トップページ > 共通部門のご案内 > 医療安全管理部門 > 感染制御室 > 新型コロナウイルス感染症について > がんと新型コロナウイルス感染症

がんと新型コロナウイルス感染症

最終更新日:2024年2月7日

がんと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について

一部のがん患者さんはかかりやすい

  • がん患者さんは新型コロナウイルス感染症にかかりやすいことが報告されているが、リスクの程度は個々のがん患者さんごとに異なる
    -診断から1年未満、血液がん、肺がんなどはリスクが高い
新型コロナウイルス感染症に関するイラスト画像07

米国の約7340万人(うちがん患者さんが約252万人)の大規模なデータ(2020年8月14日までのデータ)では、がん患者さんは新型コロナウイルス感染症に罹患するリスクが高く(オッズ比1.46 注1)、特に1年以内にがんと診断された患者さん(がん患者さんの約1割)ではさらにリスクが高いという報告があります(オッズ比7.14、参考文献1)。また、1年以内に診断されたがん患者さんに限定すると白血病、非ホジキンリンパ腫、肺がんなどで特にリスクが高いと報告されています(それぞれのオッズ比が12.16、8.54、7.66)。

しかし、このデータでは約9割のがん患者さんは診断から1年以降であり、すべてのがん患者さんのリスクが一様に高いというわけではありません。

  1. Wang Qらの報告 (JAMA Oncol 2021)(外部サイトにリンクします)

    注1 オッズ比:がん患者さんが新型コロナにかかる確率を、新型コロナにかからない確率で割った値をオッズと呼びます。このオッズ(がん患者さんが新型コロナにかかるオッズ)を非がん患者さんが新型コロナにかかるオッズで割った値がオッズ比です。両者のオッズが同じ場合オッズ比が1となります。がん患者さんが新型コロナにかかるオッズの方が高い場合にオッズ比は1を超えます。

一部のがん患者さんは重症化しやすい

  • 一部のがん患者さんは新型コロナウイルス感染症で重症化しやすい
    -高齢、男性、1年以内に診断されたがん、血液がん、肺がんなどはリスクが高い

英国の1700万人のデータ(2020年2月から5月)では、診断から1年未満の固形がん患者さん(約8万人)は死亡のリスクが高かったと報告(ハザード比1.72注2)されていますが、診断から5年以降(約54万人)では死亡のリスクはありませんでした(ハザード比0.96)。血液がんの患者さんでも診断1年未満(約9千人)の方が5年以降(6.3万人)より死亡のリスクが高いことが示されました(ハザード比はそれぞれ2.82、1.62、参考文献1

また、米国の約37万人のがん患者さんのデータ(2020年1月から2021年3月)では、65歳以上(ハザード比1.9)、男性(ハザード比1.11)、血液がん(ハザード比1.2)、がんが複数個所に存在(ハザード比1.3)していることなどが死亡のリスク増加と関連していることが示されました。また、従来からの殺細胞性抗がん剤治療を30日以内に受けた場合は死亡のリスク(ハザード比1.5)となることも示されています(参考文献2)

2021年6月14日までに報告された81の論文をまとめた別の研究でも、58849人のがん患者さんにおけるCOVID-19の死亡率について、がんがない患者さんと比べて全体の相対リスク(Relative Risk : RR、注3)は1.69でしたが、個別にみていくと肺がん(RR 1.68)や血液がん(RR 1.42)などでは有意に上昇していました。(参考文献3)

罹患の時期によるリスクの変化も報告されています。英国で2020年11月から2022年8月の期間を対象にした研究では、がん患者さんにおける新型コロナウイルス感染症において、入院率は2021年初めの30.58%から2022年には7.45%に低下し、死亡率は20.53%から3.25%に減少していました。しかし、非がん患者さんと比べてがん患者さんの入院リスクは2.1倍、死亡リスクも2.54倍でした。(参考文献4

2020年3月から2022年4月までの間にオーストラリアでがん患者さんを対象に行われた調査では、オミクロン株になり酸素投与が必要な症例は減っているものの、酸素投与が必要となるリスクの1つとして早期外来治療を受けていないことなどが示されました。(参考文献5

変異株やワクチンや治療の変化など様々な要因で年々変化しています。がん種や治療状況等は人それぞれ異なるためリスクも各々異なりますが、がん患者さんが新型コロナウイルス感染症を発症した場合には、重症化のリスクを下げるための抗ウイルス薬が適応になる場合があります。普段からかかりつけ医とよく相談しておくと共に、罹患した際には医療機関にご相談ください。(新型コロナウイルスの抗ウイルス薬について参照

またこれらのリスクを踏まえると、現在でも新型コロナウイルス感染症にかからないように日々の生活の中での基本的な感染予防対策を守ることは、がん患者さんにとって引き続きとても重要です。

2018年1月1月から2022年7月2日までの米国でのがん患者さんのデータベース研究においても、COVID-19流行期にはがん患者さんにおけるがん以外の死因の約4-5割をCOVID-19が占めること報告されており、特に流行期はいつも以上に感染予防対策を意識してください。(参考文献6)
新型コロナウイルス感染症にかからないためには「もし、発熱や呼吸器症状がでたら…」も併せてご参照ください。

【参考文献】

  1. Williamson EJ らの報告(Nature. 2020)(外部サイトにリンクします)
  2. Sharafeldin Nらの報告(J Clin Oncol. 2021)(外部サイトにリンクします)
  3. Khoury Eらの報告(JAMA Network Open. 2022) (外部サイトにリンクします)
  4. Starkey Tらの報告(Sci Rep. 2023)(外部サイトにリンクします)
  5. Hall VGらの報告(Lancet Reg Health West Pac. 2023)(外部サイトにリンクします。)
  6. Henley SJらの報告(MMWR 2022)(外部サイトにリンクします)

注2:ハザード比:がん患者さんと非がん患者さんが一定の期間内に新型コロナウイルス感染症に罹患する確率が同じ場合はハザード比が1となります。がん患者さんの罹患する確率の方が高い場合にハザード比は1を超えます。
注3:相対リスク:今回の場合、特定のがん患者さんが非がん患者さんと比べて新型コロナウイルス感染症における死亡リスクが何倍であるかを示しています。

新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)について

新型コロナウイルスに感染した人の中には、長期にわたり罹患後後遺症に悩まされることがあります。WHO は,「post COVID-19 condition」について、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状について、新型コロナウイルス(SARS- CoV-2)に罹患した人にみられ、少なくとも2カ月以上持続し、他の疾患による症状として説明がつかないものとしています。(参考文献1

日本国内の研究では、2020年1月から2021年2月に新型コロナウイルス感染症で入院歴があった方について、診断から12か月以降も何らかの症状が30%程度にみられたと報告されています。(参考文献1

がんの患者さんが新型コロナウイルスに感染した場合、15%の患者さんが4週間以上続く後遺症に悩まされていると欧州の研究で報告されています。(参考文献2)その約半数が慢性の咳や息苦しさなどの呼吸器症状で、約4割の方が慢性疲労で悩まされているとの報告でした。オミクロン株流行下ではがん患者さんの罹患後症状は10%以下に減少してきていることも示されています。このような後遺症に悩まされた場合には当初計画された抗がん剤治療を中断せざるを得なくなる頻度が12%から18%へと増加し、死亡のリスクが高まることが示されています。これに対し、ワクチンの接種はこれらのリスクを軽減することも示されています。 (参考文献3)

【参考文献】

  1. 厚生労働省、COVID-19診療の手引き 別冊罹患後症状のマネジメント 第3.0版(2023年8月)(外部サイトにリンクします)
  2. Pinato DJ らの報告(Lancet Oncol.2021)(外部サイトにリンクします)
  3. Cortellini Aらの報告(Lancet Oncol. 2023)(外部サイトにリンクします)

がん検診やがん患者さんの治療について

新型コロナウイルス感染症で緊急事態宣言が最初に発令された2020年は、その前後の年と比較して日本国内の病院での平均外来患者数が減少したことが厚生労働省から報告されています(参考文献1)。国内の研究でも、新型コロナウイルス感染症の影響で、日本国内でがん検診の受診者数が減少していた時期があったことが報告されています。(参考文献2)

その後の日本国内における全国院内がん登録集計データでは、2020年のがん登録患者数の減少が確認され、2021年以降新規がん登録件数は回復傾向ではあるものの、2020年に診断されなかった患者分の増加がまだみられていないことも報告されています。(参考文献3

日本以外でも、この時期世界の多くの国でがん検診や診療制限が行われ、例年に比べて進行したがんが見つかる割合が増加したことが報告されています。(参考文献4)

こうして診断が遅れることは、治療開始の遅れにつながり、がん治療の成績悪化につながる可能性が示唆されています。(参考文献5,6)

このため、新型コロナウイルス感染症の流行期であっても、気になる症状がある方は検診をしっかりと受けた方が良いと考えられます。

また、2022年7月に報告された米国臨床腫瘍学会のデータベース研究では、2021年7月30日までにCOVID-19感染症と診断されたがん患者さん3028人の内、46%の方で抗がん剤治療の14日以上の遅れまたは中止を経験したとされています。(参考文献7)

現在治療中の患者さんは、がんの種類によっては治療が遅れることを避けた方が良い場合もありますので、治療の延期に関しては主治医の先生とよく相談するようにしましょう。

【参考文献】

  1. 厚生労働省 病院報告(外部サイトにリンクします)
  2. 日本がん検診・診断学会誌 2022; Vol.29 No.3: 173-177.
  3. 国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策研究所がん登録センター、院内がん登録2022年全国集計(2024年1月)
  4. Kuzuu Kらの報告(JAMA Netw Open.2021)(外部サイトにリンクします)
  5. Hanna TPらの報告 (BMJ. 2020)(外部サイトにリンクします)
  6. Ranganathan Pらの報告 (Lancet Oncol. 2021)(外部サイトにリンクします)
  7. Mullangi Sらの報告 (JAMA Network Open. 2022)(外部サイトにリンクします)

COVID-19_NCCHE.png

更新日:2024年2月7日