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荘内病院×国立がん研究センター東病院 医療連載「つながる医療 がん治最前線」第19回 難治がんである膵がんの薬物療法の進歩/失われた組織を創造する!マイクロサージャリーを用いたがん切除後の再建手術

2022年11月26日

難治がんである膵(すい)がんの薬物療法の進歩

国立がん研究センター東病院 肝胆膵内科長 池田公史

膵がんは、難治がんの代表ともいわれ、5年生存割合が10%未満と、あらゆるがんの中で最も治療成績が悪いです。また、年間3万8000人を超える膵がん患者が亡くなられており、その数は年々増加傾向です。

なぜ膵がんの治療成績はここまで悪いのか? 様々な理由があると言われています。

膵臓は胃の裏側で体の背側にあり、検査をしても見つかりにくく、早期に診断できる腫瘍マーカーもありません。また、喫煙、肥満、耐糖能異常、糖尿病、膵疾患の合併などがリスク因子と言われていますが、このリスク因子だけでは膵がん高リスク患者を絞り込むことが困難です。
膵臓周囲には、重要な血管や臓器が多く、診断時には既に周囲に進展していることが多く、切除できる状態で見つかるのは20%前後です。また、そもそもがんの悪性度が高く、薬物療法も効きにくいことも原因と言われています。

この膵がんに対する薬物療法(図1)は、1990年代には標準治療は確立しておらず、生存期間も4カ月と極めて不良でした。当時、国内学会で全身化学療法の臨床試験の結果を発表しても、なぜ抗がん治療するのか? と罵倒されたほどでした。

池田先生 図

その後、海外でゲムシタビンの生存期間の延長効果が示され、国内でも2001年にゲムシタビン、2006年にS―1が保険適用となり、2000年代には抗がん剤単剤による化学療法を行うことが推奨されるほどになりました。しかし、生存期間は6カ月前後と厳しい状況でした。

2010年代になり、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法やフォルフィリノックス療法などの併用療法の有効性が示され、それぞれ2013年、2014年に保険適用になりました。これらの治療が導入され、生存期間は1年前後に伸びてきましたが、それでもまだ不良です。

2020年代には、抗がん剤を高分子化してがんに選択的に取り込まれやすく工夫されたナノリポソーマルイリノテカンや、BRCA遺伝子変異に対するオラパリブなどの遺伝子変異に基づく個別化治療も登場し、治療成績は確実に伸びてきています。東病院での膵がんの薬物療法を受けられる患者の生存期間は2年に迫る勢いです。
また、最近では、切除できなかった患者でも抗がん剤が奏効して切除できるようになるコンバージョン・サージェリー(切除に移行する)も報告されてきています。

このように、膵がんに対する薬物療法は、この20年間で生存期間も5倍以上改善しており、確実に進歩しています。しかし、まだまだ難治がんであることには変わりなく、更なる治療成績の向上を目指して、東病院では新たな治療開発に取り組んでいきたいと考えています。

【参考文献】

  1. 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)
  2. 日本膵臓学会、膵癌診療ガイドライン改訂委員会編、膵癌診療ガイドライン2022年版(第6版、金原出版、2022年)

執筆者

池田先生
  • 池田公史(いけだ・まさふみ)
  • 1994年3月熊本大学医学部卒業、1994年4月熊本大学医学部付属病院第三内科、1996年6月国立がんセンター中央病院肝胆膵内科レジデント/チーフレジデント/医員、2008年3月国立がんセンター東病院肝胆膵内科医長/副科長、2012年7月国立がん研究センター東病院肝胆膵内科科長。
  • 専門領域‥肝胆膵がんや神経内分泌腫瘍の薬物療法

失われた組織を創造する!マイクロサージャリーを用いたがん切除後の再建手術

国立がん研究センター東病院 形成外科長 東野 琢也

形成外科は、身体に生じた組織の異常や変形、欠損、整容的な不満足に対して、さまざまな手法や特殊な技術を駆使して治療する外科系の専門領域です。機能のみならず、形態的にもより正常に、より美しくすることで、患者の生活の質(QOL)の向上に貢献します(参考:日本形成外科学会ホームページ(外部サイトにリンクします))。

対象疾患は外傷(けが)、熱傷(やけど)、あざ、先天異常、皮膚潰瘍、がんの切除後の再建、美容医療など多岐にわたります。東病院の形成外科は、主に「がんの切除後の再建」にたずさわっています。

がんの手術では、がんの切除により体の形態や機能に障害を生じることがあります。
形成外科は、形成外科的な手術手技を駆使して失われた組織を新たに創造する再建手術を行うことで、形態の欠損を補い機能障害を軽減させてがん患者のQOLの維持・向上に寄与することを目的に診療を行っています。

再建手術はマイクロサージャリーを用いた遊離組織移植が中心です。マイクロサージャリーとは手術用顕微鏡を使用した手術です。
再建手術では、体に生じた欠損にあわせて体のいろいろな部位から必要な組織を採取し欠損部に移植します。その際、手術用顕微鏡下に、非常に細い針と糸を用いて(写真)径1~2ミリの血管を数本吻合し、移植組織に血液が還流するようにします。血液が還流することで移植された組織が生着し機能を発揮します。
マイクロサージャリーの技術を用いると欠損にあわせて皮膚、脂肪、筋肉、筋膜、骨、神経、血管、リンパ組織などさまざまな組織を移植することができます。

東野先生 図
持針器で把持した9-0マイクロサージャリー用針付縫合糸。針の長さは4mmで太さは0.12mm。糸の太さは約0.03mm。

がん切除後の再建手術のうち、当院では頭頸部がん切除後の再建手術を数多く行っています。

例えば、口腔内のがんで舌の半分以上を切除することになると、口の中の欠損が大きくきずを閉じることが難しくなり、また、舌が半分以上なくなるので食事や会話などの機能が障害されます。形成外科医は、舌がんの手術の際に大腿部や腹部から採取した組織を口腔内に移植して新しい舌をつくります。再建手術をすることで、きずの治りを助け、食事や会話が可能な限りスムーズにできるようにするのです。下顎骨(下あごの骨)が切除された場合は骨を移植して下顎をつくりなおします。

また、乳がんの切除により乳房が変形したり失われたりした場合、乳房を取り戻すために乳房再建手術を行っています。乳房再建手術にはマイクロサージャリーを用いた遊離組織移植により腹部などの組織を移植して新しい乳房をつくる方法と、人工乳房を用いて新しい乳房をつくる方法があり、患者の希望に合わせて行っています。

その他、食道外科呼吸器外科肝胆膵外科大腸外科泌尿器・後腹膜腫瘍科婦人科骨軟部腫瘍科など、さまざまな科と連携しながらがん切除後の患者のQOLの維持に努めています。

執筆者

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  • 東野琢也(ひがしの・たくや)
  • 1999年九州大学医学部卒業。帝京大学医学部形成・口腔顎顔面外科助手、東京大学医学部形成外科助教、国保旭中央病院形成外科部長を経て2014年国立がん研究センター東病院形成外科医長、2017年から現職。専門は再建外科学。医学博士。日本形成外科学会専門医、再建・マイクロサージャリー分野指導医、日本創傷外科学会専門医、日本頭蓋顎顔面外科学会専門医、岩手医科大学医学部および東京大学医学部非常勤講師、日本頭頸部癌学会代議員

 

更新日:2022年12月9日