コンテンツにジャンプ

トップページ > 診療科 > 肝胆膵内科 > 中央病院 肝胆膵内科 肝臓がんの治療について

中央病院 肝胆膵内科 肝臓がんの治療について

目次

肝臓がんとは

肝臓の役割と機能

肝臓は、生命維持に不可欠な役割を担う「沈黙の臓器」です。

  • 代謝機能:食事から得た栄養素をエネルギーに変えて貯蔵します。
  • 解毒機能:アルコールや薬など体内の有害物質を分解します。
  • 胆汁の生成:脂肪の消化を助ける胆汁を作り出します。

肝臓がんの種類と特徴

肝胆膵内科では、主に以下の肝臓がんを専門的に診療します。

    • 肝細胞がん:肝臓の肝細胞から発生するがんで、日本の肝臓がんの約90%を占めます。
    • 肝内胆管がん:肝臓内の胆管細胞から発生するがんです。

肝臓がんの原因とリスク要因

主な原因は肝炎ウイルスの持続感染ですが、近年は生活習慣に関連する原因も増加しています。

  • C型・B型肝炎ウイルス:慢性肝炎や肝硬変を引き起こし、がん化のリスクを高めます。
  • アルコールの過剰摂取:アルコール性肝障害や肝硬変の原因となり、がん化のリスクを高めます。
  • 代謝異常関連脂肪肝炎(MASH):肥満や糖尿病などを背景に発症し、肝がんの原因として増加傾向にあります。

肝臓がんの症状・診断について

初期症状と定期検診の重要性

肝臓がんは初期症状がほとんどないため、リスクを持つ方は症状がなくても定期的な検診を受けることが極めて重要です。

国立がん研究センターによる早期発見の取り組み

ハイリスク群の方々に対し、3~6ヶ月ごとの腹部超音波検査と腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-II)測定を組み合わせた定期検診を推奨しています。

検査方法の種類

がんが疑われた場合、以下の検査を組み合わせて精密な診断を行います。

  • 血液検査:肝機能や腫瘍マーカーを調べます。
  • 腹部超音波検査:がんの有無や大きさ、個数などを確認します。
  • CT検査・MRI検査:造影剤を使用し、がんの性質や広がりを詳細に評価します。

    肝臓がんの治療について

    肝臓がん、特にその大半を占める肝細胞がんに対する治療は、手術、穿刺局所療法(RFA, PEI)、カテーテル治療(TAE, TACE, TAI)、薬物療法(全身化学療法)、放射線療法など多岐にわたります。
    国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科では、個々の患者さんのがんの進行度(ステージ)や広がり、そして何よりも肝臓が持つ本来の機能(肝予備能)を精密に評価します。
    その上で、キャンサーボードでの多角的な検討を経て、一人ひとりにとって最も効果が期待でき、かつ身体への負担も考慮したより良い治療方針を選択し、実践しています。

    手術による治療

    がんを根本的に取り除く最も有効な治療法です。
    キャンサーボードで手術がより良いと判断された場合、肝胆膵外科とシームレスに連携し、治療を進めます。

    穿刺局所療法

    体の負担が少ない低侵襲治療です。
    超音波(エコー)装置を用いて体内の様子をリアルタイムに観察しながら、体の外から針を刺してがんを直接治療します。
    主にがんの個数が少なく、大きさが比較的小さい場合に選択されます。
    キャンサーボードで穿刺局所療法がよりよいと判断された場合、放射線診断科とシームレスに連携し、治療を進めます。

    • ラジオ波焼灼療法(RFA):超音波でがんの位置を確認しながら特殊な針を刺し、ラジオ波という電流で熱を発生させてがん細胞を焼き固める(焼灼する)治療法です。
    • 経皮的エタノール注入療法(PEI):同様に超音波でがんを狙い、純度の高いアルコール(エタノール)を注入してがん細胞を壊死させる治療法です。

    カテーテル治療(肝動脈塞栓術/化学塞栓術)

    足の付け根などからカテーテルという細い管を血管内に挿入し、肝臓の動脈まで進めて行う治療です。がんが多発している場合や、穿刺局所療法が難しい場合に選択されます。
    キャンサーボードでカテーテル治療がよりよいと判断された場合、放射線診断科とシームレスに連携し、治療を進めます。

    • 肝動脈化学塞栓療法(TACE):がんに栄養を送る血管に抗がん剤を注入し、さらに塞栓物質で血管を詰まらせることで、がんを「兵糧攻め」にする治療法です。
    • 肝動脈塞栓療法(TAE):抗がん剤は使用せず、塞栓物質のみで血管を塞ぎ、がんへの血流を遮断します。
    • 肝動注化学療法(TAI):血管を塞がずに、カテーテルを通じて高濃度の抗がん剤を直接がんに注入する治療法です。

    化学療法(全身化学療法)

    進行した肝臓がんや、他の治療法が困難な場合に選択される治療法です。
    飲み薬や点滴によって抗がん剤を全身に行き渡らせ、がんの増殖を抑えたり、縮小させたりすることを目指します。
    これは、国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科が中心となって行う治療です。

    薬物療法は、がんの状態に応じて段階的に行われ、患者さん一人ひとりにより良いプランを組み立てていきます。

      1. 一次治療(最初に用いる治療法)

      現在、世界の標準治療として複数の選択肢があり、それぞれの特徴を考慮してより良いものを選択します。

      ・免疫チェックポイント阻害薬を中心とした併用療法

      がん細胞は、私たちの免疫細胞に「攻撃しないで」という"ブレーキ"をかけることで生き延びています。
      この薬は、そのブレーキを解除し、患者さん自身の免疫力が再びがんを攻撃できるようにする画期的な治療法です。

      代表的な治療法(点滴)
      • アテゾリズマブ+ベバシズマブ療法:免疫チェックポイント阻害薬とがん細胞に栄養を送る血管の成長を阻害する分子標的薬との併用療法です。
      • デュルバルマブ+トレメリムマブ療法:免疫チェックポイント阻害薬2剤による併用療法です。
      • イピリムマブ+ニブルマブ療法:免疫チェックポイント阻害薬2剤による併用療法です。

      2.二次治療以降(一次治療の効果が弱まった後の治療法)

      一次治療で使った薬の種類や患者さんの状態に合わせて、次の治療を選択します。

      ・分子標的薬

      がん細胞が増殖したり、栄養を運ぶ血管を作ったりするのに必要な、特定の分子(目印)だけを狙い撃ちする薬です。
      がんの成長や栄養補給路を直接断ち切ります。

      代表的な治療法(飲み薬)
          • レンバチニブ(飲み薬)
          • ソラフェニブ(飲み薬)
          • レゴラフェニブ(飲み薬)
          • カボザンチニブ(飲み薬)
          • ラムシルマブ(点滴):特定の条件を満たす患者さんに用いられます。

      治療方針の決定方法(治療の選択基準)

      どの治療法を選択するかは、以下の点を総合的に評価し、専門家チーム(キャンサーボード)で慎重に決定します。

      • がんの進行度と肝臓の機能(肝予備能)
      • 患者さんの全身状態や併存疾患(特に自己免疫疾患や消化管出血のリスクの有無)
      • 一次治療でどの薬剤を使用したか

      副作用とその対策(副作用マネジメント)

      薬物療法には副作用が伴いますが、その多くは早期発見と適切な対応でコントロール可能です。
      当院では、医師・看護師・薬剤師からなる専門チームによる、きめ細やかな副作用マネジメントを行っています。

      免疫チェックポイント阻害薬の主な副作用

        • 免疫関連有害事象(irAE): 免疫が活発になりすぎることで、稀に正常な臓器を攻撃してしまうことがあります。(例: 皮膚炎、甲状腺機能異常、大腸炎、肝機能障害など)
          対策:早期発見が非常に重要です。重症化を防ぐためには早期発見が重要です。気になる症状がある場合は早めに医師や看護師、薬剤師等に相談しましょう。

      分子標的薬の主な副作用

        • 高血圧、手足症候群(手足の痛みや腫れ)、下痢、疲労感など。
          対策: 血圧管理や保湿ケア、症状を和らげる薬の使用など、日常生活の中で行える対策を看護師や薬剤師が丁寧に指導します。

      放射線治療

      高精度な照射技術である「定位放射線治療(SBRT)」や、副作用の少ない「粒子線治療」など、最新の放射線治療も集学的治療の一環として選択肢に含まれます。

      当院には「粒子線治療」の設備はありませんので、ご希望の場合は他院での実施となります。

      肝臓がんの研究について

      新しい治療法の研究

      標準治療だけでなく、個々のがんの遺伝子情報に基づく「ゲノム医療」を推進。従来の治療法が効かなくなった患者さんに新たな治療の選択肢を提示します。

      国立がん研究センターの研究開発

      肝胆膵内科では、国内でも多数の「臨床試験(治験)」を継続的に実施しており、研究体制が整っています。肝臓がんの患者さんを対象に開発中の新薬を用いた治験が選択肢となる場合があります。

      中央病院で実施している治験情報、治験・臨床試験についてはこちら

      患者支援と情報提供

      当院では医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーなど多職種による「チーム医療」を推進しています。セカンドオピニオンにも積極的に対応し、「がん相談支援センター」では療養生活のあらゆる相談に応じています。

      肝臓がん治療の選択肢と重要性

      肝胆膵内科は、薬物療法と治験を強みとし、外科や放射線科と連携する「集学的治療」で、一人ひとりにより良い治療を提供します。

      早期発見と予防のための取り組み

      最新の検査技術による早期発見と、原因となる肝疾患の管理に力を入れています。

      治療後の生活と再発防止のポイント

      治療後も長期的なフォローアップとチーム医療による手厚いサポートで、再発防止とQOL(生活の質)の維持を目指します。

      肝臓がんの療養について

      治療後の定期検査

      肝臓がんは再発しやすいため、治療後の定期的な経過観察が極めて重要です。再発の早期発見が、次の治療戦略に繋がります。

      生活習慣の改善

      療養生活では、肝臓への負担を減らすことが再発予防につながります。

      • 禁酒:アルコールは肝臓に直接ダメージを与えるため、必須です。
      • バランスの取れた食事:管理栄養士による栄養指導も可能です。
      • 適度な運動:体力の維持と肥満防止に努めます。

      慢性肝疾患患者へのアプローチ

      がんの根本原因であるB型・C型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス療法は、肝機能の悪化を防ぎ、再発リスクを低減させます。

      中央病院 肝胆膵内科を受診される皆様へ

      患者さんの選択肢を広げる取り組み

      • セカンドオピニオン: 全国の患者さんからのセカンドオピニオンを積極的に受け入れ、納得のいく治療選択を支援します。
      • 情報提供: ウェブサイトなどを通じ、信頼できる新しい情報を発信します。
      • 患者支援プログラム: 院内の「がん相談支援センター」では、治療の悩みから臨床試験に関する情報まで、あらゆる相談に対応しています。

      メッセージ

      国立がん研究センター 中央病院 肝胆膵内科のページをご覧いただき、誠にありがとうございます。
      私たちは、肝臓がんに直面されている患者さん一人ひとりに対し、正しい知見と技術、そして温かい心をもってより良い医療を提供することを使命としています。
      がんの診断を受け、不安な日々をお過ごしのことと存じます。
      この記事が、皆様がご自身の病気への理解を深め、これから始まる治療に希望を持って臨むための一助となれば幸いです。

      奥坂 拓志 (おくさか たくじ)

      肝胆膵内科長 奥坂 拓志

      専門医・認定医資格など:
      医学博士
      日本内科学会指導医・認定内科医
      日本消化器病学会指導医・専門医
      日本胆道学会指導医
      日本膵臓学会指導医

      受診をご希望の方へ

      外来受診のご案内
      セカンドオピニオンのご案内