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中央病院 皮膚腫瘍科 メルケル細胞がんの治療について

更新日 : 2026年5月15日

目次

メルケル細胞がんとは

メルケル細胞がんは、皮膚に発生する非常にまれで進行の速い「希少がん」の一種です。国立がん研究センター中央病院は、こうした希少がんの診療と研究を積極的に行う、日本の中核的な医療機関です。
このがんは皮膚の触覚を司る「メルケル細胞」と似た特徴をもつ細胞であったことからメルケル細胞がんと名づけられました。
年間発生率は10万人に1人未満と極めて稀であるため、診断や治療には高度な専門性が求められます。

原因について

メルケル細胞がんの主な原因は2つ考えられています。半数以上の症例では「メルケル細胞ポリオーマウィルス(MCPyV)」というウィルスの感染が関与していると報告されています。このウィルスは多くの人の皮膚にいますが、加齢や免疫低下をきっかけにがん化を引き起こすことがあります。残りの症例では、ウィルスは関与せず、長年の「紫外線」曝露による遺伝子損傷が主な原因と考えられています。

メルケル細胞がんの症状について

主な症状と特徴

メルケル細胞がんの典型的な見た目は、痛みやかゆみを伴わない、赤色や紫色の光沢のある硬いしこり(結節)です。画像で確認するとドーム状に盛り上がった腫瘍として見えます。
最大の特徴は急速に大きくなることで、数週間から数ヶ月でサイズが倍増することも珍しくありません。
初期は良性のしこりと見分けがつきにくいため、急に大きくなるしこりに気づいた際は、迷わず専門医の診察を受けることが重要です。

好発部位とリスクが高い人

日光(紫外線)を浴びやすい顔、首、腕、脚などが好発部位です。
特に、65歳以上の高齢者、色白の方、長年紫外線を浴びてきた方、そして臓器移植後や特定の血液疾患などで免疫力が低下している方は発症リスクが高いとされています。

メルケル細胞がんの診断について

希少がんであるメルケル細胞がんの診断には、豊富な経験と専門的な設備が不可欠です。
国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科では、経験豊富な知見と技術を駆使した正確な診断を行っています。

専門医による診察と検査

視診・触診とダーモスコピー検査

皮膚腫瘍科の専門医がしこりの見た目や硬さを確認し、ダーモスコピーという特殊な拡大鏡で皮膚の状態を詳細に観察します。

生検(組織検査)による確定診断

診断を確定させる最も重要な検査です。皮膚の一部を採取して顕微鏡で調べる「病理組織検査」を行います。当院の大きな強みは、経験豊富な病理専門医と皮膚腫瘍科医が定期的にカンファレンスを行い、正確な情報に基づいた診断を可能にしている点です。

画像検査による病期診断

診断が確定すると、がんの広がり(病期)を調べるため、CT、MRI、PET-CTなどの画像検査を行います。これにより、リンパ節や他の臓器への転移の有無を正確に評価し、より良い治療方針を立案します。

病期(ステージ)分類

がんの大きさ、リンパ節転移、遠隔転移の有無によって病期(ステージ)が決定され、治療方針を立てる上で最も重要な指標となります。

  • ステージI・II:がんが皮膚に限局している状態
  • ステージIII:所属リンパ節への転移がある状態
  • ステージIV:遠隔転移(肺や肝臓、骨など他の臓器への転移)がある状態

メルケル細胞がんの治療について

治療方針の決定:チームで支える個別化医療

メルケル細胞がんの治療は、単一の診療科で完結するものではありません。
国立がん研究センター中央病院では、皮膚腫瘍科、放射線治療科、病理診断科などの専門家と定期的に治療方針を議論しています。
ここで、患者さん一人ひとりの病期、腫瘍の場所や大きさ、年齢、全身状態、そしてご本人の希望などを総合的に検討し、より良い治療戦略をチームとして決定します。

病期(ステージ)ごとの治療戦略

ステージI・II(がんが皮膚に限局している段階)

・基本治療

手術(広範切除術+センチネルリンパ節生検)が第一選択です。
センチネルリンパ節生検は、患者さんの全身状態やメルケル細胞がんが生じた部位によって、実施されないこともあります。

・センチネルリンパ節生検の結果
      • 陰性(転移なし)の場合: 通常は経過観察となりますが、再発リスクが高いと判断される場合は、切除部位やリンパ領域への術後補助放射線療法を検討します。
      • 陽性(転移あり)の場合: ステージIIIになるので、追加のリンパ節郭清やリンパ領域への放射線療法が必要です。

ステージIII(所属リンパ節への転移がある段階)

・基本治療

手術(広範切除術+リンパ節郭清)と術後補助放射線療法を組み合わせた集学的治療が標準となります。手術と放射線治療を組み合わせることで、局所の再発率を低下させることが分かっています。

ステージIV(遠隔転移がある段階)および再発例

・基本治療

薬物療法(全身治療)が中心となります。
第一選択は、免疫チェックポイント阻害薬です。
皮膚転移や骨転移による痛みなど、特定の症状を和らげる目的で緩和的放射線療法を併用することもあります。

手術療法(局所治療)

がん細胞を物理的に取り除く、最も根治性が期待できる治療法です。

広範切除術

がんの取り残しによる局所再発を防ぐため、腫瘍の縁から一般的に1~2cm離した正常な皮膚を含めて腫瘍を摘出しますが、部位や状況に応じて縮小することがあります。

センチネルリンパ節生検(SLNB)

がんが最初に転移する可能性のあるリンパ節(センチネルリンパ節)を特定し切除することで、目に見えない微小な転移を診断する重要な検査です。この結果によって正確な病期が確定し、不要なリンパ節郭清(腕や脚のむくみであるリンパ浮腫の原因となりうる)を避けることができます。

再建手術

広範囲の切除後も機能と整容性(見た目)を損なわないよう、当院の専門医が、植皮術や皮弁術を用いて、欠損部を修復します。

放射線療法(局所治療)

高エネルギーのX線などを照射してがん細胞を破壊する治療法です。

術後補助放射線療法

手術で切除した部位や転移のあったリンパ節領域に照射し、目に見えない微小ながん細胞を根絶して再発リスクを低減させます。ステージI~IIIの多くの症例で推奨されます。

根治的放射線療法

ご高齢であったり、合併症のために手術が困難な患者さんに対して、手術の代わりに根治を目指して行われることがあります。

緩和的放射線療法

皮膚転移や遠隔転移によって生じる痛み(骨転移)を和らげる目的で、QOL(生活の質)の維持・向上のために行います。

薬物療法(全身治療)

血液の流れに乗って全身のがん細胞を攻撃する治療で、ステージIVや再発例の中心的な治療法です。

免疫チェックポイント阻害薬

・概要

メルケル細胞がん治療の柱となる薬剤です。
がん細胞によってかけられた免疫へのブレーキを外し、患者さん自身の免疫細胞(T細胞)が再びがんを攻撃できるようにする薬です。

・代表的な薬剤

アベルマブが保険適用となっており、治療効果が示されています。

・副作用(免疫関連有害事象: irAE)

免疫が過剰に働くことによる特有の副作用(免疫関連有害事象:irAE)が起こることがあります。
皮膚障害、肺炎、下痢・大腸炎、肝機能障害、甲状腺機能異常、副腎不全、1型糖尿病など、全身のあらゆる臓器に炎症が起こる可能性があります。
まれですが副作用により命にかかわることや、生涯にわたりホルモン補充療法が必要になることもあります。

当院では、皮膚腫瘍科、総合内科、各臓器の専門家が連携し、副作用の早期発見と専門的な管理を行う体制を整えています。

化学療法(抗がん剤治療)

・概要

免疫チェックポイント阻害薬の効果が乏しい場合や、急速に進行する症状を抑える必要がある場合に選択されます。

・代表的なレジメン

がんの性質が似ている小細胞肺がんに準じた治療法(プラチナ製剤とエトポシドの併用など)が行われることが多くあります。

・副作用

骨髄抑制(白血球減少など)、吐き気、脱毛、倦怠感などが一般的ですが、これらの副作用を軽減するための支持療法も積極的に行い、患者さんの負担を和らげます。

ペプチド受容体放射性核種療法

・概要

がん細胞の表面にソマトスタチン受容体という特殊な物質が見られた場合のみ選択されます。
放射線を放出する薬が腫瘍に集まることによって、がん細胞だけを攻撃することができます。
専門的判断のもとで一部の症例で検討されることがあります。

・代表的なレジメン

ルテチウムオキソドトレオチドという薬を使用します。

・副作用

骨髄抑制(白血球減少など)や腎機能障害などが一般的ですが、これらの副作用を軽減するための支持療法も積極的に行い、患者さんの負担を和らげます。

メルケル細胞がんの研究について

臨床試験(治験)

当院は、未来のがん医療を創るための研究開発拠点でもあります。
当科では、国内外の製薬企業や研究機関と連携し、新しい治療薬や治療法の開発を目指す臨床試験(治験)を多数実施しています。

企業治験

特定の固形癌若しくはリンパ腫を有する小児患者、又は進行性メルケル細胞癌を有する成人患者を対象とした、MK-3475の第I/II相試験(KEYNOTE-G21)(MSD株式会社)

メルケル細胞がんの療養について

国立がん研究センター中央病院では、治療そのものだけでなく、患者さんの療養生活全体のサポートにも力を入れています。

副作用のケアと日常生活の工夫

看護師や薬剤師、栄養士などの専門スタッフがチームとなり、治療に伴う様々な副作用への対処法やセルフケアについて、具体的なアドバイスを提供します。

精神的・社会的なサポート体制

院内には「がん相談支援センター」が設置されており、希少がんであることの不安や療養生活の悩みなど、あらゆる相談に専門の相談員が対応します。精神的な負担を和らげるためのサポート体制が充実しています。

中央病院 皮膚腫瘍科を受診される皆様へ

メルケル細胞がんと診断された、あるいはその疑いがあると告げられた患者さん、ご家族の皆様は、情報が少ないこともあり、大きな不安の中にいらっしゃることと存じます。
私たち国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科は、そのような希少がんの患者さんにこそ、より良い医療を届けたいという強い使命感を持って日々診療にあたっています。
初診から診断、治療、そして療養に至るまで、各分野の専門家がチーム一丸となって患者さん一人ひとりをサポートする体制が当院の強みです。
他院で診断された方のセカンドオピニオンも積極的に受け入れていますので、どうぞご相談ください。

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メッセージ

「メルケル細胞がん」という聞き慣れない病名を告げられ、先の見えない不安を感じていらっしゃるかもしれません。「希少がん」と聞くと、孤独を感じ、希望を失いそうになることもあるでしょう。しかし、決して一人ではありません。
メルケル細胞がんの治療は、この数年で劇的に進歩しました。特に免疫チェックポイント阻害薬の登場は、治療成績を大きく向上させています。私たち国立がん研究センター中央病院には、これらの新しい治療薬を安全かつ効果的に用いる豊富な経験があります。また、私たちは治療を行うだけでなく、未来の治療を創るための研究や治験もリードする立場にあります。
あなたにとってのより良い治療は何か。それを、私たち医療チームとあなた、そしてご家族が、ひとつのチームとなって一緒に考え、見つけ出していきたいと思っています。
どんな些細なことでも構いません。あなたの不安や希望を、私たちに聞かせてください。一人で悩まず、まずは相談の扉を叩いてみてください。私たちは、あなたと共にがんと闘うパートナーです。

並川 健二郎 (なみかわ けんじろう)

皮膚腫瘍科長 並川 健二郎

専門医・認定医資格など:

日本皮膚科学会 認定皮膚科専門医
日本皮膚科学会 認定皮膚悪性腫瘍指導専門医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医

中野 英司(なかの えいじ)2022.jpg

皮膚腫瘍科医長 中野 英司

専門医・認定医資格など:

日本皮膚科学会 認定皮膚科専門医
日本皮膚科学会 認定皮膚悪性腫瘍指導専門医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医

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皮膚腫瘍科医員 鹿毛 勇太

専門医・認定医資格など:

日本皮膚科学会 認定皮膚科専門医

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皮膚腫瘍科医員 瀬下 治孝

専門医・認定医資格など:

日本皮膚科学会 認定皮膚科専門医