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中央病院 肝胆膵内科 胆道がんの治療について
目次
- 胆道がんとは
- 胆道がんの症状・診断について
- 胆道がんの治療について
・内視鏡を用いた低侵襲治療
・化学療法:当科の強み - 胆道がんの研究について
- 胆道がんの療養について
- 中央病院 肝胆膵内科を受診される皆様へ
胆道がんとは
胆道がんとは、肝臓で作られる消化液「胆汁」の通り道である胆道に発生する悪性腫瘍の総称です。
がんができる場所によって、性質や治療法が大きく異なります。

図:胆道と周囲の臓器
出典:国立がん研究センターがん情報サービス
発生部位
- 肝内胆管:肝臓の中の胆管
- 肝外胆管:肝臓の外の胆管
- 胆のう:胆汁を一時的に蓄える袋
- 十二指腸乳頭部:胆管が十二指腸につながる出口
胆道がんの種類
発生場所によって、主に以下の3つに大別されます。
- 胆管がん
- 胆のうがん
- 十二指腸乳頭部がん
発症のリスク要因
明確な原因はまだ不明ですが、胆道の慢性的な炎症がリスクを高めることが知られています。
- 原発性硬化性胆管炎
- 先天性胆管拡張症
- 胆石 など
胆道がんの症状・診断について
胆道がんは早期には症状が出にくいため、発見が遅れることがあります。
しかし、がんが進行すると特徴的な症状が現れることがあります。正確な診断は、より良い治療への第一歩です。
主な症状
以下のような症状に気づいた場合は、専門医にご相談ください。
- 黄疸(おうだん):皮膚や白目が黄色くなる
- 胆管炎(たんかんえん):高熱がでる
- 白色便:便の色が白っぽくなる
- 褐色尿:尿の色が濃い茶色になる
- 皮膚のかゆみ
- 腹痛(特に右上腹部)
- 体重減少、食欲不振、全身の倦怠感
精密診断:内視鏡を駆使した当科の専門技術
血液検査やCT、MRIといった画像検査で胆道がんが疑われた場合、診断を確定するためには、がん細胞を直接採取して調べる「病理診断」が不可欠です。
当科では、高度な内視鏡技術を駆使し、身体への負担を最小限に抑えながら、迅速かつ確実な診断を行います。
- ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影):口から内視鏡を挿入し、胆管の出口から細い管(カテーテル)を入れて造影剤を注入し、胆管の形をX線で詳しく撮影します。この検査と同時に、狭くなった部分の細胞や組織を採取することで、がんの確定診断を行います。
- EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引法):内視鏡の先端についた超音波(エコー)でがんを詳細に観察しながら、内視鏡を通してごく細い針を刺し、安全に組織を採取する手技です。当院では病理診断医が検査に立ち会い、その場で診断する「迅速細胞診(ROSE)」を導入しており、一度の検査で診断を確定できる確率が非常に高くなっています。
詳細はERCPやEUS-FNAの内視鏡を使った診断治療のページをご覧ください。
胆道がんの治療について
胆道がんの治療は、手術、放射線治療、薬物療法が三本柱です。
当科では、これらの治療法と密接に連携しながら、特に専門とする「内視鏡を用いた低侵襲治療」と「薬物療法」において、国内でも高水準の医療を提供しています。
内視鏡を用いた低侵襲治療(黄疸の改善)
がんによって胆管が塞がれると、胆汁が流れなくなり黄疸が生じます。
黄疸は生活の質(QOL)を著しく低下させるだけでなく、胆管炎による感染の原因となり、治療の継続を困難にするため、速やかな改善が必要です。
当科では、患者さんの状態に合わせてより良い内視鏡治療を選択します。
- ERCPを用いたステント留置術: ERCPの際に、狭くなった胆管に「ステント」と呼ばれる管を留置し、胆汁の流れ道を確保(ドレナージといいます)します。これにより黄疸を改善させます。
- Interventional EUS(EUS下治療): 胃カメラの構造上、ERCPでの治療が困難な患者さんに対して行われる高度な手技です。胃や十二指腸から直接胆管に針を刺してステントを留置します。体の外にチューブを出す必要がないため、患者さんのQOLを格段に向上させることができます。当院では、これまでに多数の症例に対応してきた実績があります。
化学療法:当科の強み
手術が難しい進行・再発胆道がんの治療の柱は、化学療法です。
当科は、胆道がんの化学療法を牽引する日本を代表するエキスパート集団であり、その強みは多岐にわたります。
胆道がんの化学療法は近年大きく進歩しており、主に以下の3つのカテゴリーの薬剤を、患者さん一人ひとりの状態やがんの性質に応じて、単独または組み合わせて用います。
1. 標準化学療法(細胞障害性抗がん剤や免疫療法の組み合わせ)
がん細胞の増殖を直接抑える「細胞障害性抗がん剤」と、自身の免疫力を高めてがんを攻撃する「免疫チェックポイント阻害薬」を組み合わせる治療が、現在の世界の標準となっています。
・一次治療:GC+D療法
ゲムシタビン (Gemcitabine)
シスプラチン (Cisplatin)
デュルバルマブ (Durvalumab):免疫チェックポイント阻害薬
この3剤を併用する治療法は、当院も参加した国際共同臨床試験によって有効性が証明され、新たな標準治療となりました。
私たちは、この治療法を開発段階から深く知る立場として、最大限の効果を引き出し、副作用を的確に管理するノウハウを有しています。
・一次治療:GC+P療法
ゲムシタビン (Gemcitabine)
シスプラチン (Cisplatin)
ペムブロリズマブ (Pembrolizumab):免疫チェックポイント阻害薬
GC+D療法同様、国際共同臨床試験によって有効性が証明され、新たな標準治療となりました。
私たちは、この治療法の豊富な使用経験から副作用を的確に管理するノウハウを有しています。
・一次治療:GCS療法
ゲムシタビン (Gemcitabine)
シスプラチン (Cisplatin)
テガフール, ギメラシル, オテラシルカリウム(S-1)
国内で実施された臨床試験によって有効性が証明され、新たな標準治療となりました。
免疫チェックポイント阻害薬が使いづらい方などに使用されます。
*GC+D療法やGC+P療法、GCS療法といった3剤併用療法が体力や合併症などから使いづらい場合はGC療法(Gemcitabine+Cisplatin)、GS療法(Gemcitabine+S-1)、Gemcitabine単剤療法などを体調に合わせて検討いたします。
・二次治療以降
一次治療の効果が乏しくなった場合に用いる治療です。
患者さんの状態や、それまでの治療内容によって選択肢は異なります。
- S-1療法
- その他、個々の状況に応じて様々な薬剤が検討されます。
2. 個別化医療(プレシジョン・メディシン):分子標的薬など
当院は、がんゲノム医療の中核拠点病院です。がん細胞の遺伝子情報を網羅的に調べる「がんゲノムプロファイリング検査」を積極的に活用し、特定された遺伝子異常を標的とする薬剤を用いる「個別化医療」を推進しています。
これにより、一部の患者さんでは、従来の抗がん剤とは異なる作用機序で、より高い効果が期待できる場合があります。
・代表的な遺伝子異常と分子標的薬の例
- FGFR2融合遺伝子 → ペミガチニブ、フチバチニブ、タスルグラチニブ
- BRAF V600E遺伝子変異 → ダブラフェニブ + トラメチニブ
- NTRK融合遺伝子 → エヌトレクチニブ, ラロトレクチニブ
- MSI-High(高頻度マイクロサテライト不安定性) → ペムブロリズマブ
- TMB-High(高い腫瘍遺伝子変異量)→ ペムブロリズマブ
- RET融合遺伝子→セルペルカチニブ
これらの治療は、該当する遺伝子異常を持つ患者さんにとって、非常に重要な選択肢となります。
当院では、検査から治療選択、実施までをスムーズに行う体制が整っています。
治療を支える徹底した副作用マネジメント:チームで支える継続的な治療
薬物療法を長く、安心して続けるためには、副作用の管理が不可欠です。
当科では、医師だけでなく、がん薬物療法に精通した専門薬剤師や看護師がチームの一員として深く関与し、予測・予防・個別対応を通じて、患者さんの生活の質(QOL)を最大限に維持できるよう全力でサポートします
当院の特色
ここに挙げた薬剤は代表的なものであり、実際の治療方針は、がんの進行度、発生部位、胆管狭窄や黄疸の状況、遺伝子情報、そして患者さんご本人の全身状態や希望などを総合的に考慮し、専門医が「キャンサーボード」での議論を経て決定します。
胆道がんの研究について
私たちは、ただ既存の治療を行うだけではありません。
国内外の製薬企業や研究機関と連携し、新しい薬の効果と安全性を確かめる臨床試験(治験)を数多く主導・参加しています。
標準治療で効果が乏しくなった場合でも、当院で実施されている治験に参加することで、まだ世に出ていない新しい治療を受けられる可能性があります。
これは、未来の標準治療を創出する使命を担う当院ならではの強みの一つです。
ご自身の状況が治験の対象となるかなど、詳しくは担当医にご相談ください。
中央病院で実施している治験情報、治験・臨床試験についてはこちら
胆道がんの療養について
胆道がんの治療は、時に長期間に及ぶことがあります。
当科では、より良い治療による生存期間の延長を追求すると同時に、患者さんが治療を受けながらも、その人らしい生活を維持・向上させることを極めて重要な目標と考えています。
そのための包括的なサポート体制を構築しています。
中央病院 肝胆膵内科を受診される皆様へ
- 診断から治療まで一貫した専門性:内視鏡による精密診断から、化学療法まで、切れ目のない高度な医療を提供します。
- 治療の選択肢が豊富:標準治療はもちろん、未来の治療となる可能性を秘めた臨床試験(治験)へのアクセスは、当院ならではの大きな強みです。
- チームであなたを支えます:患者さんとご家族が治療の主役です。私たちは、病気や治療について何でも相談できるパートナーでありたいと考えています。
メッセージ
胆道がんという病気は、胆管の狭窄が高頻度に起こり黄疸や胆管炎のリスクが高いのが特徴です。胆管ドレナージをしっかりしたうえで、病態に応じたより良い治療法選択をする必要があり、様々ながんの中でも特に多面的な知識と技術が必要です。私たちはそれぞれの分野に精通した専門家がそろっており、チーム一丸となって立ち向かいます。あなたにとってのより良い医療を、ここで一緒に見つけましょう。」

肝胆膵内科医長 森實 千種
専門医・認定医資格など:
医学博士
日本内科学会認定内科医
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医