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中央病院 内視鏡科 食道がんの内視鏡治療について

更新日 : 2026年5月15日

目次

食道がんの内視鏡治療とは

お腹や胸を切らずにがんを切除する低侵襲治療

食道がんは、早期の段階では自覚症状がほとんどありません。
しかし、発見が遅れ、がんが進行してしまうと、食道を切除する大掛かりな手術や、長期間にわたる化学療法・放射線治療が必要となり、身体への負担は格段に大きくなります。
だからこそ、症状がない段階での定期的な内視鏡検査による「早期発見」が、食道がん治療において最も重要と言えます。

この「早期」の段階で発見されたがんに対して行われるのが、口から内視鏡(胃カメラ)を挿入し、食道の内側からがんを切除する内視鏡治療です。
外科手術のように胸やお腹に傷がつくことがなく、食道を温存できるため、患者さんの体への負担(侵襲)が極めて少ないのが特徴です。
これにより、治療後の食事機能や発声機能を維持し、生活の質(QOL)を高く保つことができます。国立がん研究センター中央病院は、この低侵襲治療を高い安全性と根治性で提供することを使命としています。

内視鏡治療の対象となる早期食道がん

内視鏡治療が適応となるのは、がんがリンパ節へ転移している可能性が極めて低い「早期食道がん」です。具体的には、がんが食道壁のどこまで深く達しているかを示す「深達度」によって治療の適応が決まります。

食道がんの深達度は、国際的なステージ分類(TNM分類)のT因子によって以下のように分類され、内視鏡治療の対象となるのは主に「ステージ0(Tis)」と「ステージI(T1)」の一部です。

Tis(上皮内がん)

がんが粘膜の最も表面にある「上皮」内にとどまる状態です(ステージ0)。リンパ節転移の可能性はほぼなく、内視鏡治療による根治が期待できます。

T1a

がんが粘膜内の「粘膜固有層」または「粘膜筋板」まで達した状態です(ステージIの一部)。この段階でもリンパ節転移の可能性は極めて低く、内視鏡治療の良い適応となります。

T1b

がんが粘膜の下にある「粘膜下層」まで達した状態です(ステージIの一部)。このうち、粘膜下層への浸潤がごく浅い病変(SM1)までが、内視鏡治療適応ですが、内視鏡治療後の放射線化学療法や外科手術などの追加治療が推奨されます。

そのため、治療前にこの深達度を正確に診断することが、治療法を決定する上で最も重要になります。

図1 食道がんのT・N・M各因子の分類

図1 食道がんのT・N・M各因子の分類(日本食道学会による分類) がん情報サービスより引用

図2 食道がんの深達度

図2 食道がんの深達度 がん情報サービスより引用

最新機器と専門医による正確な深達度診断

当院では、血管や粘膜の微細な模様を強調表示する狭帯域光観察(NBI)などの画像強調観察やNBI併用拡大内視鏡、さらには超音波内視鏡(EUS)を駆使し、がんの表面構造を詳細に分析します。
これにより、正確な深達度診断を行い、内視鏡治療の適応を的確に判断します。他院では診断が難しい症例に対しても、経験に基づいた質の高い診断を提供できるのが私たちの強みです。

チーム医療で決めるより良い治療方針

最終的な治療方針は、内視鏡科、食道外科、放射線治療科、病理診断科など、各分野の専門医が一堂に会する「キャンサーボード(多職種カンファレンス)」で徹底的に議論します。
内視鏡治療だけでなく、手術や化学放射線療法など全ての選択肢を比較検討し、一人ひとりの患者さんにとって科学的根拠に基づいたより良い治療法を提案します。

食道がんの内視鏡治療について

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

ESD(Endoscopic Submucosal Dissection)は、当院が世界に先駆けて開発・標準化した、早期食道がんに対する最も標準的な内視鏡治療です。
食道は壁が非常に薄く繊細な臓器ですが、ESDでは専用の電気メスを用いて、がんの大きさや部位に関わらず病変を一つの塊として正確に切除します。これにより、確実な病理診断と高い根治性が得られます。

図3 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

図3 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD) がん情報サービスより引用

内視鏡的粘膜切除術(EMR)とESDとの使い分け

EMR(Endoscopic Mucosal Resection)は、スネアという金属の輪を病変に引っ掛けて高周波電流で焼き切る、従来から行われている治療法です。
当院では、ESDを食道がん内視鏡治療の主軸としつつも、すべての患者さんにとってより良い治療を提供するため、病変の大きさ、形状、がんの深達度予測などを専門医が総合的に評価し、ESDとEMRを的確に使い分けています。

  • EMRが選択される場合:主に2cm以下で、スネアによる一括切除が確実に見込める病変などが良い適応となります。
    この場合、ESDに比べて手技がシンプルで、治療時間がより短く済むというメリットがあります。
  • ESDが選択される場合:2cmを超える大きな病変や、食道がんに特徴的な平坦で広がりのある病変、また線維化を伴いEMRでは切除が難しい病変に対して行います。
    ESDを用いることで、大きさや形状に関わらず病変を一つの塊として確実に切除し、正確な病理診断と高い根治性を目指します。分割切除による再発リスクを避けることが、ESDの大きな利点です。

図4 内視鏡的粘膜切除術(EMR)

図4 内視鏡的粘膜切除術(EMR) がん情報サービスより引用

治療の流れ(診断から退院まで)

1.診断と方針決定

ご紹介いただいた資料や当院での精密検査(拡大内視鏡や超音波内視鏡)の結果を基に、消化器内科・食道外科・放射線科などの専門家が集うキャンサーボードでより良い治療方針を決定します。

2.入院・治療前準備

入院後、安全な治療のため、クリニカルパス(標準治療計画)に沿って準備を進めます。治療日の朝から絶食となります。

3.治療(内視鏡治療の実施)

鎮静剤・鎮痛剤を使用し、患者さんが眠っている状態で治療を行います。治療時間は病変により異なりますが、通常1~2時間程度です。

4.治療後・退院

治療後は数日間の絶食期間を経て、粥食から徐々に食事を再開します。偶発症(併発症)がなければ、入院期間は約1週間です。

偶発症(併発症)とその対策(出血・穿孔・狭窄)

食道は壁が薄く、心臓や大動脈など重要な臓器に隣接しているため、偶発症(併発症)対策には特に高度な技術と経験が求められます。当院では、偶発症(併発症)の発生率を極めて低いレベルに抑制しています。

  • 出血・穿孔(食道に穴が開くこと): 発生率はごくわずか(出血:約1%、穿孔:約1%)です。万が一発生した場合も、ほとんどは内視鏡下でクリップによる縫縮や止血処置が可能です。24時間体制で専門医が対応し、食道外科との万全な連携により、緊急手術が必要となるケースは極めて稀です。
  • 術後狭窄(食道が狭くなること): 食道ESD後の最も重要な偶発症(併発症)です。特に、食道の円周の3/4以上を切除する広範囲な治療の場合に起こりやすくなります。狭窄が起こると、食べ物のつかえ感や通過障害が生じます。 当院では、この狭窄を予防するため、切除創にステロイドを注射する「ステロイド局所注射療法」を世界に先駆けて開発・実用化しました。これにより、以前は外科手術しか選択肢がなかった広範囲のがんに対しても、内視鏡治療で食道を温存し、治療後の良好な食生活を維持できるようになりました。万が一狭窄が起きた場合も、内視鏡的バルーン拡張術(風船で狭窄部を広げる治療)で対応します。

食道がんの内視鏡の研究について

私たちは、目の前の患者さんにより良い医療を提供するだけでなく、未来の医療を創造し、世界中のがん患者さんに貢献することも重要な使命と考えています。

新規デバイス・治療技術の開発

より安全で確実な治療を目指し、企業や研究機関と連携して新しい内視鏡デバイスやESD関連手技の開発に関する臨床研究を主導しています。

臨床試験・治験による新たな治療選択肢の提供

標準治療では根治が難しい進行がんに対する新しい薬物療法や免疫療法と内視鏡治療を組み合わせた治療法など、多くの臨床試験や治験を推進しています。

世界をリードする人材育成

私たちが培ってきたESDをはじめとする日本の高度な内視鏡技術を国内外に普及させるため、指導的役割を担っています。国内外から多くの医師を受け入れ、技術と知識を伝えるトレーニングセンターとしての機能も果たしています。

食道がん内視鏡治療の療養について

治療後の経過と最終診断(病理診断)

切除した組織は、経験豊富な病理診断科の専門医が顕微鏡で詳細に評価します。この「病理診断」の結果に基づき、がんが完全に取り切れているか、リンパ管などへの侵襲はないか、追加治療(外科手術や化学放射線療法)の必要はないかを最終的に判断し、ご本人に詳しく説明します。

退院後の生活(食事・注意点)

治療後の食道を安静に保つため、退院後しばらくは消化の良い食事(おかゆ、やわらかく煮たうどんなど)から始め、段階的に食事形態を上げていきます。担当医や看護師、管理栄養士が、個々の状況に合わせて食事の進め方や生活上の注意点を丁寧に指導します。

定期検査(サーベイランス)の重要性

治療後も、定期的な内視鏡検査で再発や、食道の他の部位、咽頭、胃などに発生する「異時性がん」がないかを確認していくことが非常に重要です。患者さん一人ひとりのリスクに応じた、より良い検査スケジュールをご提案し、長期にわたりあなたの健康を見守ります。

院内のサポート体制

  • がん相談支援センター: 医療費や公的支援制度、療養生活全般に関する不安や疑問について、専門の相談員(ソーシャルワーカー)がご相談をお受けします。
  • 栄養サポート: 管理栄養士が、治療後の食事に関する専門的なアドバイスを行います。

食道がんの内視鏡治療に関するよくあるご質問

Q. 治療中の痛みは?

適切な鎮静剤を使用するため、ほとんど痛みを感じることなく眠っている間に終わります。

Q. 入院期間はどれくらい?

ESDの場合、約1週間が標準的な入院期間です。

Q. 費用はどのくらいかかりますか? 

保険診療であり、高額療養費制度の対象となります。費用に関するご相談も、がん相談支援センターで承ります。

Q. 高齢でも治療できますか?

体への負担が少ない治療ですので、ご高齢の方や他の病気をお持ちの方にも適しています。お体の状態を総合的に評価して安全に治療を行います。

中央病院 内視鏡科を受診される皆様へ

食道がんの診断、あるいはその疑いを告げられ、大きな不安と衝撃の中、このページをご覧いただいていることと存じます。決して一人で悩みを抱えないでください。
当科では、セカンドオピニオンも積極的に受け入れております。現在の診断や治療方針について、少しでも疑問や不安があれば、ぜひ私たちの意見も聞いてみてください。
当院での受診には、かかりつけ医からの紹介状(診療情報提供書)と事前予約が必要です。まずは現在おかかりの先生にご相談いただき、当院での診療をご希望の旨をお伝えください。
その一歩が、あなたにとってより良い治療への道を開くかもしれません。

メッセージ

このページをご覧いただき、ありがとうございます。国立がん研究センター中央病院 内視鏡科の斎藤 豊です。
『がん』という言葉に、未来への希望を見失いそうになるかもしれません。しかし、どうか前を向いてください。特に早期の食道がんは、私たちの内視鏡治療によって、お身体への負担を最小限に抑えながら根治を目指せる時代になりました。
私たちの使命は、高い技術でがんを確実に治療することだけではありません。治療後のあなたの人生、QOL(生活の質)を守り、一日も早く穏やかな日常を取り戻していただくことこそが、私たちの真の目標です。
あなたの不安や疑問を、私たちにすべてお話しください。私たちはあなたの隣で、共にがんと向き合い、より良い道を一緒に見つけ出すパートナーでありたいと願っています。

斎藤 豊 (さいとう ゆたか)

内視鏡センター長 内視鏡科長 斎藤 豊

専門医・認定医資格など:
日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医
日本消化器病学会 消化器病専門医・指導医
日本消化管学会 胃腸科専門医・指導医
日本カプセル内視鏡学会 指導医
日本内科学会 認定内科医
厚生労働省 臨床修練指導医(Certificate of Clinical Instructor)
ASGE(American Society for Gastrointestinal Endoscopy) FASGE(Fellow of the American Society for Gastrointestinal Endoscopy)

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