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日本主導の第III相国際共同医師主導治験においてホルモン受容体陽性/HER2陰性の進行乳がん患者に対するパルボシクリブのタモキシフェンとの併用の有効性を確認NCCH1607/PATHWAY試験

2023年2月20日
国立研究開発法人国立がん研究センター
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発表のポイント

  • ホルモン受容体陽性/HER2陰性の進行・転移性乳がんの女性を対象とした、サイクリン依存性キナーゼ(以下、CDK)4/6を阻害する経口分子標的薬パルボシクリブとタモキシフェンの併用療法のトップラインデータが開示され無増悪生存期間(PFS)を有意に改善しました。

 

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)中央病院(病院長:島田和明)は、ホルモン受容体陽性/HER2陰性の進行・転移性乳がんの女性を対象とした、パルボシクリブ+タモキシフェン併用療法とプラセボ+タモキシフェン併用療法を比較した第III相試験(略称: PATHWAY 試験/NCCH1607)のトップラインデータを開示し、パルボシクリブ+タモキシフェンの併用投与は、プラセボとタモキシフェンの併用投与と比較し、統計学的に有意かつ臨床的に意味のあるPFSの延長を示し、主要評価項目を達成したことをお知らせします。この結果は、欧米にくらべてアジア地域では、全乳がんのうちで占める患者数の割合が多く、治療選択肢が少ない閉経前乳がん患者にとって、高いインパクトがあると考えています。詳細な有効性および安全性の結果は、今後国際学会で発表される予定です。

パルボシクリブについて

PATHWAY試験で使用した薬剤パルボシクリブは、CDK4/6を阻害する経口分子標的薬です。CDK4/6は、細胞周期の調節に主要な役割を果たしており、細胞増殖を引き起こします。パルボシクリブはCDK4および6を選択的に阻害して、細胞周期の進行を停止させることにより、腫瘍の増殖を抑制すると考えられています。

パルボシクリブは、米国をはじめ世界100カ国以上で承認されている薬剤で、日本においてはPALOMA-2試験およびPALOMA-3試験の結果を元に、パルボシクリブ25mgおよび125mgを含有するカプセル剤および錠剤(販売名:イブランスカプセル25 mg、同125 mg、およびイブランス錠25 mg、同125 mg)について、「ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」を効能・効果として2017年9月27日および2020年1月23日にそれぞれ承認されています。 ただし、閉経後に使用される内分泌療法薬レトロゾールまたはフルベストラントとの併用投与の成績に基づいて承認されており、タモキシフェンとの併用の有効性や安全性は確立されていない状況です。

背景

乳がんは、日本では女性のがんとして最も罹患者数が多いがんです。今回実施したPATHWAY試験の対象となる、ホルモン受容体陽性/HER2陰性の進行・転移性乳がんの女性における薬物療法のひとつとして、内分泌療法があります。内分泌療法薬は、ホルモンの分泌や働きを阻害し、ホルモンを利用して増殖するがん細胞の増殖を阻害する薬です。閉経前と閉経後では、体内でホルモンがつくられる経路が異なり、患者さんの状態にあった薬を使用します。パルボシクリブとタモキシフェンとの併用療法については、まだ薬事承認が得られていません。

PATHWAY試験について

本試験は、ホルモン受容体陽性/HER2陰性の、閉経前・閉経後の進行または転移性乳がん女性患者を対象としたCDK4/6阻害剤であるパルボシクリブの医師主導治験で、184人の患者さんが参加されました。国立がん研究センター中央病院主導のもと、アジア地域で実施し、日本12施設、韓国6施設、台湾3施設、シンガポール2施設が参加しました。本試験は、Pfizer Inc.との共同研究であり、同社から研究費と治験薬パルボシクリブの提供を受けています。製薬企業との共同研究の形式をとり、日本では医師主導治験として、海外では当院が治験依頼者としての役割を担う形で実施する国際共同医師主導治験となります。本試験のポジティブな結果は、パルボシクリブと内分泌療法の併用療法における、新たなエビデンスとなり、添付文書改訂および薬事承認の取得について規制当局と協議することが可能になると考えます。

日本主導アカデミア発国際共同研究の推進とATLASプロジェクト

国際共同試験は、短期間に多くの症例登録を行うことができ、スピーディーな治療開発に繋がるため、企業治験では最近国際共同試験が行われる数が非常に多くなっています。アカデミア主導の臨床試験でも、より早く患者さんの手元により良い治療を届けるという観点では国際共同試験が重要です。これまでに米国や欧州では、アカデミアの臨床研究グループが主導する国際共同試験が数多く実施され、当院を含めて日本からこのような海外主導の国際共同試験へ参加する機会も増えてきました。しかし、日本の研究者が発案し、日本の研究機関がリードするような国際共同試験は、言語(英語)の壁、支援スタッフの不足、高額な研究費等の理由により、企画・運営のハードルが高くこれまでほとんど実施されてきませんでした。

一方、国立がん研究センター中央病院では、これまで新規治療確立に対するニーズが高いものの製薬企業による新規治療の開発がなかなか進まない疾患に対して、多くの医師主導治験を積極的に実施してきました。 さらに2016年度に、国際水準のアカデミア主導治験・臨床研究を日本主導で実施できる体制整備を目的として、医療法上の臨床研究中核病院の中から、当院と大阪大学医学部附属病院の2施設が日本医療研究開発機構(AMED)国際共同臨床研究実施推進事業の拠点施設に選定されました。1) これらの豊富な経験と臨床試験の支援基盤を活用して、これまで日本ではほとんど行われてこなかった、アカデミア主導の国際共同医師主導治験であるPATHWAY試験を実施しました。

現在、当院は、アジア地域における臨床研究・治験実施体制整備を目的とした「アジアがん臨床試験ネットワーク構築に関する事業(Asian clinical TriaLs network for cAncerS project:ATLAS project:アトラス プロジェクト」2を展開しており、PATHWAY試験の参加地域のみならず、一部のASEAN諸国を含むアジア全域の臨床研究ネットワーク構築を推進しています。PATHWAY試験で得られた経験とネットワークはATLASプロジェクトで活用されています。当院は引き続きアジア地域全体におけるがん治療開発の発展を目指していきます。

 

1)本事業は、2017年度より臨床研究中核病院を対象としたAMED事業の医療技術実用化総合促進事業の中の1プログラムへ移行されております。

【事業名】医療技術実用化総合促進事業
【課題名】早期開発から後期開発までのシームレスな研究開発支援体制構築事業

2)本プロジェクトは、AMED事業として採択されています。

【事業名】臨床研究・治験推進研究事業(アジア地域における臨床研究・治験ネットワークの構築事業)
【課題名】アジアがん臨床試験ネットワーク構築に関する事業
ATLAS projectのロゴ

PATHWAY試験の参加施設

  • 日本:国立がん研究センター中央病院、北海道がんセンター、千葉県がんセンター、国立がん研究センター東病院、虎の門病院、神奈川県立がんセンター、愛知県がんセンター、大阪医療センター、近畿大学病院、兵庫県立がんセンター、四国がんセンター、九州がんセンター
  • 韓国:Severance Hospital Yonsei University Health System、Seoul National University Hospital、Seoul National University Bundang Hospital、Asan Medical Center、National Cancer Center、Ajou University Hospital
  • 台湾: National Taiwan University Hospital、 Sun Yat-Sen Cancer Center、Taipei Veterans General Hospital
  • シンガポール: National Cancer Centre Singapore、National University Hospital

PATHWAY試験の詳細

  • 試験名:HR陽性/HER2陰性の進行または転移性乳癌女性患者を対象に、パルボシクリブ+タモキシフェン(±ゴセレリン)併用投与とプラセボ+タモキシフェン(±ゴセレリン)併用投与を比較する、アジア共同、国際、多施設、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間比較第III相試験(NCCH1607、PATHWAY試験)
  • 研究代表者:米盛 勧
  • UMIN試験ID:UMIN000030816 
  • ClinicalTrials.gov 登録番号: NCT03423199

 本試験の詳細は、こちらよりご確認ください。

https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000034267(外部サイトにリンクします)

https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03423199(外部サイトにリンクします)

問い合わせ先

  • 本試験に関する問い合わせ

国立研究開発法人国立がん研究センター 中央病院
臨床研究支援部門 研究企画推進部 国際研究支援室 
秦 友美
〒104-0045 東京都中央区築地5-1-1
TEL:03-3547-5201(内線:6137)
E-mail:NCCH1607_office●ml.res.ncc.go.jp

報道関係の問い合わせ

国立研究開発法人国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室
〒104-0045 東京都中央区築地5-1-1
TEL:03-3542-2511(代表) 
E-mail:ncc-admin●ncc.go.jp