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新型コロナウイルスの抗ウイルス薬について

発症から1週間以内かつがん患者さんや高齢者のように重症化リスクのある人に対して使用されることのある抗ウイルス薬についてご説明します。(ここでは重症化リスクが低い人に対して処方されるエンシトレルビル [ゾコーバ®]の説明は省略します。)

それぞれの薬剤の効果を直接比較した大規模研究はありませんが、過去の研究結果を踏まえて新型コロナウイルス感染症診療の手引き第10版(参考 外部サイトにリンクし、pdfが開きます。24ページの図等参照  )ではがん患者さんのような重症化リスクが高い人へは➀ニルマトレルビル/リトナビル、➁レムデシビル、➂モルヌピラビルの順で推奨されています。➀と➂は経口薬で重症化に至っていない、酸素吸入が不要な患者さんに処方されます。➁は酸素が必要な患者さんにも使用されることがあります。

実際の処方に関しては、担当の先生とご相談ください。

現時点ではこれらの抗ウイルス薬は、新型コロナウイルス感染症に罹患した無症状の方や、罹患していない方に予防的に投与することはできません。

2024年3月31日で新型コロナウイルス治療薬や入院医療費の特別な公費支援制度は終了し、4月以降は他の疾病と同様の、医療保険の自己負担割合および高額療養費制度のもとでの診療となります。

ニルマトレルビル/リトナビル(内服薬:パキロビットパック®)

  • 発症から5日以内の開始が推奨される
  • 1日2回5日間の内服薬
  • 併用できない薬剤が多い
    処方の際には現在の内服薬との飲み合わせを確認する必要があるため、お薬手帳を医療者に提示することが必要

オミクロン株流行期に感染した重症化リスク因子のある患者さんのうちニルマトレルビル/リトナビルを投与した約3.2万人と投与しなかった約26万人の30日後までの入院もしくは死亡した患者さんの割合を比較したところ、投与しなかった群の2.9%に対し、投与群では1.9%と低かった(36%減少)ことが報告されています

2023年6月までの同様の研究をまとめて解析した研究(メタ解析)では、ニルマトレルビル/リトナビルの治療をうけた場合、偽薬(プラセボ)もしくは抗ウイルス薬を用いない治療と比較すると、死亡率は38%(95%信頼区間:29‐50%)に減少したことが報告されています。 [外部サイトにリンクします ]

ワクチンも重症化リスクを低下させることが示されていますが、感染時にニルマトレルビル/リトナビルを服用することで、さらに重症化リスクを下げることができたという研究報告もあります。(2022年4月から8月に実施された、50歳以上もしくは18歳以上で重症化リスクがある人を対象とした研究。ワクチン非接種かつ非投薬患者を基準とした新型コロナウイルス感染症による入院のハザード比注1:ワクチン3回以上接種で抗ウイルス薬の内服なし0.51[95%信頼区間0.47-0.55]、ワクチン3回以上接種およびニルマトレル/リトナビルの内服0.22[0.19-0.24] [外部サイトにリンクします ])

ニルマトレルビル/リトナビルを内服した場合には一定の割合で再燃(リバウンド)が起こることが知られています。このため、服用後もリバウンドには注意が必要ですが、モルヌピラビル服用時や、抗ウイルス薬を服用していない場合でもリバウンドすることがあり、現在までのところリバウンドを懸念して服用を控えるべきではないと推奨されています。(米国での推奨 [外部サイトにリンクします])
オミクロン株流行期に感染した重症化リスク因子のある患者さんのうちニルマトレルビル/リトナビルを投与した約3.6万人と投与しなかった約25万人の30日以降の後遺症合併割合を比較したところ、投与しなかった群の17.5%に対し、投与群では13.0%と低かった(約26%減少)ことが報告されています


オミクロン株流行期に感染した重症化リスク因子のある患者さんのうちニルマトレルビル/リトナビルを投与した約3.6万人と投与しなかった約25万人の30日以降の後遺症合併割合を比較したところ、投与しなかった群の17.5%に対し、投与群では13.0%と低かった(約26%減少)ことが報告されています

注1:ハザード比:抗ウイルス薬を服用した患者さんとしなかった患者さんが一定の期間内に新型コロナウイルス感染症で入院する確率が同じ場合はハザード比が1となります。服用した患者さんの入院する確率の方が低い場合にはハザード比が1を下回ります。(つまり、1より小さくなればなるほど服用した患者さんの入院リスクが低く、逆にハザード比が1を超えて大きな値となるほど抗ウイルス薬を服用した患者さんの入院リスクが高いということになります。)

レムデシビル(点滴薬:ベクルリー®)

  • 発症から7日以内の開始が推奨される
  • 1日1回3日間
    肺炎がある場合は5日間、症状の改善が認められない場合は10日目まで延長
    呼吸状態が悪化し、酸素が必要となった場合でも使用される場合あり


オミクロン株流行期に感染した免疫不全患者さんのうちレムデシビルを投与した約4000人と投与しなかった約4000人の14日後の死亡割合を比較したところ、投与しなかった群の死亡率が14.9%に対し、投与群では11.5%と低かった(ハザード比0.75)ことが報告されています。

臨床効果を検討した複数の研究をまとめで解析した検討では、抗ウイルス薬を用いない治療とレムデシビルを比較した結果、死亡のリスクが減少した(オッズ比0.88注2 95%信頼区間:0.78-1.00)ことが示されています。(2022年4月までの9研究を検討した結果  [外部サイトにリンクします] )

注2:オッズ比:レムデシビルを投与された患者さんが新型コロナウイルス感染症罹患後に死亡する確率Pを、死亡しない確率(1-P)で割った値(P/1-P)をオッズと呼びます。このオッズ(新型コロナウイルス感染症後に死亡するオッズ)をレムデシビルを投与されていない患者さんの死亡オッズで割った値がオッズ比です。両者のオッズが同じ場合オッズ比が1となります。レムデシビル投与された患者さんの方が新型コロナウイルス感染症後に死亡するリスクが低い場合にオッズ比は1を下回ります。(つまり、オッズ比が1より小さくなればなるほどレムデシビル投与により死亡リスクが低くなり、逆に1を超えて大きな値となるほどレムデシビル投与によって死亡リスクが高くなることになります。)

モルヌピラビル(内服薬:ラゲブリオ®)

  • 発症から5日以内の開始が推奨される
  • 1日2回5日間の内服薬
  • 妊娠もしくは妊娠している可能性のある場合は避ける

    約26000人を対象に行われた2021年12月~2022年4月の英国での研究(PANORAMIC試験)では新型コロナウイルス感染症による入院もしくは死亡の割合をモルヌピラビルは減らせませんでした。 [外部サイトにリンクします]この結果を受けて欧州連合(EU)の医薬品規制当局はモルヌピラビルの不承認勧告を行い、販売会社が欧州における販売承認申請を取り下げています。一方、米国国立衛生研究所(NIH)はPANORAMIC試験の信頼性が高くないと評価し推奨を継続しています[外部サイトにリンクします 2024年3月26日アクセス] 。日本の診療の手引き第10版でも米国と同様に推奨を継続しています。

    2023年6月までの研究(PANORAMIC研究も含む)をまとめて解析した研究(メタ解析)では、モルヌピラビルの治療をうけた場合、偽薬(プラセボ)もしくは抗ウイルス薬を用いない治療と比較すると、死亡率は45%(95%信頼区間:34‐58%)に減少したことが報告されています。 [外部サイトにリンクします] 同様のメタ解析は複数行われています。(例:2022年12月までのメタ解析では死亡リスク43%、入院リスク67%に減少。[外部サイトにリンクします])

    国立がん研究センター東病院では腎機能障害などでニルマトレルビル/リトナビルを使用できない場合には米国や国内の推奨に従ってモルヌピラビルを処方しています。

    オミクロン株流行期に感染した重症化リスク因子のある患者さんのうちモルヌピラビルを投与した約1.1万人と投与しなかった約22万人の30日以降の後遺症合併割合を比較したところ、投与しなかった群の21.6%に対し、投与群では18.6%と低かった(約14%減少)ことが報告されています(米国での2022年1月~2023年1月の研究 参考 [外部サイトにリンクします] )

更新日:2024年4月2日