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中央病院 皮膚腫瘍科 血管肉腫の治療について
更新日 : 2026年3月25日
目次
- 血管肉腫とは
- 血管肉腫の症状について
- 血管肉腫の診断について
- 血管肉腫の治療について
・手術(外科治療)
・放射線治療:局所制御率を高めるための重要な治療
・薬物療法:全身に効果を及ぼす治療
・化学放射線療法 - 血管肉腫の研究について
- 血管肉腫の療養について
- 中央病院 皮膚腫瘍科を受診される皆様へ
血管肉腫とは
血管肉腫(けっかんにくしゅ、Angiosarcoma)は、血管やリンパ管の内皮細胞から発生する悪性度の高い「肉腫(サルコーマ)」です。脈管肉腫(みゃっかんにくしゅ)と言われることもあります。
100万人に1~2人という極めて稀な「希少がん」であり、その診断と治療には高度な専門性が求められます。
特に高齢者の頭皮や顔面に好発し、進行が速く、再発・転移のリスクが高いことが特徴です。その明確な「原因」は多くの場合不明ですが、長年の紫外線曝露、外傷、過去の放射線治療歴、慢性的なリンパ浮腫などがリスク因子として知られています。
このような希少かつ難治性の皮膚がんに対して、国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科は、「皮膚がん」を専門とする診療科として設立されました。血管肉腫の「診療」実績は豊富であり、手術、薬物療法、放射線治療、そして「研究」まで、全ての治療選択肢を駆使できる体制を整えています。
血管肉腫の治療は、経験豊富な専門施設に集約して行うことが推奨されており、当科はその中核を担っています。
血管肉腫の症状について
血管肉腫は、その「見た目」が非常に多様で、他の皮膚疾患と見間違えられやすい特徴があります。
早期発見のためには、以下のような症状に注意が必要です。
皮膚の症状(特に頭皮・顔面)
初期には、治りにくい赤紫色の「あざ」や「しみ」、あるいは「打ち身」のように見えます。
少し盛り上がった「しこり」や、にじんだような赤い斑点として現れることもあり、湿疹や血管腫と誤診されるケースも少なくありません。
進行すると病変部が拡大し、潰瘍(かいよう)を形成して出血したり、痛みや腫れを伴ったりします。
その他の部位
乳がんの放射線治療後の胸壁や、手術後のリンパ浮腫がある腕や脚、まれに肝臓や心臓などの内臓に発生することもあります。
気になる症状があれば、ためらわずに専門医に相談することが重要です。
血管肉腫の診断について
血管肉腫が疑われる場合、確定診断のためには専門医による精密な検査が必要です。
生検による病理組織学的診断
最終的な確定診断は、腫瘍組織の一部を採取する「生検」によって行われます。
国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科では、経験豊富な皮膚科医が的確な部位から組織を採取し、それを病理診断科の専門医が詳細に検討します。
免疫組織化学染色という特殊な方法で血管内皮細胞のマーカー(CD31など)を確認し、血管肉腫であると確定させます。この正確な病理診断が、その後の治療方針を決定する最も重要な基盤となります。
画像検査(CT、MRI、PETなど)
国立がん研究センター中央病院では、最新の「画像」診断機器を用いて、腫瘍の広がりや転移の有無を詳細に評価します。
CTは肺などへの遠隔転移のチェック、MRIは腫瘍の局所の浸潤範囲の評価に有用です。また、PET/CT検査は全身のがん細胞の活動性を評価し、予期せぬ転移巣の発見や治療効果判定に重要な役割を果たします。
血管肉腫の治療について
血管肉腫の治療は、がんの進行度(病期)、発生部位、患者さんの全身状態やご希望などを総合的に考慮し、手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせた「集学的治療」を行います。
国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科では、これらの治療法を専門とする医師が一つの科に在籍し、さらに先端医療科や腫瘍内科、放射線治療科、病理診断科など専門家と密に連携する「チーム医療」を実践しています。
全ての新規の患者さんについて治療方針を徹底的に議論し、一人ひとりにとってより良い治療計画(個別化治療)を立案します。
治療方針の決定:病期に応じた標準的な治療戦略
治療方針は、がんが原発部位にとどまっている「限局期」か、他の臓器に転移している「転移期」かによって大きく異なります。
限局期(転移がない場合)
病気の性質上、血管を伝って周りに広がっていることが多く、手術だけでは再発することが多いことが分かっています。
近年は放射線治療と薬物療法を組み合わせることが多いですが、手術も加えた集学的治療を行うこともあります。
転移期・再発期
全身に広がったがん細胞をコントロールすることが目標となります。薬物療法が治療の中心となり、症状緩和を目的として放射線治療や手術が検討されることもあります。
1.手術(外科治療)
広範切除
血管肉腫は、肉眼で見える範囲(あざやしこり)を越えて、顕微鏡レベルで周囲に広がっている(浸潤している)特性があります。
そのため、手術を行う場合には、腫瘍の縁から数cm程度の十分な安全域(マージン)を含めて広範囲に切除することが重要です。
切除と再建
特に頭皮や顔面では、広範切除によって大きな皮膚欠損が生じます。
当科では、専門とする医師が、必要に応じて形成外科医と協力し、植皮術(体の別の部位から皮膚を移植する)や皮弁術(血流のある皮膚や組織を移動させる)といった再建手術を同時に行います。
当科での取り組み
当科には皮膚外科手術に習熟した医師が複数在籍しており、高難度の手術・再建にも対応可能です。
術前の画像診断と豊富な経験に基づき、根治性を損なうことなく、できる限り患者さんの負担が少なくなるような手術計画を立案します。
2.放射線治療:局所制御率を高めるための重要な治療
高エネルギーのX線などを照射してがん細胞を破壊する治療です。様々な目的で用いられます。
術後補助療法
手術で切除した領域全体に放射線を照射し、目に見えないレベルで残存している可能性のあるがん細胞を根絶します。
これにより、局所再発のリスクを低下させることが期待できます。特に頭皮の広範な病変に対しては、頭皮全体への照射が推奨されることもあります。
根治的放射線治療
手術が困難な場合や広範囲の病変の場合に、放射線治療を単独、あるいは薬物療法と併用して行います。
緩和的放射線治療
転移による痛みや出血などの症状を和らげる目的で行います。
当院の放射線治療科では、より良い技術を用いて、正常な組織への影響を最小限に抑えながら、腫瘍に高線量を集中させる高精度な治療が可能です。
3.薬物療法:全身に効果を及ぼす治療
放射線と組み合わせて初回治療として行われたり、進行・再発した場合や術後補助療法として行われる、全身に行き渡る治療です。
化学療法(抗がん剤)
・パクリタキセル(タキサン系抗がん剤)
血管肉腫に対して効果が高いとされる標準治療薬(第一選択薬)です。細胞分裂を阻害してがん細胞を攻撃します。
多くの場合、副作用を軽減しつつ効果を維持するため、週に1回点滴で投与します。
主な副作用には、脱毛、手足のしびれ(末梢神経障害)、アレルギー反応、白血球減少(骨髄抑制)などがあります。
・その他の抗がん剤
ゲムシタビン+ドセタキセル(タキサン系)、ドセタキセル、ドキソルビシン、エリブリン、トラベクテジンなどが、状況に応じて使用されることがあります。
分子標的薬
・パゾパニブ
がんの増殖や転移に関わる血管新生(新しい血管が作られること)などを阻害する内服薬です。
タキサン系抗がん剤の効果が乏しい場合や、副作用で使用できない場合の重要な治療選択肢となります。
主な副作用には、高血圧、下痢、肝機能障害、タンパク尿、毛髪の変色などがあります。
・副作用とその対策(支持療法)
当科では、薬物療法の副作用を可能な限り軽減し、患者さんが安心して治療を続けられるよう、専門の看護師や薬剤師がチームに参加しています。
吐き気止めや痛み止め、感染症予防薬の適切な使用、スキンケア指導、精神的なサポートなど、きめ細やかな支持療法を早期から行います。
4.化学放射線療法
手術が困難な場合や広範囲な病変の限局性の血管肉腫に対して、薬物療法(主にパクリタキセル)と放射線治療を同時に行う治療法です。
それぞれの治療効果を高め合うことが期待できますが、副作用も出やすいため、患者さんの状態を慎重に見極めながら適応を判断します。
血管肉腫の治療は複雑であり、専門的な判断が求められます。当科では、これらの治療選択肢をより良い組み合わせ、患者さん一人ひとりにより良い医療を提供することをお約束します。
血管肉腫の研究について
臨床試験(治験)
当院は、未来のがん医療を創るための研究開発拠点でもあります。
当科では、国内外の製薬企業や研究機関と連携し、新しい治療薬や治療法の開発を目指す臨床試験(治験)を実施しています。
- 切除不能皮膚血管肉腫に対するペムブロリズマブ+レンバチニブ併用療法の第II相医師主導治験(外部サイトにリンクします。)
血管肉腫の療養について
がんの治療は、医療機関で行う治療だけでなく、患者さんご自身の「療養」生活も非常に重要です。
当院では、患者さんとご家族が安心して治療に向き合えるよう、多職種によるサポート体制を整えています。
支持・緩和医療
がんと診断された早期から、緩和ケアチームやサポーティブケアセンターが介入します。治療に伴う痛みや倦怠感、外見の変化による精神的なつらさなどを和らげ、QOL(生活の質)を高く保ちながら治療を続けられるよう支援します。
相談支援
院内の「がん相談支援センター」では、専門の相談員が療養生活全般の悩みや、高額療養費制度などの医療費に関する相談に対応します。
治療後の生活
治療後も、再発を早期に発見するための定期的な経過観察が続きます。当科では長期的なフォローアップ体制も万全です。
紫外線対策やリンパ浮腫のケアなど、日常生活での注意点についても専門的な指導を行っています。
中央病院 皮膚腫瘍科を受診される皆様へ
血管肉腫という聞き慣れない病名を告げられ、今、大きな不安の中にいらっしゃるかもしれません。どうか、一人で悩まないでください。
私たち国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科は、まさにそのような希少な皮膚がんの患者さんと共に病気に立ち向かうために設立された専門家集団です。
現在の診断や治療方針に疑問や不安がある場合、セカンドオピニオンとして当科にご相談いただくことも可能です。専門家チームの見解を聞くことで、ご自身の状況をより深く理解し、納得して次のステップに進むことができます。
私たちの扉は、常に開かれています。まずは、かかりつけの先生にご相談の上、紹介状をご準備いただき、一歩を踏出してください。
受診をご希望の方へ
メッセージ
血管肉腫は、確かに手強い病気です。しかし、この10年で治療は大きく進歩しました。特にパクリタキセルによる化学療法や分子標的薬、強度変調放射線治療(IMRT)の登場は、進行した患者さんの治療成績を確実に向上させています。
私たち国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科の最大の強みは、各分野のエキスパートが結集した「チーム医療」です。毎週のカンファレンスでは、全ての患者さんの治療方針を、先端医療科や腫瘍内科、放射線治療科、病理診断科がそれぞれの専門的視点から徹底的に議論します。これにより、患者さん一人ひとりにとっての「現時点での善手」を導き出します。さらに、私たちは日本のがん研究を牽引するナショナルセンターとして、新たな治療法を開発する「研究」と「治験」を使命としています。標準治療で効果が不十分な場合でも、決して諦めることはありません。あなたの不安や希望を私たちに聞かせてください。
私たちは、あなたとご家族に寄り添い、共に病気に立ち向かうパートナーです。この記事を読んで少しでも気になる症状があれば、どうかためらわずに専門医の扉を叩いてください。そこから、未来への道が拓きます。

皮膚腫瘍科長 並川 健二郎
専門医・認定医資格など:
日本皮膚科学会 認定皮膚科専門医
日本皮膚科学会 認定皮膚悪性腫瘍指導専門医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医

皮膚腫瘍科医長 中野 英司
専門医・認定医資格など:
日本皮膚科学会 認定皮膚科専門医
日本皮膚科学会 認定皮膚悪性腫瘍指導専門医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医

皮膚腫瘍科医員 鹿毛 勇太
専門医・認定医資格など:
日本皮膚科学会 認定皮膚科専門医

皮膚腫瘍科医員 瀬下 治孝
専門医・認定医資格など:
日本皮膚科学会 認定皮膚科専門医

