Sらの報告(J Infect 2021)(外部サイトにリンクします)
- 第60回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議(令和3年10月21日)(クリックするとPDFが開きます)(外部サイトにリンクします)
- Matsunaga Nらの報告(Clin Infect dis 2020)(外部サイトにリンクします)
- Stokes EKらの報告(MMWR2020)(外部サイトにリンクします)
- Cheung KSらの報告(Gastroenterology.2020)(外部サイトへリンクします)
- Tabata Sらの報告(Lancet Infect Dis 2020)(外部サイトにリンクします)
- Miyazato Yらの報告(Open Forum Infect Dis. 2020)(外部サイトへリンクします)
- Halpin SJらの報告(J Med Virol. 2021)(外部サイトへリンクします)
検査と診断について

厚生労働省が新型コロナウイルス感染症として診断し、届出を行う基準(確定例)として、熱や咳などの症状に加えて、ウイルスの培養検査による検出もしくは拡散増幅法(PCR検査など)、抗原検査による検出を必要としています。一般的な機関ではウイルスの培養検査はその危険性のため実施されていませんので、PCR検査や抗原検査が診断にとって大きな役割を果たします。
しかし、この届出基準は厚生労働省が行う疫学調査(国内でどの程度新型コロナウイルス感染症が蔓延しているのかを調べる調査)目的の定義であり、実際の臨床現場ではPCR検査や抗原検査が陰性であっても新型コロナウイルス感染症として対応することもあります。これはPCR検査や抗原検査の精度が100%ではないためです。
検査精度指標の一つとして“感度"というものがあります。
"感度“とは、新型コロナウイルス感染症の患者さんにPCR検査を行ったところ、何人中何人(何%)が陽性となるかの割合です。採取する時期によって感度が異なり、発熱などを伴い発症する曝露から5日目頃は62%、8日目頃には80%程度と推定する報告があります。(参考文献1)。
最終的にPCR検査が陽性になり、新型コロナウイルス感染症と診断された患者さんのうち、1回目の検査で陽性となった患者さんの割合が70.6%という中国の報告(参考文献2)や、88.6%というシンガポールの報告(参考文献3)などがあります。このため、“PCR検査が陰性“という結果を持って、"新型コロナウイルス感染症ではない"とは言えません。
抗原検査についても同様に“検査結果が陰性=新型コロナウイルス感染症ではない“とは必ずしも言えない点に注意が必要です。
【参考文献】
- Kucirka LMらの報告(Ann Intern Med. 2020)(外部サイトにリンクします)
- Fang Yらの報告(Radiology 2020)(外部サイトにリンクします)
- Lee THらの報告(Clin Infect Dis 2020)(外部サイトにリンクします)
重症例となるリスク因子
高齢、併存疾患がある方は注意が必要

60歳以上は重症化や死亡のリスクが高く、特に80歳以上では21.9%の方が亡くなったと中国のデータでは示されています。
併存疾患がない患者さんのうち、亡くなられた方は1.4%である一方、併存疾患がある場合は、心血管系疾患13.2%、糖尿病9.2%、高血圧8.4%、慢性呼吸器疾患8.0%と高かったことが報告されています。またがん患者さんもリスクが高くなっており、7.6%の方が亡くなったと報告されています(参考文献1)。
その他にも慢性腎臓病や心疾患(心不全や心筋症)、肥満、妊娠、喫煙(過去の喫煙歴も含む)なども重症化と関連することが知られています(参考文献2)。
国内のデータでも、重症患者さんには心血管疾患や糖尿病、慢性呼吸器疾患、肥満の方の割合が多く見られました(参考文献3)。
【参考文献】