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新型コロナウイルスワクチンについて

Institute最終更新日:2024年1月15日

がん患者さんへの新型コロナワクチンについて

がん患者さんへの新型コロナワクチンの接種は国内外で推奨されています。(がん患者さんへの新型コロナワクチン接種Q & Aの1をご参照ください。) 本内容は2024年1月15日時点の内容となります。

  • オミクロン株の流行以降、ワクチンの感染予防効果は低下していますが、重症化予防効果は高く、引き続きがん患者さんへの接種が推奨されます。
  • ワクチン未接種のがん患者さんはmRNAワクチン(ファイザー社もしくはモデルナ社のワクチン)を接種されることをお勧めします。(抗がん剤治療中、もしくは治療後間もない患者さんは接種時期を担当の先生にご相談ください。)
  • 前回のワクチン接種から3-6か月以上を経過した患者さんのmRNAワクチン追加接種をお勧めします。高度な免疫不全によってワクチンの効果が乏しい患者さんでもブースター接種(半年ごとの追加接種)によって効果が得られることも多くみられます。(抗がん剤治療中、もしくは治療後間もない患者さんは接種時期を担当の先生にご相談ください。)
  • がん患者さん(特に血液がん患者さん)は健常人と比較するとワクチンの効果が弱いことが知られていますが、重症化予防や後遺症のリスク低減などの効果が期待されます。
  • がん患者さんへのワクチン接種において、健康な方と比較しても副反応の増加は見られていません。

がん患者さんは健常者よりワクチンの効果が劣るものの、ある程度の重症化予防効果を期待できる

がん患者さんにワクチンを2回接種した場合に産生される抗体量は健康な人の4分の1から20分の1程度と報告されています(参考文献1)。産生される抗体量が少ないため、感染を予防するワクチン効果も速やかに低下しますが、重症化の予防効果は持続することが示されています(表1 参考文献2)。より重症化しやすいことが知られる血液がん患者さんにおいても重症化のリスクを下げてくれることが米国の大規模データからも示されており(参考文献3)、ワクチン接種が推奨されます。(非がん患者さんと比較した場合の血液がん患者さんのワクチン接種後の感染リスクのオッズ比注1は4.64と高いものの、重症感染のオッズ比は1.45と低いことが示されています。)
2022年以降オミクロン株が流行の中心となると感染を予防するワクチンの効果は低下しましたが、重症化予防効果は引き続き期待できます(参考文献4)

表1 英国での約38万人のがん患者データをもとにした研究結果(参考文献2)

  非がん患者 がん患者
ワクチン効果 69.8% 65.5%
接種3-6カ月後のワクチン効果(感染予防) 61.4% 47.0%
接種3-6カ月後のワクチン効果(入院予防) 84.5% 74.6%
接種3-6カ月後のワクチン効果(死亡予防) 93.5% 90.3%

注1:オッズ比:ワクチンを接種したがん患者さんが新型コロナウイルス感染症に罹患する確率Pを、かからない確率(1-P)で割った値(P/1-P)をオッズと呼びます。このオッズ(新型コロナウイルス感染症に罹患するオッズ)をワクチン接種後の非がん患者さんが新型コロナに罹患するオッズで割った値がオッズ比です。両者のオッズが同じ場合オッズ比が1となります。がん患者さんが非がん患者さんより新型コロナウイルス感染症にかかるリスクが高い場合にオッズ比は1を超えます。(つまり、オッズ比が1を超えて大きな値となるほどがん患者さんのリスクが高く、逆に1より小さくなればなるほどがん患者さんのリスクが低いということになります。)

特に血液がん患者さんへの一部の抗がん剤治療では、ワクチンの効果が著しく落ちる場合がある

固形がん患者さんは、抗がん剤治療中でもワクチン接種によって産生される抗体量は大きく減少はしないという報告があります(参考文献5)。その一方で血液がんの患者さんではリツキシマブやオビヌツズマブなどの抗CD20抗体薬をはじめとした一部の治療後の抗体産生量が大きく減少する可能性が指摘されています(表2 参考文献6)。同種造血幹細胞移植後も1年以内は抗体産生能力が低下する可能性が指摘されています(参考文献7)

  研究対象患者数 抗体産生割合
抗がん剤治療中 1228 35%
抗がん剤非治療中 1034 76%
1年以内の抗CD20抗体治療 321 15%
抗CD20抗体治療1年以降 388 59%
ブルトンキナーゼ阻害剤
(イブルチニブ)
636 23%
BCL-2阻害剤
(べネトクラクス)
155 26%

がん患者さんに特有の副反応が多いという報告はない

がん患者さんに特有なワクチンの副反応の存在や、副反応の割合が増えるということは報告されていません(参考文献5、8)。免疫チェックポイント阻害剤による治療中は免疫関連有害事象(irAE)が増加することが懸念されましたが、現時点では大きな問題はないだろうと考えられています。(参考文献9)

がん患者さんはブースター接種(半年ごとの追加接種)推奨される

上記の通り、がん患者さんではより早くワクチンの効果が減衰することが示されています(表1 参考文献2)。このためワクチンの追加接種(ブースター接種)が勧められます。

がん患者さんにおけるブースター接種の効果を示す報告は数多くあります。オミクロン株流行期(2022年、シンガポールでのがん患者7万人、健常者62万人の報告)の研究では、2回目のブースター接種(合計4回目の接種)を行った人とブースター接種をしていない人と比較すると、新型コロナウイルス感染症に感染する人数は2割程度しか減少しませんでしたが、重症感染症は約9割減少することが示されています(参考文献10)。(この研究でブースター接種をしていない人=最初の2回の接種のみの人)

 

また、3回目のワクチン接種(初回のブースター接種:半年ごとの追加接種)でも十分な効果が得られなかった血液がん患者さん(接種後抗体価1000AU/mL以下)へ約5か月後に4回目を接種したところ抗体価中央値が1万を超えたとの研究報告もあり、繰り返し接種することでワクチンの効果がみられるようになる可能性が示唆されています。(参考文献11)

 

ワクチン接種は罹患後症状(後遺症)のリスクも下げる

2021年12月から2022年1月までのがん患者さんのグローバルデータベース研究(世界中の患者さんの情報が登録されたデータベースを用いた研究)によると、がん患者さんにおける感染1-3ヵ月後も続く罹患後症状(後遺症)は減少していました(デルタ株以前の頻度16%以上→オミクロン株6.2%)。一方で、このような後遺症はがん患者さんにおける死亡のリスクとなりうることが示されました(ハザード比1.39 注2)。この研究の中で、がん患者さんがワクチン接種をすることによるこの理由の一つとして、後遺症によって治療の継続が困難となることが挙げられます。
この研究の中で、がん患者さんがワクチン接種をすることによる後遺症全般のオッズ比が0.41とワクチン接種が後遺症のリスクを減少させることが示されました(参考文献12)。この研究では、ブースター接種によって後遺症の割合をさらに減少させる可能性も示唆されています。

注2:ハザード比:後遺症のある患者さんと後遺症のない患者さんが一定の期間内に新型コロナウイルス感染症で死亡する確率が同じ場合はハザード比が1となります。後遺症のある患者さんの死亡する確率の方が高い場合にハザード比は1を上回ります。(つまり、ハザード比が1を超えて大きな値となるほど後遺症のある患者さんの死亡リスクが高く、逆に1より小さくなればなるほど後遺症のある患者さんの死亡リスクが低いということになります。)

中和抗体薬による感染予防(チキサゲビマブ及びシルガビマブ[商品名: エバシェルド®])

2022年8月に予防薬として中和抗体薬が承認されました。

2020年11月から2021年3月に欧米で投与された約5200人の患者さんでの研究(主にアルファ株とデルタ株の時期)では3-6ヶ月間の経過観察で感染者を約8割減らす効果が示されました(参考文献13)。その後も複数の研究でオミクロン株(2022年前半のBA.2など)を中心とした時期の研究で血液がん患者さんを中心に感染および重症化予防効果が示されています。(参考文献14)。

しかし、2023年に流行の主流となったオミクロン株(XBB)への効果はオミクロン株への効果低い可能性が示されています(参考文献15)。このため、今後も感染予防としてワクチン接種が最も重要なことに変わりはありません。
エバシェルドにはmRNAワクチンなどにも含まれる成分(ポリソルベート)が含まれており、mRNAワクチンへの重篤なアレルギーがある方がエバシェルド®投与を受ける場合には担当医とよくご相談ください。

2024年1月の時点では、12歳以上の以下のワクチンによる予防効果が期待しづらい患者さんがエバシェルド®投与の対象となっています。(詳しくは担当医へご相談ください。)

  • 抗体産生不全あるいは複合免疫不全を呈する原発性免疫不全症の患者
  • B細胞枯渇療法(リツキシマブ等)を受けてから1年以内の患者
  • ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬を投与されている患者
  • キメラ抗原受容体T細胞治療レシピエント(治療を受ける患者さん)
  • 慢性移植片対宿主病を患っている,又は別の適応症のために免疫抑制薬を服用している造血細胞移植後のレシピエント(移植治療を受ける患者さん)
  • 積極的な治療を受けている血液悪性がんの患者
  • 肺移植レシピエント
  • 固形臓器移植(肺移植以外)を受けてから1年以内の患者
  • 急性拒絶反応でT細胞又はB細胞枯渇剤による治療を最近受けた固形臓器移植レシピエント
  • CD4Tリンパ球細胞数が50cells/μl未満の未治療のHIV患者

参考となるサイト、文献

【参考文献】


  1. Barriere J らの報告(Eur J Cancer. 2021)(外部サイトにリンクします)
  2. Lee LYWらの報告(Lancet Oncol. 2022)(外部サイトにリンクします)
  3. Song Qらの報告(J Clin Oncol. 2022)(外部サイトにリンクします)
  4. Lin DYらの報告(N Engl J Med. 2023)(外部サイトにリンクします)
  5. Oosting F らの報告(Lancet Oncol. 2021)(外部サイトにリンクします) 
  6. Gagelmann Nらの報告(Haematologica 2022)(外部サイトにリンクします)
  7. Maillard Aらの報告(Blood 2022)(外部サイトにリンクします)
  8. Figueiredo JCらの報告(Ann Oncol 2022)(外部サイトにリンクします)
  9. Ma Yらの報告(J Immunother Cancer. 2021)(外部サイトにリンクします)
  10. Tan WCらの報告(JAMA Oncol. 2023)(外部サイトにリンクします)
  11. Thakkar K. らの報告 (Elife. 2023) (外部サイトにリンクします)
  12. Cortellini Aらの報告(Lancet Oncol 2023)(外部サイトにリンクします)
  13. Levin MUらの報告(N Engl J Med 2022)(外部サイトにリンクします)
  14. Kertes J らの報告 (Clin Infect Dis. 2023)(外部サイトにリンクします)
  15. Stadler Eらの報告(Lancet Microbe 2023)(外部サイトにリンクします)

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更新日:2024年1月22日