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令和3年度 第3回 薬薬連携を充実させるための研修会 開催報告

講義内容1)初歩から分かる薬薬連携 乳がん治療中の患者さんが来局したらどうする?
講演内容2)よくある疑義照会にお答えします

講演内容

講演(1):初歩から分かる薬薬連携
乳がん治療中の患者さんが来局したらどうする?
講師:腫瘍内科担当薬剤師 住吉 愛 先生

1.乳がんの治療

乳がんと診断された患者さんのうち、9割は切除可能であり、手術±薬物療法±放射線の治療対象となります。治癒を目指して、「根治を目指す」「再発を防ぐ」ことを目標に治療を行うことになります。したがって、治療を完遂するためには、副作用マネジメントが重要となります。一方で、乳がんの診断を受けた患者さんのうち1割は切除不能であり、「がんと共存」「QOLの維持」を目標に治療を行うことになります。

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乳がんはサブタイプにより治療方針が分かれます。サブタイプの分類や病期により、化学療法、抗HER2療法、ホルモン療法を組み合わせて治療が行われます。 
進行・再発乳がんの治療について、ホルモン受容体陽性の患者さんでは、生命を脅かす状況ではない場合、化学療法と比較して副作用がより少ない内分泌療法が推奨されます。一次、二次内分泌療法では、サイクリン依存性キナーゼ阻害薬(CDK4/6阻害剤)がkey drugのひとつとなります。

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2.CDK4/6阻害剤

CDK4/6阻害剤であるパルボシクリブ(イブランス®錠)、アベマシクリブ(ベージニオ®錠)は、両薬剤ともにホルモン受容体陽性、HER2陰性の手術不能または再発乳がんに適応を有しています。パルボシクリブは2017年12月に発売され、用法用量は内分泌療法との併用において1日1回125mg内服、3週間投与1週間休薬となります。アベマシクリブは2018年11月に発売され、用法用量は内分泌療法との併用において1回150mg1日2回、連日内服となります。

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3.CDK4/6阻害剤の作用機序

パルボシクリブとアベマシクリブは、サイクリン依存性キナーゼ4/6の活性を阻害し、Rbタンパクのリン酸化を阻害することにより細胞周期の進行を停止して、腫瘍の増殖を抑制すると考えられています。また、内分泌療法薬を併用することでサイクリンDの発現を間接的に阻害することができます。

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4.  CDK4/6阻害剤の臨床試験

パルボシクリブの主な臨床試験としては、PALOMA-2試験、PALOMA-3試験の2試験が代表的です。 
PALOMA-2試験は、進行乳癌に対する初回治療を受ける閉経後のER陽性HER2陰性乳癌患者を対象にパルボシクリブ・レトロゾール併用療法の有効性と安全性を検証するために実施された第III相試験です。ER陽性HER2陰性進行乳癌の患者において、パルボシクリブ・レトロゾール併用療法はレトロゾール単剤療法に比して骨髄抑制による有害事象発生率は高かったものの、有意に無増悪生存期間を延長させたことが報告されています。 
PALOMA-3試験は、内分泌療法中に再発または病勢進行を認めたホルモン受容体陽性、HER2陰性の進行乳癌患者を対象にパルボシクリブをフルベストラントへ上乗せすることによる有効性と安全性を検証する第III相試験です。フルベストラントは、2筒(1筒につき250mg含有)を、初回、2週後、4週後、その後4週ごとに1回、左右の臀部に1筒ずつ筋肉内投与します。PALOMA-3試験において、パルボシクリブをフルベストラントへ上乗せすることで、主要評価項目である無増悪生存期間を統計学的に有意に延長させたことが報告されています。有害事象としては特に好中球減少、白血球減少に注意が必要であるが発熱性好中球減少症の頻度は低く、QOLについてはパルボシクリブ群で良好であったことが示されています。また、この試験結果は、閉経後患者のみではなく、閉経前患者を含めたエビデンスとなります。

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アベマシクリブの主な臨床試験としては、主にMONARCH 2試験、MONARCH 3試験の2試験が代表的です。 
MONARCH 2 試験は、ホルモン療法中に進行のみられたHR陽性HER2陰性進行乳がん患者を対象に、アベマシクリブ+フルベストラントとフルベストラント単剤の有用性と安全性を比較する第III相試験であり、MONARCH 3 試験は、閉経後ホルモン受容体陽性HER2陰性進行乳癌患者で、進行癌に対する全身療法を受けたことのない患者を対象に、最初の内分泌療法として非ステロイド型アロマターゼ阻害薬とアベマシクリブ併用投与の有効性と安全性を検証した第III相試験です。 
アベマシクリブは、HR陽性HER2陰性の進行乳がん患者において、フルベストラントとの併用(MONARCH 2試験)、非ステロイド性アロマターゼ阻害(NSAI)との併用(MONARCH 3試験)による有効性と安全性が示されています。 

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5.CDK4/6阻害剤に共通する副作用

1.間質性肺炎

アベマシクリブの投与後に重篤な間質性肺疾患を発現し、死亡症例も報告されたことを踏まえ、アベマシクリブでは「安全性速報(ブルーレター)」が発出され、間質性肺疾患に関する警告が追記となりました。パルボシクリブでは、添付文書内の「警告」及び「慎重投与」の項に、間質性肺疾患に関する記載が追記された経緯があります。アベマシクリブの適正使用ガイドでは、間質性肺疾患が出現した際の休薬や中止について、グレード分類ごとの対応が記載されています。 
グレード2以上を認める場合には、原則、被疑薬の投与は中止となります。グレード3では、酸素吸入を要するレベルであり、一般的に入院加療が必要となります。

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アベマシクリブの国内市販後調査の結果では、間質性肺疾患は投与開始1~5ヶ月での発症が多いことが報告されています。自覚症状としては、息切れ/呼吸困難、咳、発熱、倦怠感が高頻度に現れることが知られています。したがって、患者さんに説明する際には、間質性肺疾患の初期症状として、発現頻度の高い自覚症状について説明し、症状が出現した際にはすぐに病院に連絡するように、お話することが重要です。

2.悪心

日本癌治療学会 「制吐薬適正使用ガイドライン」では、パルボシクリブは軽度リスク(催吐頻度10-30%)に分類されています。ASCOガイドラインでも、パルボシクリブはMinimal or Low(<30%)ですが、一方で、アベマシクリブはModerate or High(>30%)に分類されています。アベマシクリブの悪心の発現傾向について、MONARCH 2試験とMONARCH 3試験での悪心の発現状況をお示しします。 

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アベマシクリブの臨床試験において、制吐薬を使用した患者さんの割合は全体の約15%と報告されており、制吐薬として、主にドンペリドンとメトクロプラミドが使用されていました。

6.パルボシクリブに特徴的な副作用

骨髄抑制

主に好中球減少が高頻度で出現することが知られています。骨髄抑制が出現した際の休薬や減量基準は適正使用ガイドに具体的に記載されています。 
パルボシクリブの臨床試験では、好中球減少症の初回発現までの期間中央値は15日、グレード3以上の好中球減少症の持続期間中央値は7日間でした。 
国内市販後調査では、発熱性好中球減少症(FN)が4週間以内に出現することが多い傾向にありました。FN発症後の転帰に関して、回復した症例がほとんどですが、死亡に至った症例もあります。そのため、注意すべき副作用として対応が求められ、重症の骨髄抑制を認めた場合には、休薬や減量を考慮する必要があります。パルボシクリブ投与下では、定期的に血液検査を行い、必要に応じて休薬、減量、延期など、適切な処置を行い、「発熱性好中球減少症診療ガイドライン」を参考に、迅速かつ適格な対応が重要となります。 

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7.アベマシクリブに特徴的な副作用

下痢

アベマシクリブの臨床試験では、下痢の初回発現時期の中央値は約1週間、下痢の発現は1サイクル目で多く、その後減少していく傾向でした。アベマシクリブを服用した患者さんのうち、止瀉薬を使用したのは約75%であったとの調査結果でした。アベマシクリブを服用される患者さんでは、下痢に対して高確率で支持療法を要することになります。したがって、アベマシクリブによる副作用モニタリングを行っていく上で、アベマシクリブの開始前の排便状況を確認することが重要です。具体的な排便ペースに加えて、便の硬さを評価するブリストルスケールを利用し、どれくらいの軟らかさの便なのかを事前に評価しておくとともに、日ごろから便秘薬を使用していないか等の情報をしっかり確認しておくことがポイントです。 
そして、アベマシクリブを飲み始めたあとに下痢をする可能性があることを伝えたうえで、症状に応じて整腸剤や下痢止めを使用するよう指導します。お薬の具体的な使用方法に関しては、当院の場合では、例えばもともとブリストルスケールで4であった患者さんが5になったら整腸剤を開始し、それよりも柔らかくなった際には下痢止めを使用するように指導しています。 
下痢になったあとは、下痢の発現パターンを確認して、患者さんのライフスタイルにあった下痢止めの使い方ができるように支援していきます。例えばいつも決まった時間に下痢になるようであれば、定時内服を提案します。また、外出中や仕事中に下痢になると困る、という患者さんであれば、外出前に下痢止めを予防服用することを提案することがあります。しかし、下痢止めで症状が全く改善しないケースもありますので、下痢止めを飲んでいるにもかかわらず症状が軽快せず、めまいや頭痛などの脱水症状を認める場合には、アベマシクリブを休薬の上で病院へ必ず連絡するように指導を徹底しています。

 8.パルボシクリブとアベマシクリブの当院における支持療法セット例 

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9.最後に

乳がんの薬物療法は、外来治療が主です。今回のテーマであるCDK4/6阻害剤を含む治療を受ける患者さんは、治療中にQOL・ADLに影響する副作用を経験することがあります。したがって、CDK4/6阻害剤による副作用のマネジメントが重要な鍵であり、副作用対策に関わっていくことが、我々薬剤師の役割のひとつだと感じています。副作用対策に当たっては、医師・看護師との連携のみならず、病院薬剤師-薬局薬剤師の連携、いわゆる薬薬連携の充実がkeyになると考えます。是非、協働して、患者さんの治療をサポートしていきましょう。

講演(2):よくある疑義照会にお答えします
回答者:腫瘍内科 医員 大熊 ひとみ 先生
質問者:薬剤師 前田  先生

腫瘍内科 医員 大熊ひとみ先生 をお招きし、対談形式にて薬剤師からの質問にお答えいただきました。当日のQ&Aの一部を紹介します。

Q:CDK4/6阻害剤を使用するにあたり、ベージニオとイブランスの使い分けについて教えてください。

A:本邦ではイブランスが先に承認されたことからイブランスを主に使用していましたが、ベージニオが承認されてからは、両剤の効果を直接比較した臨床試験はありませんが、臨床的には効果に差はないと考えられていますので、それぞれの副作用の特徴に応じて使い分けを行っています。
例えば、ベージニオの特徴的な副作用として下痢がありますが、高齢の患者さんではとてもつらい症状になりえますので、イブランスの使用を患者さんに提示することがあります。
一方で、イブランスでは若い方でも高頻度で好中球減少が発現しますので、好中球減少が気になる患者さんではベージニオを選択することがあります。また、薬剤選択の上で、間質性肺疾患も考慮すべき副作用となります。
市販後の症例の蓄積からは間質性肺疾患の発現頻度としては、両剤とも同じくらいと言われていますが、ベージニオにおいてブルーレターが発出された経緯を考慮すると、何らかの間質性肺疾患の既往がある患者さんに対してはイブランスを選択肢の上位にあげることもあります。 
その他、副作用以外の観点では、両剤の内服スケジュールを考慮することもあります。患者さんの生活スタイルに応じて、どちらの薬剤を使用するか患者さんに選択してもらうこともあります。 
なお、CDK4/6阻害剤と併用するアロマターゼ阻害剤においては、主に使用される3種のアロマターゼ阻害剤間での効果の差はないと臨床試験で示されていますが、最初に非ステロイド性のアロマターゼ阻害剤を使用することが多いです。また、CDK4/6阻害剤の臨床試験では、ある程度併用薬が規定されていることが多いので、その臨床試験に則ったアロマターゼ阻害剤を選択することが多いです。

薬剤性肺障害の発症を疑った際には、

  1. 原因となる薬剤の摂取歴があるか否か
  2. 薬剤に起因する臨床病型の報告があるか否か
  3. 他の原因疾患が否定できるか否か
  4. 薬剤の中止により、病態が改善するか否か
  5. 再投与により増悪するか否か

などの薬剤性肺障害の診断基準に従って診断していくことになります。

 

Q: 術後のホルモン療法について、服用期間の目安を教えてください。

A:術後の服用期間に対してこれまで多くの臨床試験が行われてきましたが、NCCNガイドラインでは「最適な期間は定まっていない」と記載されていて、基本的には5~10年間内服するとされています。
最低5年は飲んだ方が良いという確実なエビデンスはある一方で、10年まで継続して内服するかについては患者さんの再発リスクに応じて決めます。
例えば、腫瘍がもともと大きい、リンパ節転移の数が多い等、再発リスクが高い患者さんに対しては、服用期間を5年ではなく10年とお伝えする場合があります。ただ、再発リスクに応じて決めた内服期間の見通しを必ず守るというわけでなく、比較的副作用の少ないホルモン剤でも患者さんによっては辛い副作用が出現することもありますので、副作用の出現状況を踏まえて患者さんとの相談し、服用期間を調整していくこととなります。 
5年目以降の服用期間に明確な線引きがないので、薬局薬剤師の方々が服薬期間を限られた情報から読み取ることは難しいと思います。患者さんから服用期間について質問があった場合は、担当医師に確認してもらうようにお伝え頂ければと思います。 
ホルモン剤の副作用については、薬の特徴上、いわゆる殺細胞性抗がん剤や分子標的治療薬と異なることから、処方医の中で副作用を軽く捉える者がいるかもしれませんが、患者さんが苦痛に感じる症状であるほてり、関節痛などが高頻度で出現しますし、アロマターゼ阻害剤における骨粗しょう症やタモキシフェンにおける血栓症等、気を付けるべき副作用が出現することがあります。薬局薬剤師の方々には、副作用の発現状況についてぜひ注意深くフォローして頂きたいです。
副作用の状況に応じて服用期間を検討するだけでなく、場合によっては、ホルモン剤を変更することもありますので、副作用の懸念があった場合は速やかに主治医に伝えるように患者さんに促して頂きたいと思います。

Q:今後、保険薬局の薬剤師の方にお願いしたいことなどはありますか?

A:薬剤師の方々との連携がないと薬物治療は成り立たないと考えています。
私たちが見えていないことが、薬局薬剤師の方々には見えていることが多々あると思いますので、患者さんと面談、経過フォローする中で何か気になることがありましたら、遠慮せずに問い合わせて頂きたいと思います。
患者さんが安心して治療を受けていくためには、今後も薬剤師の方々の介入が必須だと思っています。是非、宜しくお願い致します。