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がんと新型コロナウイルス感染症

 

がんと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について

 

 

1.一部のがん患者さんはかかりやすい

ポイント
  • がん患者さんは新型コロナウイルス感染症にかかりやすいことが報告されているが、リスクの程度は個々のがん患者さんごとに異なる。
    診断から1年未満、血液がん、肺がんなどはリスクが高い。

 

対象集団 オッズ比
全がん患者 1.46
診断から1年以内のがん患者 7.14
がん種 オッズ比
白血病 12.16
非ホジキンリンパ腫 8.54
肺がん 7.66

米国の約7340万人(うちがん患者さんが約252万人)の大規模なデータ(2020年8月14日までのデータ)では、がん患者さんは新型コロナウイルス感染症に罹患するリスクが高く(オッズ比1.46 注1)、特に1年以内にがんと診断された患者さん(がん患者さんの約1割)ではさらにリスクが高いという報告があります(オッズ比7.14、参考文献[1])。

また、1年以内に診断されたがん患者さんに限定すると白血病、非ホジキンリンパ腫、肺がんなどで特にリスクが高いと報告されています(それぞれのオッズ比が12.16、8.54、7.66)。

しかし、このデータでは約9割のがん患者さんは診断から1年以降であり、すべてのがん患者さんのリスクが一様に高いというわけではありません。

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<参考文献>
[1]Wang Qらの報告(JAMA Oncol 2021)(外部サイトにリンクします)

注1 オッズ比:がん患者さんが新型コロナにかかる確率を、新型コロナにかからない確率で割った値をオッズと呼びます。このオッズ(がん患者さんが新型コロナにかかるオッズ)を非がん患者さんが新型コロナにかかるオッズで割った値がオッズ比です。両者のオッズが同じ場合オッズ比が1となります。がん患者さんが新型コロナにかかるオッズの方が高い場合にオッズ比は1を超えます。

 

2.一部のがん患者さんは重症化しやすい

ポイント
  • 一部のがん患者さんは新型コロナウイルス感染症で重症化しやすい。
  • 高齢、男性、1年以内に診断されたがん、血液がん、肺がんなどはリスクが高い。
  • がんの有無に関わらず65歳以上は重症化のリスクが非常に高い。

 

 

【データ1】英国:診断時期別の死亡リスク(2020年2月~5月)

英国の1700万人のデータ(2020年2月から5月)では、診断から1年未満の固形がん患者さん(約8万人)はがんに罹患していない人と比べて死亡のリスクが高かったと報告(ハザード比1.72注2)されていますが、診断から5年以降(約54万人)では死亡のリスクはありませんでした(ハザード比0.96)。
血液がんの患者さんでも診断1年未満(約9千人)の方が5年以降(6.3万人)より死亡のリスクが高いことが示されました(ハザード比はそれぞれ2.82、1.62、参考文献[1])。

注2:ハザード比:がん患者さんと非がん患者さんが一定の期間内に新型コロナウイルス感染症に罹患する確率が同じ場合はハザード比が1となります。がん患者さんの罹患する確率の方が高い場合にハザード比は1を超えます。

診断時期 患者数(約) ハザード比(死亡リスク)
診断から1年未満 固形がん:約8万人
血液がん:約9千人
固形がん:1.72
血液がん:2.82
診断から5年以降 固形がん:約54万人
血液がん:約6.3万人
固形がん:0.96
血液がん:1.62

 

【データ2】日本、英国:オミクロン株流行期の死亡リスク(2022年1月~2023年10月)


1.固形がん・血液がん患者の死亡リスクは高い
日本の約2万人のデータ(2022年1月~2023年10月までのオミクロン株)流行期では、死亡に関連するリスクとして、固形がん(オッズ比1.82)、血液がん(オッズ比1.75)が示されています。(参考文献[2])

2.高齢であることがさらに大きな死亡リスク因子である(がん患者ではなく、一般の方のデータ)
19~49歳とくらべると50~64歳(オッズ比5.08)、65歳以上(オッズ比20.35)で死亡リスクが大幅に増加していました。(参考文献[2])

3.がん治療中の患者さんの死亡リスクが高い
英国の約17万人のデータ(2020年4月から2022年2月、がん治療中は約6500人)データで、がん治療中の患者さんは、がん罹患歴のない50歳未満の方と比較して死亡リスクが高い(ハザード比:50歳未満2.71;50-69歳10.79;70-79歳16.48;80歳以上21.34)ことが示されています。 (参考文献[3])

 

【データ3】がん患者の入院・死亡リスク推移(英国・2020年11月~2022年8月)
罹患の時期によるリスクの変化も報告されています。英国で2020年11月から2022年8月の期間を対象にした研究では、がん患者さんにおける新型コロナウイルス感染症において、入院率は2021年初めの30.58%から2022年のオミクロン株流行期には7.45%に低下し、死亡率は20.53%から3.25%に減少していました。しかし、オミクロン株の流行期であっても非がん患者さんと比べてがん患者さんの入院リスクは2.1倍、死亡リスクも2.54倍でした。(参考文献[4])
がん治療中の患者さんでは、オミクロン流行期(2022)でも免疫不全のない患者さんの約18倍(血液がんの場合約29倍)も死亡のリスクがあるという報告もあります。(参考文献[5])。

 

【データ4】オミクロン株流行期の重症化リスクと対策
重症化率が低下したオミクロン株流行期となっても、がん患者さん、特にがん治療中や高齢者のがん患者さんは重症化のリスクが高いと考えられます。このため、ワクチンのブースター接種をはじめとした日常の感染予防の他、感染時には治療薬を速やかに開始することが重症化予防のために重要となります。普段からかかりつけ医とよく相談しておくと共に、罹患した際には速やかに医療機関にご相談・受診ください。(新型コロナウイルスワクチンについて、新型コロナウイルスの抗ウイルス薬について参照)

 

3.新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)について

ポイント
  • 後遺症により、当初計画された抗がん剤治療を中断せざるを得なくなる可能性や、死亡のリスクも高まるが、ワクチンの接種は後遺症のリスクを軽減するデータもある。

 

◼️後遺症の定義(WHO)
新型コロナウイルスに感染した人の中には、長期にわたり罹患後後遺症に悩まされることがあります。WHOは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状について、新型コロナウイルス(SARS- CoV-2)に罹患した人にみられる。少なくとも2カ月以上持続し、他の疾患による症状として説明がつかないものとしています。(参考文献[1])

◼️一般的な後遺症の発生状況(日本国内研究)
日本国内の研究では、2020年1月から2021年2月に新型コロナウイルス感染症で入院歴があった方について、診断から12か月以降も何らかの症状が30%程度にみられたと報告されています。オミクロン株流行期には罹患後症状を有した割合が11.7−17.0%へと減少したことも示され、ワクチン接種者増加の影響が示唆されています。 (参考文献[1])

◼️がん患者における後遺症(欧州研究)
がんの患者さんが新型コロナウイルスに感染した場合、15%の患者さんが4週間以上続く後遺症に悩まされていると欧州の研究で報告されています。(参考文献[2])
その約半数が慢性の咳や息苦しさなどの呼吸器症状で、約4割の方が慢性疲労で悩まされているとの報告でした。オミクロン株流行下ではがん患者さんの罹患後症状は10%以下に減少してきていることも示されています。

◼️ワクチン接種によるリスク軽減
このような後遺症に悩まされた場合には当初計画された抗がん剤治療を中断せざるを得なくなる頻度が12%から18%へと増加し、死亡のリスクが高まることが示されています。これに対し、ワクチンの接種は後遺症のリスクを軽減することも示されています。 (参考文献[3])。

<参考文献>
[1]厚生労働省、COVID-19診療の手引き 別冊罹患後症状のマネジメント 
 第3.1版(2025年2月)(外部サイトにリンクします
[2]Pinato DJ らの報告(Lancet Oncol.2021)(外部サイトにリンクします)
[3]Cortellini Aらの報告(Lancet Oncol. 2023)(外部サイトにリンクします)

 

がんと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について

ポイント
  • 現在がん治療中の患者さんは、がんの種類によっては治療が遅れることを避けた方が良い場合もありますので、治療の延期に関しては主治医の先生とよく相談するようにしましょう。

 

◼️外来患者数とがん検診の減少
新型コロナウイルス感染症で緊急事態宣言が最初に発令された2020年は、その前後の年と比較して日本国内の病院での平均外来患者数が減少したことが厚生労働省から報告されています(参考文献[1])。国内の研究でも、新型コロナウイルス感染症の影響で、日本国内でがん検診の受診者数が減少していた時期があったことが報告されています。(参考文献[2])

◼️がん診断件数の変化
その後の日本国内における全国院内がん登録集計データでは、2020年のがん登録患者数の減少が確認され、2021年以降新規がん登録件数は回復傾向ではあるものの、2020年に診断されなかった患者分の増加がまだみられていないことも報告されています。(参考文献[3])

◼️世界的な傾向
日本以外でも、この時期世界の多くの国でがん検診や診療制限が行われ、例年に比べて進行したがんが見つかる割合が増加したことが報告されています。(参考文献[4])
こうして診断が遅れることは、治療開始の遅れにつながり、がん治療の成績悪化につながる可能性が示唆されています。(参考文献[5][6])

◼️流行期でもがん検診の重要性
このため、新型コロナウイルス感染症の流行期であっても、気になる症状がある方はがん検診をしっかりと受けた方が良いと考えられます。

◼️がん治療への影響(米国の研究)
2022年7月に報告された米国臨床腫瘍学会のデータベース研究では、2021年7月30日までにCOVID-19感染症と診断されたがん患者さん3028人の内、46%の方で抗がん剤治療の14日以上の遅れまたは中止を経験したとされています。(参考文献[7])
現在がん治療中の患者さんは、がんの種類によってはがん治療が遅れることを避けた方が良い場合もありますので、治療の延期に関しては主治医の先生とよく相談するようにしましょう。

 

<参考文献>
[1]厚生労働省 病院報告(外部サイトにリンクします)
[2]日本がん検診・診断学会誌 2022; Vol.29 No.3: 173-177.
[3]国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策研究所がん登録センター、院内がん登録2022年全国集計
 (2024年1月)(外部サイトにリンクし、PDFが開きます。)
[4]Kuzuu Kらの報告(JAMA Netw Open.2021)(外部サイトにリンクします)
[5]Hanna TPらの報告 (BMJ. 2020)(外部サイトにリンクします)
[6]Ranganathan Pらの報告 (Lancet Oncol. 2021)(外部サイトにリンクします)
[7]Mullangi Sらの報告 (JAMA Network Open. 2022)(外部サイトにリンクします)

 

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更新日:2024年11月1日