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令和3年度 第4回 薬薬連携を充実させるための研修会 開催報告

講義内容1)薬薬連携で取り組むべき課題「ポリファーマシー」~当院のポリファーマシー対策チーム活動について~
講演内容2)よくあるご質問にお答えします

講演内容

講演(1):薬薬連携で取り組むべき課題「ポリファーマシー」
~当院のポリファーマシー対策チーム活動について~
講師:ポリファーマシー業務担当薬剤師 渡部 大介 先生

はじめに

当院は、令和3年度厚生労働省の高齢者医薬品適正使用推進事業のモデル医療機関として、ポリファーマシー事業推進の一翼を担うこととなり、令和3年10月よりポリファーマシー対策チームを結成し、ポリファーマシーへの取り組みを開始しています。そこで、令和3年度TULIPプロジェクト第4回目では、「ポリファーマシー」をテーマとし、当院のポリファーマシー対策チーム活動について紹介いたします。

1.ポリファーマシーについて

ポリファーマシーは、「poly(多くの)」+「pharmacy(調剤)」で「多剤併用」を示す造語が由来となっています。ポリファーマシーは、単に服用する薬剤数が多いことではなく、薬物有害事象、アドヒアランス不良など多剤に伴う諸問題に加えて、不要な処方、あるいは必要な薬が処方されない、過量・重複投与など薬剤のあらゆる不適正問題を含む概念を指します。

6剤以上で有害事象増加

厳密には、何剤からポリファーマシーなのかという定義はありません。国内では、薬物有害事象の発現頻度が6剤以上で上昇するという報告や、5剤以上の服用者は、4剤以下に比べて転倒が起こりやすいという報告があります。これらの報告をもとに、5剤あるいは6剤以上がポリファーマシーの目安とされています。

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2.ポリファーマシーの背景と現状について

ポリファーマシーが発生する背景のひとつとして、高齢化があげられます。高齢者はさまざまな疾患を抱えていることが多く、複数の医療機関にかかっていることは珍しくありません。それぞれの医療機関で処方されている薬は2~3種類だとしても、受診先が増えるごとに薬も比例して増えていき、結果的にポリファーマシーが発生しやすい環境となります。高齢者では、複数の併存疾患を治療するための薬の多剤服用に加えて、加齢による生理的な変化が相まって、安全性の問題が生じやすい状況があると考えられます。また、薬の副作用や有害事象を抑えるために新たな薬を処方し、その新たな薬の副作用を抑えるためにまた別の薬が処方されるというように、薬物有害事象を新たな薬で対処し続ける「処方カスケード」も、ポリファーマシーを形成する要因のひとつと考えられています。

高齢者の4人に1人が7種類以上の薬を服用

実際の現場において、ポリファーマシーの現状は図のとおりです。

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厚生労働省で実施された1ヶ月に1つの薬局で受け取る薬剤の数に関する調査によると、65~74歳の患者では、5剤以上の薬をもらう人は約30%であり、75歳以上の患者では、5剤以上の薬をもらう人は40%以上で、なかでも7種類以上の薬をもらう人は約25%に上ります。

高齢がん患者の特徴のひとつはポリファーマシー!!

現在、日本人の2人に1人が生涯のうちがんに罹患するといわれています。
高齢化社会の到来に伴い、高齢がん患者が増える傾向にあり、2010年時点で、全てのがん患者の約30%が65歳以上~75歳未満で、75歳以上が40%以上を占めていることが報告されています。高齢がん患者の特徴を図に示していますが、ポリファーマシーは高齢がん患者の特徴のひとつとして挙げられています。

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当院に受診する患者さんの場合、がん治療に用いる薬が主に処方されますが、基礎疾患を持った高齢者では、複数の医療機関を受診しているケースが多く、ポリファーマシーに陥りやすい傾向にあります。したがって、がん専門病院である当院でも、積極的にポリファーマシー対策を実施していく必要性を強く感じています。

3.  ポリファーマシーに対する国の施策について

今般、高齢化の急速な進展により、高齢者への薬物療法に伴う問題が顕在化している背景を受け、厚労省は、ポリファーマシーを防止することを目的に、2017年4月に「高齢者医薬品適正使用検討会」を設置し、その中での議論を踏まえ、2018年5月に「高齢者の医薬品適正使用の指針【総論編】」が、2019年6月に「同指針【各論編(療養環境別)】」が示されました。そこでは、医師・薬剤師・看護師等が協働して、高齢者の状態、治療の必要性、薬剤処方内容などを総合的に勘案し、「現在の医薬品処方が適正かどうか」を常に評価し、併せて、必要に応じて減薬や薬剤投与の中止などの見直しを行うことが具体的に提言されています。さらに2021年3月には、通知「『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』について」が示されました。この通知について、図にまとめました。

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『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』は、各医療機関においてポリファーマシー対策の取組を始める際や業務運営体制を体系的に構築・運営する際の手順書・ツールとして活用することを目的に作成されたものになります。

4.当院におけるポリファーマシーへの取り組み

当院薬剤部では、患者さん一人ひとりの薬物治療に対して適正で安全な使用を常に心がけ、服薬指導等々を含めた薬学的なアプローチを実施しており、薬剤管理指導の一環として、処方の見直しを行う機会がありますが、病院の特性上、抗がん薬による副作用マネジメントを中心に取り組んでいます。したがって、これまでポリファーマシー対策活動に関する実績はほとんどありませんでした。そこで、厚労省で取りまとめられた『病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方』(以下、業務手順書)を基に、業務展開することといたしました。当院におけるポリファーマシーへの取り組みの具体的な流れを図に示します。

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1)まず、「小規模」にポリファーマシー対策導入

業務手順書では、担当者を決め、ポリファーマシー対策に関心のある仲間で『小規模』に取り組みをはじめることが推奨されています。当院は、ゼロからのスタート、基礎的土台を作り上げていく必要があると考え、最初から全患者さんを対象にするのはハードルが高いということもありましたので、まずはモデル病棟にて業務展開することとしました。今後の業務拡大を視野に、外科、内科の診療科がバランスよく混在する病棟をモデル病棟に選定いたしました。その該当病棟の編成は、図のとおりです。

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2)入院時におけるポリファーマシーの評価と問題抽出に活用するツールを作成

当院では、入院時に患者に関する情報を把握するためのツールを作成し、運用しています。

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薬剤に関する情報として、薬剤の内服状況、薬剤の管理状況、かかりつけ医・薬局の有無、有害事象の出現等を聴取しています。また、当院では、定期的に服用している薬剤が6剤以上ある場合をポリファーマシーと定義し、このツールを用いて、ポリファーマシー該当患者をスクリーニングしています。ポリファーマシーの患者さんに対して、処方の見直しの意向を確認の上、処方見直しに向けた取り組みを行うこととしております。

薬が老年症候群の症状を助長させる可能性を視野に入れてアプローチする!

加齢に伴って心身が衰えることで現れる症状や疾患のことを「老年症候群」といいます。主なものに、ふらつき・転倒、記憶障害、せん妄症状(睡眠と覚醒のリズム障害、時間や場所が急に分からなくなる、幻覚、妄想、気分障害など)、抑うつ、食欲低下、便秘、排尿障害・尿失禁などがあります。高齢者では、薬が老年症候群の症状を誘発・悪化させるリスクがあると考えられています。そこで、当院では、入院時に図に示す評価シートを用いて、老年症候群の症状の有無の把握に努めています。

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高齢者機能評価ツールを活用!

業務手順書では、患者の既往歴や処方歴などの情報をより多く把握することに加え、潜在的な病態がある可能性を考慮し、高齢者総合機能評価等による日常生活機能を踏まえて処方を見直す優先順位を判断することが提言されています。そこで、当院では、高齢者機能評価ツールとしてG8のツールを用いております。

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G8は、高齢がん患者さんを対象に作成された高齢者機能評価ツールで、食事量や体重減少の有無、自力で歩けるか、精神状態などを簡易に評価するツールです。G8は、ADL(日常生活動作)あるいはIADL(手段的日常生活動作)の低下と関連する指標であり、G8スコア14点以下の患者は、14点を超える患者と比較して有意に生存期間が短かったことが報告されています。

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G8の患者評価は、この評価により見つかった問題点に対して多職種チームで介入する動機付けになる点で有用ではないかと考えています。

3)入院後は「ポリファーマシー対策チーム」で処方見直し案を検討

ポリファーマシーを抱えている患者さん、特に高齢者では、処方内容だけでなく服薬支援や生活環境の調整、患者家族を含めた指導など包括的な対応が必要になるケースがあり、多職種で対応することが望ましいと考えられています。そこで、当院では、2021年10月に「ポリファーマシー対策チーム」を結成し、ポリファーマシー対策活動を開始しています。
業務手順書では、ポリファーマシー対策を推進・拡大していく上で取り組む事項のひとつに、『院内でポリファーマシー対策に関する「運営規定」をつくる』・『人員体制をつくる』という項目が挙げられています。このことから、当院では、医薬品等の適正な管理と効率的な運用をはかるために必要な事項等の審議を行う薬事委員会を親委員会とし、その下部組織として「ポリファーマシー対策小委員会」を設置し、小委員会の実働部隊として、ポリファーマシー対策チームを設置しました。チームメンバーは、総合内科(糖尿病腫瘍科、循環器内科)医師、精神腫瘍科医師、外科系診療科医師、内科系診療科医師に加えて看護部、薬剤部、栄養管理室の各部署から人員を輩出してもらう形で結成しました。

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カンファレンスは原則週1回の開催とし、現在はモデル病棟を中心とした活動状況ではありますが、将来の構想としては、全病棟を対象にポリファーマシーに該当する患者へ介入していける診療科横断的なチーム体制を目指していきたいと考えています。
本チームのこれまでの活動実績は、別の機会に紹介させていただければと思います。

処方見直しを実施 → その後のモニタリングが重要!

薬剤は、処方医が基礎疾患に対する治療目的で処方しているのがふつうです。このため、ある薬剤を減量・中止した場合には、コントロールできていた疾患が再燃・増悪する可能性もあり、そうなってしまっては本末転倒です。処方見直し後は、患者の状態が悪化していないか、などを継続的に観察し、状態悪化が見られた場合には、再度の処方見直しを迅速に行うなどの対応を図ることが必要不可欠です。その点を踏まえ、当院では、処方見直しによる患者さんの状態変化についてモニタリングできるように、カンファレンスを週1回の定期開催にしています。

4)退院時に院外の医療機関あるいは薬局への情報提供が重要

当院は、いわゆる急性期病院であり、在院日数が短いことが多いことから、処方見直しのモニタリングが十分行えないことが一般的です。処方見直しに関する内容をかかりつけの医療機関あるいは保険薬局に情報提供し、その後のモニタリングを行う体制の構築が重要になると考えています。処方内容が元に戻っては意味がなく、かかりつけ医やかかりつけ薬剤師の協力が必須です。そこで、当院では、院外の医療機関あるいは薬局への情報提供に用いる様式「薬剤管理サマリー」を作成し、活用しています。

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当院では、退院時に患者さんごとの薬剤情報提供書を作成の上、患者指導を行うとともに、お薬手帳シールを作成・貼付しています。加えて、処方の見直しがあった際には、処方医療機関、かかりつけ薬局に薬剤管理サマリーを作成し、患者さんにお渡しし、医療機関への情報提供を行うようにしています。

さいごに、ポリファーマシーの解決に向けて

ポリファーマシーに関連する問題は多種多様であり、これに対応するために多職種連携による専門性を活かしたアプローチが大切です。ポリファーマシー対策の本質は、患者さんに適切な薬物療法を提供することであり、Pharmaceutical Careの実践そのものだと、私は考えています。ポリファーマシー解決に向けた取り組みは、薬剤師の専門性を最も発揮できる場面であり、ポリファーマシー対策を進めていく上で、薬剤師はキーパーソンになるべき存在だと感じています。ただし、ポリファーマシーは一施設のみで取り組める課題ではなく、他の医療機関との連携によるシームレスな対応が求められます。当院で処方見直しを実施しても、退院後に処方内容が元に戻っては意味がなく、必要に応じたモニタリング・アプローチが必要不可欠です。退院後のフォローにおいて、保険薬局薬剤師の協力が何よりも重要であり、心強いと感じています。是非、協働して、患者さんの治療をサポートしていければと思いますので、今後ともどうぞよろしくお願いします。

講演(2):よくあるご質問にお答えします
回答者:精神腫瘍科 科長 松岡 弘道 先生
質問者:薬剤師 東 郁子 先生

精神腫瘍科 科長 松岡弘道先生 をお招きし、対談形式にて薬剤師からの質問にお答えいただきました。当日のQ&Aの一部を紹介します。

Q:がん患者のポリファーマシー対策で検討される薬剤について教えてください。

A:処方の見直しの対象となる主な薬剤としては、(1)胃薬、(2)ベンゾジアゼピン(BZ)系薬剤、(3)抗うつ薬、(4)処方意図不明の薬剤が挙げられます。
(1)胃薬は使用頻度の高い薬剤で、特にProton Pump Inhibitor (PPI) を長期内服している患者をよく見かけると思います。PPIは用量を減量したり、H2 blockerを挟んだりして減薬することが多いです。また、胃粘膜保護薬はPPIとの併用の意義が薄いため、併用している場合はこちらを切ることもあります。
(2)BZ系薬剤は患者の予後によって処方が異なります。腫瘍切除後等でcancer freeの患者に対しては、ロフラゼプ酸など、長時間作用型の依存性が出にくい薬剤を選択することが多いです。一方、今後全身状態が悪化していくと考えられる患者には、肝腎機能低下による薬剤蓄積のリスクを考慮し、比較的低力価で半減期の短い、クロチアゼパムやロラゼパムなどを選択することが多いです。BZ系薬剤の減薬の際には反跳性不眠が出現することがあるため、時間をかけて減量したり、一週間程度オレキシン受容体拮抗薬と重複して内服し、その後オレキシン受容体拮抗薬単剤へと切り替えたりしています。
(3)抗うつ薬は患者ごとにセロトニンとノルアドレナリンのバランスを考慮し、興奮が強い患者にはセロトニンが優位になるよう選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を、逆に活力が低下している患者にはノルアドレナリンの補充を目的としてミルタザピンやセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)を選択します。抗うつ薬を減薬する場合は、1か月から数か月に1錠ずつ切る、また患者の苦手な季節の減薬は避けるようにして、慎重に減らすようにしています。
(4)処方意図不明の薬剤は、ビタミン剤、エペリゾンやチザニジンなどの中枢性筋弛緩薬などをよく見かける印象です。患者希望で服用しているケースも多いので、患者の意向を確認しながら減薬を検討します。

Q: 先生が診察の際に行っている、ポリファーマシーへのアプローチについて教えてください。

A:処方の見直しには患者の了承が重要となりますが、同種同効薬の減薬は抵抗なく了承が得られるケースが多いです。一方でBZ系薬剤は半数以上の患者が減薬・変更に抵抗を示されます。その場合は、BZ系薬剤の長期内服が認知機能低下や生命予後の増悪を引き起こすリスクになること、また手術を控えた患者にはBZ系薬剤の内服がせん妄のリスクになることを説明すると、一度は減薬・変更に挑戦してくれることが多いです。最新の知見では、レンボレキサントは高齢の不眠症患者でゾルピデムと比較して、睡眠維持に対してより高い効果が示されています(Rosenberg R, et al. JAMA Netw Open. 2019 Dec 2;2(12):e1918254.)。このようなエビデンスベースで説明すると了承が得られるケースもあります。
他院からの処方を見直す際には、なるべく処方医に電話して処方理由の確認や情報共有を行うことを心がけています。処方医へのリスペクトを持ち、医師同士で声を聞ける関係を築くことが重要と考えています。

Q:ポリファーマシーに関して、保険薬局の薬剤師にお願いしたいことを教えてください。

A:まずは副作用のリスクにもなる同種同効薬の重複がないかを確認していただきたいです。患者の後発品や先発品の希望、剤型や薬剤の大きさの希望、薬物間相互作用は医師が見落としがちな項目であり、こちらもぜひ薬剤師の先生方に協力をお願いしたいです。また、次回の診察まで時間が空いてしまうことも多いので、薬剤を変更した1週間後程度でフォローしていただけると大変助かります。
ポリファーマシーに関して薬剤師の先生方から直接医師に問い合わせを行うのは、もしかしたら抵抗があるかもしれません。医師に相談するスタンスで、決定権は医師に委ねるような聞き方が良いかと思います。また、患者の不満や不安の声を出して提案すると、医師の受け入れがスムーズだと思います。ポリファーマシー対策において、薬剤師の先生方の協力が不可欠と考えています。よろしくお願いします。