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国立がん研究センター 中央病院

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低侵襲膵切除(腹腔鏡下膵切除)

はじめに

腹腔鏡下手術は腹腔内(おなかのなか)をガスで膨らませて、数カ所のキズ(5から12mm)から器具を出し入れする筒(トロカール)を挿入し、そこからカメラ(腹腔鏡)や鉗子を挿入し、術者はテレビのモニターを見て、器械を操作して行う手術です。

膵臓の手術は、膵臓の左側を切除する膵体尾部切除、右側を切除する膵頭十二指腸切除で大きく術式が異なります。どちらも開腹で行う場合は図の様に大きなキズになります。その点、腹腔鏡手術では小さなキズで済みますので患者さんにとっては負担が少ない治療が受けられるというメリットがあります。

がんの外科治療として大切なことは、安全にかつ腫瘍を残すことなく切除することです。その点で、開腹でも、腹腔鏡でも行っていることは同じです。確かに腹腔鏡は「低侵襲」というメリットがあります。しかし、安全性と根治性のバランスをよく考えて最善と思われる方法を選択しなければなりません。ですので、患者さんが腹腔鏡を希望されても、私たちが安全に手術を行う事が難しいと判断した場合はお断りしなければならないこともございます。逆に、私たちが腹腔鏡手術をお勧めしたとしても、患者さんご自身のお考えで開腹手術を希望される事も可能です。

  • 015-020-1.png開腹膵切除の手術創

  • sui2.JPG

    腹腔鏡下膵切除の手術創

 

腹腔鏡下膵切除の対象疾患術式について

腹腔鏡下膵体尾部脾切除

膵体尾部切除は膵臓の左側を切除する術式で基本的に膵尾部にある脾臓と一緒に切除します。腹腔動脈(ふくくうどうみゃく)は脾動脈と肝動脈に枝分かれしますが、脾動脈は膵臓の上縁にくっついて、膵臓にも血液を送りながら脾臓に血液を送る動脈で、脾臓から帰ってくる血液は脾静脈といって膵臓の背側を走行して門脈に至ります。ですので、膵体尾部の腫瘍を切除する場合は原則として脾動脈と静脈を膵臓と一緒に切除することになります。

膵癌を含めて全ての膵腫瘍にこの術式を行う事ができますが、膵臓の周りの胃や結腸などの臓器に浸潤している場合や、大きな血管などに浸潤している場合など腹腔鏡で行うのに難しいと判断される場合は開腹手術をお勧めします。

この手術の合併症に関しては開腹手術と起こりえることは同様です。

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(患者さんから掲載の許可をいただいています。)

腹腔鏡下脾温存膵体尾部切除

膵腫瘍のなかには腫瘍の外に浸潤しにくく、膵臓の外に飛び出さない比較的大人しいものもあります。その場合は、膵臓から脾動脈、脾静脈を外して脾臓の血流を温存することによって脾臓を残して膵体尾部だけを切除する方法もあります(脾温存膵体尾部切除)。ただし、この術式は腫瘍を切除する上で根治性を損なわないことが条件と考えます。

腹腔鏡補助下膵頭十二指腸切除

腹部の様々な手術術式の中で膵頭十二指腸切除は高難度と言われる術式です。それは膵頭部の周囲には門脈や肝動脈、上腸間膜動脈などの重要血管が存在し、それらから切離しなければならなかったり、切除した後に膵臓と消化管を吻合、胆管と消化管を吻合、胃と小腸を吻合など多数の再建部位があったりし、それぞれの吻合にも高度な技術が求められるからです。

当院の現在の方針としては近日導入の予定です。技術的には既に可能であると考えておりますが、現在は段階的に高難度の膵切除術に低侵襲治療の適応を拡大しているところです。所属する医師(日本内視鏡外科学会技術認定医)は前任地では本術式において十分な施行経験がありますが、当施設としての導入を慎重に行っているところです。

開腹手術で行っても本術式の術後合併症は稀ではなく、ある程度の合併症(主に膵液漏)を乗り越えて回復していただくという側面があります。その点で言うと、腹腔鏡手術で行っても、想定される合併症は開腹手術と変わりません。腹腔鏡手術は拡大した視野の元に繊細な操作を行う事が可能ですが、吻合操作の過程で要求される立体的な角度の動作のなかで難しいところがあり、吻合のクオリティが低下する懸念があります。当面の間(腹腔鏡手術)は膵空腸吻合に関しては、切除を行った後に小開腹下に直視で吻合を行います。近い将来、ロボット支援下の膵頭十二指腸切除を導入する予定ですので、この問題は解消されると考えております。

保険適応について

腹腔鏡下膵体尾部切除、腹腔鏡下膵頭十二指腸切除は保険収載されていますが、施設基準を満たして実施できる施設は限られています。当院は術者・症例数等の施設基準を満たし認可を受けていますので、全ての高難度腹腔鏡下膵切除術を保険適応で行うことが可能です。

 

腹腔鏡下膵切除の利点と欠点

患者さんが体感するメリットとしては、低侵襲(体への負担が少ない)、キズが目立たないと言うことが挙げられます。患者さんの立場ではわかりにくいことなのですが、外科医が手術を行うにあたって腹腔鏡で行うと小さな血管などを拡大して見ることができるため、より緻密な操作を行う事ができます。また、深い部位でもカメラでのぞき込むことによって良好な視野の元に行う事ができます。結果的に開腹手術に比べて出血量を減らすことができます。全体の回復の経過も早いので短い入院期間で退院することができます。

一方でデメリットとしては、開腹手術と比べて細かな作業が多いので手術時間がやや長くなる傾向にあります。しかし、近年の技術の向上によって腹腔鏡下膵体尾部切除においては、その差はわずかになってきました。膵頭十二指腸切除はまだ開腹手術より時間が必要です。

 

腹腔鏡下膵切除の術後経過

術後順調な場合の標準的な経過を示します。あくまで標準的な経過ですので、術式や、合併症によって経過が異なることはご了承下さい。下記は腹腔鏡下膵体尾部切除の場合です。

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