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主な研究内容

 近赤外ハイパースペクトルイメージングを用いた生体深部病変の診断法開発

近赤外光(800 -2500 nmの光)は生体透過性に優れていることが知られており、可視光では見ることができない生体深部(数十mm程度)の情報を取得することができます。また、ハイパースペクトルイメージングカメラは、カメラの1画素ごとに分光することができるため、非破壊の成分分析に応用することができます。我々はこれらの特性を組み合わせた、近赤外ハイパースペクトルイメージング(Near-Infrared Hyper spectrul imaging:NIR-HSI)を用い、生体深部の情報を分析し、病変診断できる技術を開発しています。

具体的な応用先として、消化管間質腫瘍(Gastrointestinal Stromal Tumor:GIST)は胃の正常粘膜の下層にできる病変であるため、内視鏡の画像だけではGISTと診断することはできませんが、近赤外光を用いることによって診断できることが期待されています。このシステムを用いて、正常粘膜に覆われたGISTの切除検体を機械学習で解析したところ、正常粘膜の領域とGISTの領域を識別することに成功しました(Fig. 1)。そこで、我々は現在、腹腔内視鏡下と消化管内視鏡下で使用できるNIR-HSI装置を開発しています(図2(a)、(b))。今後、これらの装置により、医療現場でNIR-HSIを行い、目に見えないがんも診断できることが期待されます。

  • Fig1

    Fig.1 NIR-HSI setup and deep lesion prediction by machine learning method 

  • Fig2

    Fig.2 NIR-HSI system for laparoscope (a) and fiber scope(b)

プラズマを用いた臓器内腫瘍の穿刺焼灼法開発

Fig3

Fig.3 Vaporization of tissue by laser induced plasma and future plan

パルスレーザーはレンズで集光することで空間中に高密度なプラズマを生成することができます。そして、この生成されたプラズマは高エネルギーであるため、化学的な結合を切断することができます。そのため、例えば生体などに対してこのプラズマを接触させると、処理した部分だけほとんど熱変性を伴わず気化(蒸散)させることができます。

そこで、我々はこのプラズマを用い、低侵襲な臓器内腫瘍の焼灼として利用可能か検証を行っています。これまでに、Fig. 3(上)のように豚の肝臓を用いてプラズマ処理を行ったところ、組織の蒸散を確認し、処理部の周りに熱的な損傷がないことを明らかにしました。今後はFig. 3(下)のようなファイバーなどでレーザーを導光し、組織内で蒸散を行えるデバイスを開発して、その効果を検証する予定です。

低温プラズマを用いた内視鏡用止血デバイスの開発

Fig4

Fig.4 Low temperature plasma jet and hemostasis on porcine stomach

近年、上記のプラズマとは異なり、温度が室温から100ºC程度の低温で触れるプラズマ(低温プラズマ)が生成できるようになり、熱に弱い生体等へのプラズマ照射が可能になったことから、医療分野への応用が期待されています。特に、血液に対して室温程度の低温プラズマを直接照射することで化学的に凝固を促進させることが報告されてから、新たな止血法として注目されるようになりました。これを用いると従来の高温なアルゴンプラズマや高周波による熱凝固法と異なり組織の熱損傷がない止血が期待できます。

そこで現在、東京工業大学と共同研究で、Fig.4のように内視鏡に導入できるほど小型なプラズマ源を開発し、内視鏡下での止血応用に向けた研究を行なっています。生体ブタを用いた止血実験では低温プラズマを用いることにより、熱損傷なく止血できることが確認されています。今後はより内視鏡下で使いやすい形状や機能となるように設計を行っていく予定です。

自走式消化管内視鏡の開発

Fig5

Fig.5 Developed self-propelling endoscope and insertion in colon model

近年、消化器がんの罹患者数は増加傾向にあり、消化管内視鏡検査は、診断・治療において重要なツールとなっています。しかし、内視鏡検査を行うためには、高度な内視鏡挿入技術が必要となります。特に大腸は挿入が難しく、自動で内視鏡検査が可能な方法が求められています。
我々は、自走式消化管内視鏡の実現に向けて、Fig. 5のようなワイヤーによる湾曲や空気圧による伸縮による駆動機構を備えたデバイスを開発してきました。このプロトタイプの動作を検証したところ、緩やかに湾曲した大腸モデルであれば、挿入方向に自走できることが確認されています。
今後はより人間の大腸に近いモデルで自動挿入できる機構を検証していく予定です。

(注)上記の他にも進められている研究テーマがいくつかあります。

(2021年3月2日更新)