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研究プロジェクト (Research Projects)

「がんの弱点」を突き、創薬の限界を突破する

~合成致死性に基づく、次世代の精密医療(Precision Medicine)へ~

がん治療学研究分野では、がん細胞に特異的に生じている「遺伝子の欠損(機能喪失)」に着目しています。 がん抑制遺伝子の欠損は、がん細胞にとってのアキレス腱(脆弱性)となり得ます。私たちは、この脆弱性を標的とした「合成致死(Synthetic Lethality)」というアプローチにより、正常細胞を傷つけず、がん細胞だけを死滅させる新しい治療法の開発に取り組んでいます。

当分野の研究は、大きく分けて以下の3つの柱で構成されています。

  1. Core Technology: 独自の「パラログ同時阻害」創薬プラットフォーム
  2. Rare Cancers: 小児がん・希少がんに対する治療法開発
  3. Refractory Cancers: 難治性固形がん(肺・胃・膵)の攻略
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1. 独自の創薬プラットフォーム(Core Technology)

【企業・研究者の方へ】
私たちは、既存のデータベース解析だけでは到達できない「新しい創薬標的」を見つけるための独自のエンジンを持っています。
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世界初のアプローチ「パラログ同時阻害法」

従来の合成致死探索は「1対1(ある遺伝子Aの欠損に対して、遺伝子Bを阻害)」の関係性が主でした。しかし、ヒトの遺伝子には機能が重複する「パラログ(類似遺伝子)」が存在するため、単独阻害では効果が出ないケースが多く存在します。私たちは、「パラログペア(2つの因子)を同時に阻害する」という革新的なスクリーニング手法を確立。これにより、従来法では見落とされていた強力な治療標的を次々と同定しています。

臨床検体直結型スクリーニング(NCC Biobank)

国立がん研究センター(NCC)の強みである、豊富な臨床検体を活用した研究基盤です。

  • 独自細胞株パネル: 公共データベース(DepMap等)に含まれない希少がん・日本人特有のがん細胞株。
  • PDX / オルガノイド: 患者由来の腫瘍組織を用いた、臨床相関性の高い薬効評価系。

Partnering: 当研究室では、このプラットフォームを活用した製薬企業様との共同研究(標的探索、化合物評価、適応拡大検討)を積極的に推進しています。

2. がん種別プロジェクト(Project Details)

【医師・学生の方へ】
臨床現場のアンメットメディカルニーズ(治療法がないという課題)に対し、分子生物学的なアプローチで解決策を提示します。

Category A: 小児がん・希少がんへの挑戦

患者数が少なく、治療開発が遅れている領域こそ、アカデミアが主導すべきフィールドです。

1. ラブドイド腫瘍・類上皮肉腫(小児・AYA世代)

  • Target Mutation: SMARCB1 欠損(ほぼ100%の症例で欠損)
  • Clinical Challenge: 小児や若年成人に発症する極めて予後不良な肉腫であり、有効な分子標的薬が存在しません。
  • Our Solution: パラログ同時阻害法により、CBP/p300の同時阻害が劇的な合成致死を引き起こすことを発見しました(Nature Communications, 2024)。
  • Status: 製薬企業と共同で、臨床応用を目指したCBP/p300阻害剤の開発(最適化フェーズ)を進めています。

2. 卵巣明細胞がん

  • Target Mutation: ARID1A 欠損(約50%の症例で欠損)
  • Clinical Challenge: 日本人女性に多く、従来の抗がん剤が効きにくいサブタイプです。
  • Our Solution: ARID1A欠損がんが持つ「グルタチオン代謝」の脆弱性を発見。GCLC阻害剤による治療効果を証明しました(Cancer Cell, 2019)。
  • Status: 新規代謝拮抗薬としてのシーズ導出・開発の実績。

Category B: 難治性固形がんの攻略

患者数の多いがん(肺・胃・膵)の中に潜む、「薬がない」サブグループを救います。

3. 非小細胞肺がん(NSCLC)

    • Target Mutation: SMARCA4 欠損(約10%)、CREBBP変異(約8%)
    • Clinical Challenge: EGFR変異やALK融合などの「ドライバー変異を持たない(Pan-negative)」患者群に含まれ、分子標的薬の恩恵を受けられません。
    • Our Solution: SMARCA4欠損型肺がんでは、SMARCA4のパラログであるSMARCA2を標的とすること(Cancer Research, 2013)、または、CREBBP欠損型肺がんでは、CREBBPのパラログであるEP300を標的とすること(Cancer Discovery, 2016)で、強力な抗腫瘍効果が得られることを解明しました。
    • Status: SMARCA2選択的阻害剤、およびEP300選択的阻害剤(Journal of Medicinal Chemistry, 2023)の創薬開発パートナーシップの実績。

    4. びまん性胃がん(スキルス胃がん)

    • Target Mutation: ARID1A 欠損(約25%)
    • Clinical Challenge: 腹膜播種を伴いやすく、既存の化学療法(5-FU等)に抵抗性を示す極めて難治性の胃がんです。
    • Our Solution: 独自の細胞株パネルを用いたスクリーニングにより、ARID1A欠損胃がんに特異的な新規合成致死標的の探索を進めています。

    5. 膵臓がん・食道がん

      • Target Mutation: SMAD4 欠損(膵がんの約33%)、KDM6A 欠損(食道がんの約14%)
      • Clinical Challenge: KRAS阻害剤などが開発されつつありますが、依然として5年生存率は低く、多角的な治療戦略が必要です。
      • Our Solution: エピゲノム制御因子や代謝経路に着目し、標準治療抵抗性を克服する新たな標的分子を同定しています。

      3. このラボで習得できるスキル(For Students)

      【大学院生・若手研究者の方へ】
      当分野での研究活動を通じて、アカデミア・製薬企業の双方で求められる高度なスキルを習得できます。

      • 先端ゲノム編集: CRISPR-Cas9を用いた遺伝子ノックアウト、ライブラリースクリーニング。
      • 創薬科学(Drug Discovery): ハイスループットスクリーニング(HTS)、リード化合物の構造活性相関(SAR)理解。
      • バイオインフォマティクス: 次世代シーケンサー(NGS)データ解析、DepMap等のビッグデータマイニング。
      • トランスレーショナルリサーチ: 患者由来モデル(PDX)、in vivo薬効評価、バイオマーカー探索。
      • 論理的思考力: 仮説立案から論文執筆(High Impact Journal)までのロジカルライティング。

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