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EGFR遺伝子変異肺がんの耐性を克服する新規治療薬との併用療法の開発

2021年10月13日

私たちは、日本人を含むアジアに多いEGFR遺伝子変異肺がんにおけるEGFR阻害薬の耐性メカニズムの解明と新規治療の開発を目指しました(Cancer Cell 2021)。EGFR阻害薬はEGFR遺伝子変異肺がんに奏功するものの、ほとんどの症例で再発します。第1・2世代のEGFR阻害薬の耐性メカニズムとして約半数でT790M遺伝子変異の出現が認められます(N Engl J Med 2005 )。第3世代EGFR阻害薬のOsimertinib(タグリッソR)はT790M遺伝子変異を克服するために開発され、新たな標準治療として確立しています。ところが、Osimertinibにおいても薬剤耐性はほぼ必発し、そのメカニズムはより多様化しているため獲得耐性をターゲットにすることが難しくなります(Cancer Res 2021)。

そこで私たちは薬剤耐性を獲得する前にOsimertinibとの併用で未然に耐性化を防ぐことができる新規治療薬の候補を薬剤スクリーニングで同定することを試みました(図1)。Osimertinib単独と比べて併用治療でがん細胞の増殖をより抑制する4群の阻害薬クラスター(Auroraキナーゼ、IGF1Rキナーゼ、SFKキナーゼ、PI3K/AKT/mTOR阻害薬)が併用治療の候補として挙げられました。分子標的薬の効果の指標のひとつとして最終的にがん細胞をアポトーシスにいたらせることが必須のエンドポイントと考えられます。Cell death assayにおいてAuroraキナーゼ阻害薬とOsimertinibとの併用効果が数種類のがん細胞で認められました。

図1.薬剤スクリーニングによる新規の併用治療薬の同定

グラフ

アポトーシスをコントロールする「最後の門番」としてBCL-2ファミリーが知られていますが、とりわけEGFR阻害薬の治療効果に重要なアポトーシスを誘導する因子としてBIMとPUMAが報告されています。機能解析によりAuroraキナーゼ、とくにAURKB(Aurora kinase B)の阻害がBIMのタンパク安定化およびPUMAの転写レベルでの活性化を引き起こすことが新たに分かりました。その結果、Osimertinib単独では残存する病変(Drug-tolerant persisters; DTPs)に対してAURKB阻害薬の併用でさらにアポトーシスを誘導し、薬剤耐性を未然に防ぐことが可能となります(図2)。さらに重要なことに、耐性メカニズムとして一般的に認められる上皮間葉転換(EMT)を示すがん細胞においてAURKB阻害薬の感受性が劇的に上昇することが判明しました。EGFR阻害薬が効かなくなった肺がん患者由来のマウス移植腫瘍モデルにおいても、耐性メカニズムに関係なくAURKB阻害薬とOsimertinibの併用治療で高い抗腫瘍効果を確認できました。

本研究の併用療法の提案は、「分子標的薬が遺伝子異常のあるがん細胞に特異的に効果を示すためにはBIM/PUMAを介したアポトーシスの誘導が必須である」という原理に基づいています。したがって、肺がんにおけるEGFR阻害薬に対する耐性克服のみならず、BIM/PUMAに依存したアポトーシスを引き起こす分子標的薬であれば本研究と同様の併用効果が期待できます。さまざまな分子標的薬のターゲットとなるがん種において併用療法での治療の最適化を推進し、治療成績の向上を目指していきたいと考えています。

 図2.AURK阻害薬との併用治療による薬剤耐性の予防および克服

治療前から薬剤耐性の獲得・薬剤耐性の克服までなどの画像

参考文献

Tanaka K, Yu HA, Yang S, Selcuklu SD, Kim K, Ramani S, Ganesan YT, Moyer A, Sinha S, Xie Y, Ishizawa K, Osmanbeyoglu HU, Lyu Y, Roper N, Guha U, Rudin CM, Kris MG, Hsieh JJ, Cheng EH. Targeting Aurora B kinase prevents and overcomes resistance to EGFR inhibitors in lung cancer by enhancing BIM- and PUMA-mediated apoptosis. Cancer Cell (2021) 39 (9): 1245-61

Kobayashi S, Boggon TJ, Dayaram T, Janne PA, Kocher O, Meyerson M, Johnson BE, Eck MJ, Tenen DG, Halmos B. EGFR mutation and resistance of non-small-cell lung cancer to gefitinib. N Engl J Med (2005) 352 (8): 786-92

Kashima Y, Shibahara D, Suzuki A, Muto K, Kobayashi IS, Plotnick D, Udagawa H, Izumi H, Shibata Y, Tanaka K, Fujii M, Ohashi A, Seki M, Goto K, Tsuchihara K, Suzuki Y, Kobayashi SS. Single-cell analyses reveal diverse mechanisms of resistance to EGFR tyrosine kinase inhibitors in lung cancer. Cancer Res (2021) 81 (18): 4835-48