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卵巣/卵管/腹膜がんの治療方針

卵巣がん、卵管がん、腹膜がんの分類が整備されたこともあり、卵管がん、腹膜がんと診断される方が以前よりも多くなっています。しかし、卵管がん、腹膜がん単独での治療のデータは乏しく、病理組織学的に類似する卵巣がんに準じて治療が行われます。当院でも、卵巣がん、卵管がん、腹膜がんは同じ治療方針をとっています。

卵巣がんにおける手術治療の役割は二つあります。一つは、がんであるかどうかの病理検査による判断です。卵巣腫瘍は悪性度(がんとしての性質の程度)により、良性、境界悪性、悪性(がん)に病理検査で分類されます。卵巣はおなかの中に存在しているため検査で一部取り出すこと(生検)は困難です。このため、手術で卵巣腫瘍を摘出して病理診断を行います。

もう一つの役割は、がんであった場合に病巣を取り除いて治療をしていくというものです。しかし、3から4期の卵巣がん、卵管がん、腹膜がんでは婦人科臓器以外にもがんが広く及んでおり、多数の臓器を同時に切除せざるを得なかったり切除困難な場合が多くなります。このときは、抗がん剤治療をまず受けていただく方針としています。抗がん剤の効果が見られたときに手術治療を計画しています。この方針により、摘出臓器を減らすことができるなど手術の体への負担を軽減することが期待されます。

正式な進行期(ステージ)は手術によって確定します。手術を含めた治療方針を決めるために、画像検査によって進行期を判断、推定します。

ステージ1期と推定される方は、まず手術治療を計画します。手術では病気のある側の卵巣・卵管を摘出して術中迅速病理診断を行います。悪性腫瘍の判断であれば、左右卵巣・卵管、子宮、大網(胃からたれ下がっている脂肪の膜)を切除します。リンパ節の生検を行い、リンパ節転移が判明した場合はリンパ節郭清を行います。手術後は一部の方を除き、抗がん剤治療を追加します。パクリタキセルとカルボプラチンの点滴投与を3週間ごとに6回行います(TC療法)。

妊孕性温存治療は、若年の患者さんに妊娠する機能を残しつつ治療を行うことを指します。通常の卵巣がんの場合は、ステージ1A期の一部の方が対象になります。1期卵巣がんの一部の方に対して妊孕性温存治療の対象を拡大する臨床試験を行っております(2020年4月現在)。胚細胞腫瘍という特殊な卵巣がんの場合は抗がん剤が効きやすいため、妊孕性温存治療を選択することが多くなります。

ステージ2から4期と推定される方で切除が適当と判断した場合は、まず手術を行い左右卵巣・卵管、子宮、大網、転移巣の摘出を行います。リンパ節転移を認める場合はリンパ節郭清を行います。手術後に抗がん剤治療を追加します。パクリタキセル(毎週)とカルボプラチン(3週ごと)を18週間にわたり点滴投与します(ddTC療法)。手術時に切除が適当ではないと判断した場合は、抗がん剤治療を受けていただき、効果を認めるときに再手術を検討します。

手術前に切除が適当でないと判断した方は、まず抗がん剤治療を受けていただきます。抗がん剤治療から始める場合でも、病理検査による判断は適切な治療のため大切です。当科では放射線診断科と連携して経皮針生検(腹部などに針を刺すことで腫瘍の一部をとる)によって病理診断を行っています。腹腔鏡を含めた手術による腫瘍の採取に比べ、体への負担を少なく早く診断を行うことができます。病理診断後、抗がん剤治療(ddTC)療法を受けていただき、治療効果がみられるときに手術治療を計画します。

ステージ3-4期で抗がん剤治療が有効であった方は、手術と抗がん剤治療のあとにオラパリブ内服による維持療法を検討します。オラパリブはBRCA遺伝子に病的変化がある方のみに有効性が確認されておりますので、ご同意のあった方のBRCA遺伝子の検査を行っております。検査の結果、病的変化が認められるときにはオラパリブの内服をお勧めします。