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新型コロナウイルスの抗ウイルス薬について

抗ウイルス薬の種類と対象
抗ウイルス薬には内服薬と点滴薬があります。
がん患者さんが新型コロナウイルス感染症を発症した場合は抗ウイルス薬治療をうけることが推奨されます。

  • ワクチン接種を受けている患者さんでも感染時には抗ウイルス薬が推奨されます。
  • 症状がない方への処方や、予防目的の処方は行われません。
  • 新型コロナウイルスによる肺炎によって酸素投与が必要なほど重症化した患者さんへは点滴薬
    (レムデシビル)が使われます。
  • 新型コロナウイルスによる肺炎がない、もしくは肺炎があっても酸素投与が不要な場合は、一般的にはニルマトレル/リトナビルが推奨されますが、使用できない場合はレムデシビルもしくはモルピラビルが推奨されます。
分 類 薬の名前 飲み方・使い方 特徴
内服薬

パキロビッドパック®
(ニルマトレルビル・リトナビル)(錠剤)
ラゲブリオ®(モルヌピラビル)(錠剤、カプセル)

1日2回内服 肺炎による酸素投与が
不要な場合
点滴薬 ベクルリー®(レムデシビル) 数日点滴 肺炎による酸素投与が
必要な場合にも使用可能

 

対象となる方

発症から5‐7日以内かつがん患者さんや高齢者のように重症化リスクのある人
ここでは主に重症化リスクのない人に対して処方されるエンシトレルビル [ゾコーバ®]の説明は省
略します。

診療の手引きによる推奨

今までの研究結果を踏まえて新型コロナウイルス感染症診療の手引き第10.1版(参考:外部サイトにリンクし、pdfが開きます。26ページの図等参照)ではがん患者さんのような重症化リスクが高い人は以下の順で推奨されています。
1.ニルマトレルビル/リトナビル[パキロビッドパック®内服]
2.レムデシビル[ベクルリー®点滴]もしくはモルヌピラビル[ラゲブリオ®内服]の順で推奨されています。

  • 内服薬は重症化に至っていない、肺炎がない、もしくは肺炎があっても酸素投与が不要な患者さんに処方されます。
  • 点滴薬のレムデシビルは肺炎により酸素が必要な患者さんにも使用されます。

 

薬剤名 商品名 投与方法 主な使用対象
ニルマトレルビル
/リトナビ
パキロビッドパック® 内服 肺炎がない、もしくは肺炎でも酸素が不要な
重症化リスクの高い人
モルヌピラビル ラゲブリオ® 内服 パキロビッドが使えない場合など
レムデシビル ベクルリー® 点滴 肺炎により酸素が必要、または内服困難時

 

抗ウイルス薬の効果と研究報告について
近年、重症化リスクがあまり高くない(例:死亡率が0.1%前後)の人を対象とした大規模臨床試験で、抗ウイルス薬の効果が乏しいといった報告があります。

しかし、がん患者さんや高齢者の方はこれらの研究の被験者より重症化リスクはずっと高いため、これらの研究結果をがん患者さんへの治療効果予測に用いることは難しいと考えられます。
実際の処方に関しては、担当の先生とご相談ください。

 

抗ウイルス薬の予防的投与について
現時点ではこれらの抗ウイルス薬は、

  • 新型コロナウイルス感染症に罹患した無症状の方
  • 罹患していない方
    に予防的に投与することはできません。



費用負担について
2024年3月31日で新型コロナウイルス治療薬や入院医療費の特別な公費支援制度は終了し、現在では他の疾病と同様の、医療保険の自己負担割合および高額療養費制度のもとでの診療となります。

 

時 期 治療薬の費用 入院費用 制度
~2024年3月 公費負担あり 公費負担あり 特例支援制度
2024年4月~ 自己負担あり 自己負担 通常の医療保険

 

<参考文献>
1.新型コロナウイルス感染症COVID-19診療手引き第10.1版 (外部サイトにリンクし、PDFが開きます。)
2.Cortellini Aらの報告(Lancet Oncol.2023)(外部サイトへリンクします)
3.Roberts Tらの報告(Blood Cancer J.2024)(外部サイトへリンクします)
4.Cortellini Aらの報告(Lancet Oncol.2023)(外部サイトへリンクします)

ニルマトレルビル/リトナビル(内服薬:パキロビッドパック®)

薬の基本情報
発症から5日以内の開始が推奨される
1日2回5日間の内服薬
併用できない薬剤が多い
処方の際には現在の内服薬との飲み合わせを確認する必要があるため、お薬手帳を医療者に提示することが必要
ワクチン接種を受けていても、がん患者さんは抗ウイルス薬治療を受けることが推奨されます

 

効果と有効性に関するエビデンス

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2022年1月から2023年11月まで(オミクロン株流行期)の観察研究をまとめて解析した研究(メタ解析)では、ニルマトレルビル/リトナビルの治療をうけた場合、偽薬(プラセボ)もしくは抗ウイルス薬を用いない治療と比較すると、死亡率は1.1%から0.3%(69%の減少;95%信頼区間:21‐46%)、入院もしくは死亡の割合は3.7%から2.3%(38%の減少;95%信頼区間55-70%)に減少したことが報告されています。 [外部サイトにリンクします] この研究では、ワクチン接種あり群とワクチン接種なし群との間の抗ウイルス薬の効果の割合には大きな差はありませんでした。

ワクチンを接種している場合でも抗ウィルス薬は必要
ワクチンも重症化リスクを低下させることが示されていますが、ワクチンを接種している人でも感染時にニルマトレルビル/リトナビルを服用することで、さらに重症化リスクを下げることができたという研究報告もあります。(2022年4月から8月に実施された、50歳以上もしくは18歳以上で重症化リスクがある人を対象とした研究。ワクチン非接種かつ非投薬患者を基準とした新型コロナウイルス感染症による入院のハザード比注1:ワクチン3回以上接種で抗ウイルス薬の内服なし0.51[95%信頼区間0.47-0.55]、ワクチン3回以上接種およびニルマトレル/リトナビルの内服0.22[0.19-0.24][外部サイトにリンクします])また、服用開始後、症状が再燃すること(リバウンド)の報告があり注意が必要ですが、モルヌピラビル服用時や、抗ウイルス薬を服用していない場合でもリバウンドすることがあり、現在までのところリバウンドを懸念して服用を控えるべきではないと推奨されています。

 

合併症や後遺症への効果

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オミクロン株流行期にニルマトレルビル/リトナビルを投与した患者さんでは死亡だけでなく、心血管系疾患(心不全や冠動脈疾患など)や呼吸器疾患(慢性肺疾患や間質性肺炎など)、慢性腎疾患などの合併が少なかったことが報告されています。[外部サイトにリンクします] 2023年11月までのメタ解析でも後遺症を25%減少させることが示されています。

注1:ハザード比:抗ウイルス薬を服用した患者さんとしなかった患者さんが一定の期間内に新型コロナウイルス感染症で入院する確率が同じ場合はハザード比が1となります。服用した患者さんの入院する確率の方が低い場合にはハザード比が1を下回ります。(つまり、1より小さくなればなるほど服用した患者さんの入院リスクが低く、逆にハザード比が1を超えて大きな値となるほど抗ウイルス薬を服用した患者さんの入院リスクが高いということになります。)

<参考文献>
1.Roberts Tらの報告(Blood Cancer J.2024)(外部サイトへリンクします)
2.Roberts Tらの報告(Blood Cancer J.2024)(外部サイトへリンクします)
3.Roberts Tらの報告(Blood Cancer J.2024)(外部サイトへリンクします)
4.Cortellini Aらの報告(Lancet Oncol.2023)(外部サイトへリンクします)
5.Roberts Tらの報告(Blood Cancer J.2024)(外部サイトへリンクします)
6.Roberts Tらの報告(Blood Cancer J.2024)(外部サイトへリンクします)

 

レムデシビル(点滴薬:ベクルリー®)

薬の基本情報
発症から7日以内の開始が推奨される
1日1回3日間
肺炎がある場合は5日間、症状の改善が認められない場合は10日目まで延長する場合あり
呼吸状態が悪化し、酸素が必要となった場合にも使用されます

 

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効果と有効性に関するエビデンス
オミクロン株流行期に感染した免疫不全患者さんのうちレムデシビルを投与した約4000人と投与しなかった約4000人の14日後の死亡割合を比較したところ、投与しなかった群の死亡率が14.9%に対し、投与群では11.5%と低かった(ハザード比0.75)ことが報告されています。

 

臨床効果を検討した複数の研究をまとめで解析した検討では、抗ウイルス薬を用いない治療とレムデシビルを比較した結果、死亡のリスクが減少した(オッズ比0.88注2 95%信頼区間:0.78-1.00)ことが示されています。(2022年4月までの9研究を検討した結果

注2:オッズ比:レムデシビルを投与された患者さんが新型コロナウイルス感染症罹患後に死亡する確率Pを、死亡しない確率(1-P)で割った値(P/1-P)をオッズと呼びます。このオッズ(新型コロナウイルス感染症後に死亡するオッズ)をレムデシビルを投与されていない患者さんの死亡オッズで割った値がオッズ比です。両者のオッズが同じ場合オッズ比が1となります。レムデシビル投与された患者さんの方が新型コロナウイルス感染症後に死亡するリスクが低い場合にオッズ比は1を下回ります。(つまり、オッズ比が1より小さくなればなるほどレムデシビル投与により死亡リスクが低くなり、逆に1を超えて大きな値となるほどレムデシビル投与によって死亡リスクが高くなることになります。)

 

<参考文献>
1.Cortellini Aらの報告(Lancet Oncol.2023)(外部サイトへリンクします)
2.Cortellini Aらの報告(Lancet Oncol.2023)(外部サイトへリンクします)

 

モルヌピラビル(内服薬:ラゲブリオ®)

薬の基本情報
発症から5日以内の開始が推奨される
1日2回5日間の内服薬
妊娠もしくは妊娠している可能性のある場合は避ける

 

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効果と有効性に関するエビデンス
約26000人(死亡率0.03%)を対象に行われた2021年12月~2022年4月の英国での研究(PANORAMIC試験、非投与群の入院もしくは死亡の割合は1%未満)では新型コロナウイルス感染症による入院もしくは死亡の割合をモルヌピラビルは減らせませんでした。

日本や米国の推奨では、ニルマトレル/リトナビルが処方できない場合(高度な腎機能障害の存在や、ニルマトレルビル/リトナビルと併用できないお薬を服用されている場合など)にモルヌピラビルが推奨されています。このようなニルマトレルビル/リトナビルが使えない患者さんにおけるモルヌピラビルの効果を評価したイスラエルでの研究(2022年1月~2023年2月)では、入院もしくは死亡のリスクを半分に減らしました(リスク比0.5 [95%信頼区間:0.39-0.64] 約1か月後の死亡率:未治療群3.7%、治療群1.8%)。

 

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国立がん研究センター東病院では腎機能障害や併用できない薬剤の影響などでニルマトレルビル/リトナビルを使用できない場合には米国や国内の推奨に従ってモルヌピラビルを処方しています。

オミクロン株流行期に感染した重症化リスク因子のある患者さんのうちモルヌピラビルを投与した約1.1万人と投与しなかった約22万人の30日以降の後遺症合併割合を比較したところ、投与しなかった群の21.6%に対し、投与群では18.6%と低かった(約14%減少)ことが報告されています(米国での2022年1月~2023年1月の研究 参考 [外部サイトにリンクします] )。2023年11月までのメタ解析でも後遺症を12%減少させることが示されています。[外部サイトにリンクします]

 

<参考文献>
1.Cortellini Aらの報告(Lancet Oncol.2023)(外部サイトにリンクします)
2.COVID-19治療の種類(Blood Cancer J.2024)(外部サイトにリンクします)
3.Roberts Tらの報告(Blood Cancer J.2024)(外部サイトにリンクします)
4.Bowe Bらの報告(Lancet Oncol.2023)(外部サイトにリンクします)
5.Roberts Tらの報告(Blood Cancer J.2024)(外部サイトにリンクします)

 

 

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更新日:2024年11月1日