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肺炎球菌感染症(はいえんきゅうきんかんせんしょう)について
肺炎球菌とは?
肺炎球菌は一般の人の肺炎の原因病原体、として最も頻度の高い細菌です。肺炎以外にも、侵襲性(しんしゅうせい)肺炎球菌感染症とよばれる髄膜炎(ずいまくえん)や血流感染症(血液中に肺炎球菌が入り、全身を回る病態)といった、より重篤な感染症を引き起こします。
侵襲性肺炎球菌感染症は高齢者やがん患者でリスクが高い
国内の研究では、侵襲性肺炎球菌感染症による死亡率は19%と高く、患者さんの69%を65歳以上の高齢者が占めることが知られています(参考文献1)。がん患者さんのような免疫力の落ちた人でも頻度が多いことが知られており、デンマークの研究(2000-16年)では、以下の表1のようにリスクが高いことが示され、さらにこのようなリスクはがんに罹患後10年以上持続することが示されています(参考文献2)。
日本の研究では表2のように高齢者だけでなく49歳以下でも肺炎球菌感染症のリスクが高いことが示されています(参考文献3)。また、特に固形がん患者さんが侵襲性肺炎球菌感染症に罹患した場合、非がん患者さんと比較して死亡のリスクが高いことも示されています(オッズ比1.6注)。
手術などで脾臓を摘出した患者さんもリスクが高く、スウェーデンの研究(1970-2009年)では一般の健康な人と比較して、重症感染症による死亡のリスクが3倍(固形がん)から25倍(血液がん)と非常に高いことが報告されています(参考文献5)。
注:オッズ比:侵襲性肺炎球菌感染症に罹患したがん患者さんが死亡する確率Pを、死亡しない確率(1-P)で割った値(P/1-P)をオッズと呼びます。このオッズ(侵襲性肺炎球菌感染症に罹患したがん患者さんが死亡するオッズ)をがんに罹患していない人が侵襲性肺炎球菌感染症に罹患した場合に死亡するオッズで割った値がオッズ比です。両者のオッズが同じ場合オッズ比が1となります。侵襲性肺炎球菌感染症に罹患した時に、がん患者さんの方が非がん患者さんより死亡するリスクが高い場合にオッズ比は1を超えます。(つまり、オッズ比が1を超えて大きな値となるほどがん患者さんの死亡リスクが高く、逆に1より小さくなればなるほどがん患者さんの死亡リスクが低いということになります。)
参考文献
- 福住らの報告(IASR 2018年7月号Vol. 39 p115)(外部サイトにリンクします)
- Andersen MA らのデータ(Clin Infect Dis. 2021)(外部サイトにリンクします)
- Fukuda H らの報告(Int J Infect Dis. 2022)(外部サイトにリンクします)
- Gracia Garrido HMらのデータ(Int J Infect Dis. 2021)(外部サイトにリンクします)
- Edgren Gらの報告(Ann Surg. 2014)(外部サイトにリンクします)
10万人・年当たりの 発症割合注 |
|
---|---|
健常人 | 12.7 |
非血液がん患者 | 70.9 |
血液がん患者 | 421.1 |
参考:表2国内の年齢ごとの肺炎球菌感染症の発症頻度(10万人・年あたり注)
健常者 | がん患者 | |
---|---|---|
19-49歳 | 5.3 | 50.9 |
50-64歳 | 25.6 | 54.4 |
65歳以上 | 99.7 | 135.0 |
予防の重要性について
肺炎球菌を予防するワクチンにはポリサッカライドワクチン(PPSV23、ニューモバックス®)と結合型ワクチン(PCV13、プレベナー13®;PCV15、バクニュバンス®)の2種類があります。
肺炎球菌には90を超える種類があり、PPSV23は問題となることの頻度の高い23種類をカバーしたワクチンです。一方PCV13/15は13/15種類しかカバーしていませんが、免疫力を付ける力(免疫原性)はPCV13/15の方がPPSV23より高いことが知られています。
台湾の研究では、75歳以上のがん患者さんにPPSV23を接種した患者さんは接種しなかった患者さんと比べて肺炎による入院が約30%減らしたことが示されています(参考文献1)。また、イスラエルの研究ではPCV13を接種した血液がん患者さんの肺炎もしくは重症感染症による入院が少なかったことが示されています(オッズ比0.45、参考文献2)。デンマークではPCV13とPPSV23の両方の接種が推奨されていますが、デンマークの研究では、血液がんの患者さんではワクチンを接種していない人の侵襲性肺炎球菌感染症の死亡率が16%であったのに対し、接種した人の死亡率が4%であったと報告されています。同様に血液がん以外のがん患者さんでは非接種者の死亡率が26%のところ、接種者では17%であったと報告されています。(参考文献3)このように肺炎球菌ワクチンにはある一定の効果が示されており、日本ワクチン学会・日本感染症学会・日本呼吸器学会では、がん患者さんへのPCV13/15とPPSV23の接種を推奨しています(参考文献4)。
ワクチンを接種することで副反応(副作用)としてワクチン由来の肺炎球菌にかかる危険性はありません。しかしワクチンの効果は100%ではないので、ワクチン接種後でも肺炎球菌感染症にかかる危険性はありますのでご注意ください。どのワクチンを接種するかは担当医へご相談ください。
参考文献
- Chiou WYらの報告(BMJ Open. 2018)(外部サイトにリンクします)
- Draliuk Rらの報告(BMJ Open. 2022)(外部サイトにリンクします)
- Andersen MA らの報告(Clin Infect Dis. 2021)(外部サイトにリンクします)
- 日本感染症学会のHP(外部サイトにリンクし、クリックするとPDFが開きます)
その他の予防対策
脾臓を切除した患者さんは、特に侵襲性肺炎球菌感染症に注意が必要となります。侵襲性肺炎球菌感染症は症状悪化のスピードが非常に速く、かかった場合には迅速に受診をする必要があります。このため、受診に時間がかかる場合には担当医からあらかじめ抗菌薬を処方してもらっておき、その薬を内服後受診することが必要となる場合がありますので担当医へご相談ください。(たとえ抗菌薬を内服したとしても、速やかに病院を受診する必要があることには変わりはありません。)
緊急避難的にかかりつけ医以外の医療機関を受診する場合には、必ず脾臓を切除したことを申告してください。
お問い合わせ
国立がん研究センター東病院 医療安全管理部門 感染制御室
電話番号:04-7133-1111(代表)
受付時間:平日8時30分から17時(土曜日、日曜日、祝日、年末年始を除く)