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肝臓がん・胆道がん・膵臓がんの療養について生活の質(QOL)を高めるための穏やかな暮らしの工夫

更新日 : 2025年12月17日

肝臓がん・胆道がん・膵臓がんは、いずれも消化器系のがんであり、早期発見が難しいという共通点があります。
がんと診断された患者さんや、そのご家族は、病気そのものへの不安に加え、治療や今後の生活について多くの戸惑いやストレスを抱えていることが少なくありません。
しかし、治療法は日々進歩しており、さまざまなサポートを活用することで、治療中もその人らしい穏やかな生活を送ることは可能です。

このページでは、肝臓・膵臓・胆道がんの基礎知識から、生活の質(Quality of Life; QOL)を高めるための具体的な工夫まで、療養生活に役立つ情報をお届けします。

目次

肝臓がん・胆道がん・膵臓がんの基礎知識と治療法

これらのがんは「沈黙の臓器」に関連することが多く、症状が出にくいのが特徴です。まずは、それぞれのがんの基本的な知識と治療法について理解を深めましょう。

それぞれのがんの特徴と初期症状

肝臓がん:初期は無症状が大部分。リスク因子を有する方は注意

肝臓がんは、肝臓そのものから発生する「原発性肝がん」と、他の臓器のがんが転移してきた「転移性肝がん」に大別され、日本では後者が多いとされています。
原発性肝がんの主な原因は、B型・C型肝炎ウイルスの持続感染や、アルコール性肝障害、代謝異常関連脂肪肝炎(MASH)などです。
初期はほとんど無症状ですが、進行すると全身の倦怠感(だるさ)、腹部の張りやしこり、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、むくみといった症状が現れることがあります。

肝臓がんの治療についてはこちらをご覧ください。「当科の肝臓がんの治療について」

胆道がん:黄疸が比較的早期に出ることも

胆道は、肝臓で作られた胆汁を十二指腸へ送るための管(胆管)と、胆汁を一時的に溜めておく袋(胆のう)の総称です。
ここにできるがんを胆道がんと呼びます。
胆道がんは、胆汁の流れを塞いでしまうため、比較的早い段階で黄疸や、それに伴う皮膚のかゆみ、白っぽい便、濃い色の尿といった症状が出やすいという特徴があります。

胆道がんの治療についてはこちらをご覧ください。「当科の胆道がんの治療について」

膵臓がん:発見が難しく、進行して症状が出やすい

膵臓は胃の裏側にあるため、がんが発生しても見つかりにくいのが最大の特徴です。
初期症状はほとんどなく、進行して初めて腹痛や背中の痛み、食欲不振、急な体重減少、黄疸などの症状が現れます。
また、糖尿病が急に発症したり、悪化したりすることも膵臓がんのサインの一つと考えられています。

膵がん(膵臓がん)の治療についてはこちらをご覧ください。「当科の膵がん(膵臓がん)の治療について」

【食事の工夫】QOLを高めるための穏やかな暮らしの工夫

がんと共に生きる上で、治療そのものと同じくらい、心と体の穏やかさを保ち、QOLを高める工夫が大切になります。

食事の工夫:栄養と「食べたい気持ち」を大切に

治療を乗り切る体力を維持し、副作用を軽くするためにも、適切な栄養管理は不可欠です。
しかし、「食べなければいけない」というプレッシャーにより、食事がすすまなくなることもあります。

ここでは、症状別の対策や食事のポイントを詳しくご紹介します。

1. 症状別の食事の工夫と対策

・食欲不振・吐き気
    • 見た目と量: お腹がすいていない時に、盛りだくさんの食事を見ると、それだけで気が滅入ってしまうことがあります。あえて小さめのお皿に少量だけ盛り付けると、「これくらいなら食べられるかもしれない」という前向きな気持ちにつながることがあります。
    • 環境を変える: 自宅での食事が進まない時は、食べる場所や食器を変えたり、普段は買わないお惣菜や外食を利用したりするなど、気分転換も有効です。
    • 嘔吐してしまったら: 無理に食べず、1~2時間ほど食事を控えます。脱水を防ぐため、スポーツドリンクや薄めた味噌汁、スープなどでこまめに水分補給をしてください。
・口内炎・口の乾燥
    • 刺激を避ける: 口の中への刺激を減らすことが第一です。極端に熱い・冷たいもの、硬いもの、香辛料の多い料理は避けましょう。
    • 潤いを保つ: 水分をこまめに摂って口の中を潤わせましょう。唾液の分泌を促すために、飴やガムを噛むのもおすすめです。
    • 口腔ケア: 口の中の汚れは味覚にも影響します。刺激の少ない歯磨き粉を選び、柔らかい歯ブラシで優しくブラッシングしましょう。
・下痢・便秘
    • 下痢のとき: 一度にたくさん食べず、少量ずつ回数を増やし、消化の良いものを中心に食べましょう。脂っこいものや、不溶性食物繊維が豊富な、きのこ、こんにゃく、ごぼうなどは避けましょう。水分と共に電解質も失われるため、人肌程度の温度のお茶やスープ、スポーツドリンクで水分補給を心がけてください。
    • 便秘のとき: 食物繊維が豊富な穀類(玄米、麦飯など)や野菜類、果物を積極的に摂りましょう。散歩やテレビを見ながらの足踏み運動なども、腸の動きを助けます。
・味覚・嗅覚の変化:味覚の変化は、過敏になる、鈍感になるなど様々です
    • 塩味に敏感・金属味を感じる場合: 塩や醤油を控えめにし、出汁の風味を効かせたり、ごま油の香りや酢の酸味を利用したりすると食べやすくなります。マヨネーズは苦味をマスキング(覆い隠す)する効果が期待できます。また、食べ物が汁に包まれて舌の上を早く通過する汁物もおすすめです。食後に口の中に苦味が残る場合は、甘酸っぱいキャンディーやキャラメルを舐めると和らぐことがあります。
    • 甘味に敏感な場合: 砂糖やみりん、ケチャップなどの甘い調味料は控え、出汁のうま味や塩味を効かせ、酸味やスパイスでアクセントをつけます。かぼちゃや玉ねぎなど甘みの強い食材が食べにくくなることもあります。
    • 匂いがつらい場合: 炊きたてのご飯や焼き魚、煮物などの湯気で気分が悪くなることがあります。少し冷ましてから、またはお椀の蓋を開けて湯気や匂いを飛ばしてから食卓に出してみましょう。

2. 簡単レシピで栄養補給

・レンジで簡単 ゴマ油香る 鶏だし茶漬け

市販のサラダチキンを使えば、簡単にたんぱく質が摂れます。ごま油の風味で食欲がない時でも食べやすく、エネルギーアップにつながります。

レシピ1 茶漬け

・のどごしが良い ヨーグルトゼリー マンゴー添え

食欲が落ちている時でも「果物やヨーグルトなら食べられた」という方は少なくありません。この2つを使ったデザートです。好きなフルーツを乗せたり、冷凍してシャーベット状にしたりとアレンジも楽しめます。

レシピ2 ヨーグルトゼリー

3. 回復期の食事と「バランスの良い食事」とは

体調が回復してきたら、美味しい食事を味わいながら、ゆっくりよく噛んで食べるようにしましょう。
バランスの良い食事で体力づくりを意識することが大切です。
「バランスの良い食事」とは、「主食」「主菜」「副菜」をそろえることです。

  • 主食: ご飯、パン、麺類など。体を動かすエネルギー源(炭水化物)です。
  • 主菜: 肉、魚、卵、大豆製品など。筋肉や血液をつくるもと(たんぱく質)です。
  • 副菜: 野菜、きのこ、海藻など。体の調子を整えるビタミンやミネラル、食物繊維が豊富です。

4. ご家族の皆様へ|食事のサポートで大切なこと

患者さんご本人は、「食べたいのに食べられない」「前向きになれない」というつらい気持ちを抱えていることがあります。
「無理に食べさせようとすることで、食事が苦痛になり、ますます食べられなくなった」という声も多く聞かれます。
少しでも食事が楽しい時間になるよう、無理強いせず、「食べたい時に、食べたいものを、食べられるだけ」という姿勢が大切です。
ご家族をはじめ周囲の方はプレッシャーを与えないようにそっと見守り、そして何よりも、ご自身の心と体の安定を大切にしてください。

【副作用】治療による副作用と上手に付き合う

抗がん剤治療では、様々な副作用が現れる可能性があります。しかし、現在では副作用を予防したり、症状を和らげたりするための効果的な薬(支持療法)がたくさん開発されています。

ここでは、国立がん研究センター中央病院の薬剤師のお話をもとに、代表的な副作用とその対処法、そして痛みのコントロールについて詳しく解説します。

1. 消化器症状(吐き気・便秘・下痢)と薬物療法

・吐き気・嘔吐

抗がん剤による吐き気は、投与後のタイミングによって「急性期(24時間以内)」と「遅発期(24時間以降)」に分けられます。
吐き気を長引かせないためには、特に急性期の吐き気をしっかり抑えることが重要です。

    • 予防が基本: 吐き気が出る前に、予防的に効果の高い吐き気止め(制吐剤)の点滴や飲み薬が使われます。
    • 予期せぬ吐き気: 過去の経験から「抗がん剤のことを考えると気持ち悪くなる」という「予期性悪心・嘔吐」もあります。これに対しては、気分を安定させる薬が有効な場合があります。
    • 多様な吐き気止め: 吐き気の原因となる脳の中枢をブロックする薬など、様々な種類の吐き気止めがあります。ご自身に合った薬を見つけるために、医師や薬剤師と相談しながら試していくことが大切です。

吐き気止め治療薬の紹介画像

・便秘・下痢

抗がん剤そのものや、吐き気止めなどの影響で、腸の動きを制御する神経が影響を受け、便秘や下痢が起こることがあります。

    • 便秘の対策: 便を柔らかくする薬、腸の動きを刺激する薬、便の水分量を増やす新しいタイプの薬など、様々な便秘薬があります。特に医療用麻薬(オピオイド)を使用している場合は、その副作用による便秘に特化した薬もあります。十分な水分摂取と、無理のない範囲での適度な運動も効果的です。

便秘治療薬の紹介画像

  • 下痢の対策: 腸内環境を整える整腸剤、腸の動きを緩やかにする下痢止め、消化を助ける薬など、原因や症状に合わせて薬を使い分けます。下痢が続くと脱水を起こしやすいため、こまめな水分補給が不可欠です。ひどい水様性の下痢が続く場合は、我慢せずに必ず医療機関に相談してください。

下痢治療薬の紹介画像

2. 免疫チェックポイント阻害薬の特有の副作用(免疫関連有害事象)

免疫チェックポイント阻害薬は、自身の免疫力を利用してがんと戦う新しいタイプの薬ですが、免疫が過剰に働き、正常な臓器を攻撃してしまう「免疫関連有害事象(irAE)」という特有の副作用が起こることがあります。

・注意すべき症状

    • 空咳、息切れ、発熱(肺の炎症)
    • 激しい下痢、腹痛、嘔吐(大腸の炎症)
    • その他、皮膚症状、倦怠感、甲状腺機能の異常など

・早期相談が重要

これらの副作用は、投与から1年以上経過してから現れることもあります。
疑わしい症状が出た場合は、「いつもの副作用と違う」と思ったら、すぐに医師・薬剤師・看護師に相談してください。

免疫チェックポイント阻害薬の副作用画像

3. 痛みのコントロールと医療用麻薬への正しい理解

かつては「がんの治療」と「痛みの治療」は別物と考えられていましたが、現在はがん治療の初期段階から痛みを積極的にコントロールし、QOLを維持するという考え方が主流です。
痛みを我慢すると、体力が消耗し、睡眠が妨げられ、治療を続ける意欲も失われかねません。

・痛みを正確に伝える工夫

痛みを我慢せず、医療スタッフに正確に伝えることが、適切な治療への第一歩です。痛みの強さを伝える方法として、以下のような指標が役立ちます。

    • NRS(数値評価スケール): 全く痛くない状態を「0」、想像できる最悪の痛みを「10」として、現在の痛みがどのくらいかを数字で伝えます。
    • フェイススケール: 言葉で表現するのが難しい場合に、患者さんの表情に合わせて医療者が痛みの度合いを評価します。

・痛み治療の目標:治療は段階的に目標を設定して進めます。

  1. 夜、痛みで眠りを妨げられない
  2. 安静にしている時に痛まない
  3. 体を動かしても痛みが強くならない

・痛み止めの使い方(定時薬とレスキュー)

 痛み止めの使い方には、大きく分けて2つのパターンがあります。

  1. 定時薬: 痛みの有無にかかわらず決まった時間に服用し、痛みを一日中安定して抑える薬。
  2. レスキュー・ドーズ(頓服薬): 定時薬を飲んでいても急に痛みが出てきたときに使う薬。

・医療用麻薬(オピオイド)への正しい理解 

「麻薬」という言葉に、依存や副作用への強い不安を感じる方が少なくありません。
しかし、医師の管理下で痛みの治療に使う医療用麻薬を、上手に使いながら働いておられる人も少なくありません。

    • 副作用: 主な副作用として「便秘」「吐き気」「眠気」がありますが、便秘は便秘薬で、吐き気は出ない方も多く、出た場合も吐き気止めでコントロール可能です。眠気や吐き気は、多くの場合1~2週間で体が慣れて落ち着きます。
    • 依存について: 痛みがある状態で医療用麻薬を使用しても、精神的な依存(やめたくてもやめられない状態)になることは、極めてまれです。痛みがおさまれば、薬の量を減らしたり、中止したりすることができます。
    • 「我慢」は不要: 日本は世界的に見ても医療用麻薬の使用量が少なく、「痛みを我慢してしまう」傾向があると言われています。体力を維持し、自分らしい生活を送るためにも、痛みは我慢せず、適切に薬を使うことが重要です。

【注意】医療用麻薬を携帯して海外へ渡航する場合

医療用麻薬を携帯したまま海外へ渡航するには、事前の申請が必要です。
渡航先の国によって手続きが異なりますが、医師の診断書と共に、出発の2週間以上前には申請を済ませておく必要があります。
海外渡航の予定がある方は、早めに主治医や薬剤師にご相談ください。

どんな症状であれ、気になることや不安なことがあれば、遠慮なく医師、看護師、薬剤師に相談してください。副作用と上手に付き合うための方法は、必ず見つかります。

【心のケア】不安やストレスを和らげる方法

がんと診断されると、誰でも大きな衝撃を受け、心に様々な変化が生じます。それは患者さん本人だけでなく、ご家族も同じです。

ここでは、国立がん研究センター中央病院の心理療法士のお話をもとに、ストレスとの付き合い方について解説します。

1. がん告知後の心の変化:誰もが通るプロセス

悪い知らせを受けた時、私たちの心は、多くの場合、下図のようなプロセスをたどります。これは異常なことではなく、大きなストレスに対する自然な反応です。

図 ストレスへの心の反応:がん情報サービス図:ストレスへの心の反応
出典:国立がん研究センターがん情報サービス

  • 衝撃期: がんと告知された直後は、大きな衝撃で頭が真っ白になり、話の内容を思い出せなかったり、「何かの間違いだ」「なぜ自分が」という思いでいっぱいになったりします。
  • 混乱・葛藤期: 数日経つと少し落ち着きますが、治療のこと、仕事や家庭のことなど、様々な不安が押し寄せます。眠れなくなったり、食欲がなくなったり、物事に集中できなくなったりするのもこの時期です。
  • 回復・適応期:このような葛藤を抱えながらも、多くの人は少しずつ気持ちを整理し、日常生活を取り戻していきます。個人差はありますが、多くの方が約2週間ほどで状況を客観的に捉えられるようになり、「副作用のことは薬剤師に聞こう」など、具体的な解決策を考えられるようになります。

2. 注意したい「心のSOSサイン」

多くの人は自分の力で立ち直っていきますが、がんという病気がもたらすストレスは非常に大きく、中には「適応反応症」や「うつ病」といった、専門的なサポートが必要な状態になる方もいます(10人に1~2人と言われています)。

以下のうち、最初の2つを含む5つ以上の症状が2週間以上続いている場合は、心がつらくなっているサインです。我慢せず、主治医や看護師に気持ちを伝えてください。

  • □ 1日中気分が落ち込んでいる、悲しい、空虚な気持ちになる
  • □ これまで楽しめていたことに興味がわかない、または楽しめない
  • □ 食欲がない、または食べ過ぎてしまう
  • □ 寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、または眠りすぎてしまう
  • □ 周囲から見てわかるほど、話し方や動きが遅くなる、または逆にイライラして落ち着かない
  • □ ひどく疲れた感じがする、気力がわかない
  • □ 自分には価値がないと感じたり、自分を責めるような考えが浮かぶ
  • □ 物事に集中できない、考えがまとまらない、決断できない
  • □ 自分を傷つけたい、死んでしまいたいという気持ちになる

3. 日常生活の工夫:落ち込みの悪循環を断ち切るには

病気のことが頭から離れず、不安や心配でいっぱいになると、人はいつの間にか「落ち込みの悪循環」にはまってしまうことがあります。

気持ちが落ち込む → 何もする気が起きず、活動しなくなる(ゴロゴロする) → 日常の楽しみが失われ、つらいことばかり考える → さらにネガティブな思考が強まる → ますます気持ちが落ち込む

この悪循環を断ち切るためには、次の3つのポイントが大切です。

  1. 気分に左右されず「とりあえず行動してみる」: 「気分が乗らないから」と休んでいると、落ち込みは深まる一方です。「気持ちは乗らなくても、とりあえずやってみる」ことが重要です。大きなことでなくても構いません。家の周りを散歩する、ベランダで外の空気を吸う、好きな音楽を1曲聴く。小さな行動が気分を変えるきっかけになります。
  2. 日常の中に「小さな楽しみ」を見つける:病気のつらさに意識が向くと、本来あったはずの日常の楽しみが見えなくなりがちです。美味しいお茶を一杯飲む、きれいな花を飾る、面白いテレビ番組を見て笑うなど、日々の生活の中にある「小さな幸せ」を意識的に積み重ねていくことが、心を支える力になります。
  3. 「自分にとって大切なこと」を再確認する:「病気のせいで、あれもこれもできなくなった」と考えがちですが、実は自分で制限をかけているだけ、ということも少なくありません。「仕事」「家族との時間」「趣味」など、病気になる前からあなたが大事にしていたことは何でしょうか。「今の自分にできる形で、大切なことを実現するにはどうすればいいか」と考えてみましょう。

4. ご家族や子どもへのサポート

つらいのは患者さん本人だけではありません。支えるご家族も、様々な悩みを抱えています。ご家族の心と生活が安定することは、患者さん本人にとっても良い影響をもたらします。「つらいのは本人だから」と我慢せず、ぜひご家族も医療者に相談してください。
また、未成年のお子さんがいる場合、「病気のことを、いつ、どこまで話せばいいか」「子どもの様子がいつもと違って心配」といった悩みを抱えることもあるでしょう。病院によっては、お子さんへの伝え方や関わり方について相談に乗る専門のサポートチーム(例:国立がん研究センター中央病院の「PANDA」プログラム)があります(例:国立がん研究センター中央病院のPC-PANDA(Parents with Cancer and Children Support. -Professionals and associates)チーム)。

院内には心のつらさや生活の中での悩みについて相談できる場所があります(例:がん相談支援センター、緩和ケアチーム、精神科、心療内科など)。どうぞ一人で抱え込まず、気軽に専門家にご相談ください。

【がん相談支援センター】暮らしと社会とつながる:相談窓口と利用できる制度

がんとともに生きる上では、治療や体調のことだけでなく、お金のこと、仕事のこと、家族のことなど、様々な悩みや不安が生じます。そんなとき、一人で抱え込まずに頼れる場所があることを知っておくのは、とても大切なことです。

ここでは、その中心的な窓口である「がん相談支援センター」の活用法について、専門スタッフのお話をもとにご紹介します。

1.まず知ってほしい「がん相談支援センター」


「がん相談支援センター」は、全国のがん診療連携拠点病院などに設置されている無料の相談窓口です。患者さんやご家族はもちろん、その地域にお住まいの方なら誰でも、がんに関するあらゆる心配事について相談できます。
がん相談支援センターは、皆さんが「大切にしたいこと」を一緒に考え、より良い療養生活を送れるようお手伝いする場所です。相談内容に応じて、院内の様々な専門スタッフと連携してサポートしますので、何かありましたらいつでもご利用ください。

  • 相談できること: 病気や治療のこと、療養生活や介護のこと、医療費や生活費のこと、仕事のこと、家族や人間関係の悩みなど、何でも構いません。
  • 相談スタッフ: 医療ソーシャルワーカー、看護師など、専門の研修を受けた相談員が対応します。
  • 相談方法: 各病院のホームページをご確認ください。国立がん研究センター中央病院では、8階の「患者サポートセンター」で直接受付もしています。

2.情報の集め方とコミュニケーションのヒント

納得のいく治療選択をするためには、正しい情報を得て、医療者としっかりコミュニケーションをとることが大切です。

・信頼できる情報の見つけ方

インターネットには情報が溢れていますが、まずは公的機関が発信する信頼できる情報源を参考にしましょう。

    • 国立がん研究センター がん情報サービス: がんに関する幅広い情報に加え、国内で実施中の臨床試験・治験の情報も検索できます。
    • 病院のホームページ: 各病院で実施されている臨床試験・治験の情報が掲載されています。
    • 学会のホームページ: 日本肝臓学会、日本膵臓学会、日本胆道学会などが発信する情報も参考になります。
      *臨床試験・治験には参加条件があります。関心がある場合は、まずは主治医に相談してみましょう。

・セカンドオピニオンの受け方

診断や治療方針について、担当医以外の医師の意見を聞くことを「セカンドオピニオン」と言います。
「主治医に失礼ではないか」と心配される方もいますが、今では多くの方が利用する一般的な権利です。
別の医師の意見も聞くことで、ご自身がより納得して治療を選ぶことを目指します。希望する場合は、遠慮なく主治医に伝えてみましょう。

・周囲への伝え方(話す?話さない?) 

病気のことを誰に、どこまで伝えるか。これに正解はありません。伝える相手やタイミングによっても変わってきます。
どうすべきか迷ったら、その気持ちをがん相談支援センターで話してみてください。一緒に考え、気持ちを整理するお手伝いをします。

・医師とのコミュニケーション

「忙しそうだから聞きづらい」と、診察室で質問をためらってしまうかもしれません。
しかし、疑問や不安を解消し、納得して治療を受けることは非常に重要です。
質問したいことを事前にメモにまとめておいたり、質問の例文や解説をまとめた冊子を活用したりするのもおすすめです。

3.緩和ケアという選択肢を知っておく

緩和ケアは、「がんが進行してから受けるもの」「終末期の医療」というイメージがあるかもしれませんが、それは誤解です。
緩和ケアとは、がんと診断されたときから、つらい症状や気持ちの落ち込みなどを和らげるために行われるケアの総称です。
がんの治療と並行して、いつでも受けることができます。

主治医の先生方や担当の看護師をはじめ、主にがん治療に携わる医療者も通常の緩和ケアを提供しています。
また、医師や看護師、薬剤師を含む多職種のチームが専門的な緩和ケアを行っている施設も全国に増えてきました。

・緩和ケアの3つの選択肢

療養生活で何を大切にしたいかを考えながら、ご自身に合った形を選ぶことができます。

    1. 治療中の病院で受ける: がん治療と並行して、通院・入院中の病院で痛みや副作用、心のつらさに対するケアを受けます。
    2. 在宅で受ける(在宅緩和ケア): 訪問診療や訪問看護などを利用し、住み慣れた自宅でケアを受けます。
    3. 緩和ケア対応病院で受ける: 緩和ケア病棟(ホスピス)や、一般病棟で緩和ケアに力を入れている病院でケアを受けます。
      がんを治す治療が難しい方や希望されない方で、痛みなどの苦痛症状を和らげるケアが必要な方が対象です。

・在宅療養を支える心強いサポーター

積極的な治療中であっても、訪問サービスを利用して体調を整えることは、治療を続ける上での大きな助けになります。

・訪問看護と訪問介護の違い 

    • 訪問看護: 看護師が自宅を訪問し、医療処置や体調管理の相談に乗ります。
    • 訪問介護: ヘルパーが自宅を訪問し、食事や入浴、掃除など生活上の困りごとを手伝います。

・緩和ケア病棟(ホスピス)について

主に、がんを治す治療が難しい方や希望されない方で、痛みなどの苦痛症状を和らげるケアを専門的に行う病棟です。
全国的に数が限られており、すぐに入院できない場合も多いため、希望される場合は早めに情報収集を始めることをお勧めします。

4.知っておきたい医療費と生活を支える制度

・高額療養費制度

医療費の自己負担額が、1ヶ月(月の初めから終わりまで)で上限額を超えた場合に、その超えた金額が支給される制度です。
事前に病院窓口へ「限度額適用認定証」を提示すれば、窓口での支払いを自己負担上限までに抑えられます。マイナンバーカードを保険証として利用する場合、「限度額適用認定証」の申請は不要です。*複数の病院にかかった場合なども、合算して申請できることがあります。詳しくはがん相談支援センターにご相談ください。

・傷病手当金

会社の健康保険(社会保険)に加入している方が、病気やケガで仕事を休み、給与が支払われない場合に、給与のおおよそ3分の2が支給される制度です。
退職後も受給できる場合がありますので、詳しくは勤務先や相談支援センターにお尋ねください。

・介護保険制度

日常生活の支援や介護が必要になった場合に利用できる制度です。

    • 対象者: 原則65歳以上の方。ただし、がんなどの特定の病気の場合は、40歳から64歳の方も症状の違いによっては対象となりますので主治医へご相談ください。
    • 申請窓口: お住まいの市区町村の役所 *利用できるかどうかは主治医にご相談ください。

5.治療と仕事の両立をあきらめないために

「がんと診断されたら仕事は辞めなければ」と考える必要はありません。
働き方を工夫することで、治療と仕事を両立できる可能性は十分にあります。すぐに判断せず、まずは相談しましょう。

・専門家への相談

がん相談支援センターでは、社会保険労務士による就労相談会や、ハローワークの専門相談員による出張相談などを定期的に開催しています。
働き方や職場との関わり方、今後のキャリアについて具体的に相談できます。

・職場と病院の連携サポート

国も患者さんの治療と仕事の両立を支援しています。
患者さん・職場・主治医が連携し、治療の予定や仕事上で配慮してほしいことなどを盛り込んだ「意見書」を作成し、職場と具体的な働き方を調整していく仕組みがあります。
ご希望の方は相談支援センターにご相談ください。

・がんとお仕事チェックシートの活用

「どんな風に相談したらいいかわからない」という方のために、簡単な質問に答えるだけで、相談の必要性やポイントがわかるオンラインツールもあります。
当院ホームページからアクセスでき、そのまま相談予約も可能です。

がんとお仕事チェックシートはこちらからご覧ください(外部サイトにリンクします。)

がん相談支援センターは、患者さんやご家族が「こうしたい」と感じる気持ちに寄り添い、一緒に考える場所です。
今抱えている悩みを解決する糸口が見つかるかもしれません。どうぞ一人で抱え込まず、お気軽にご相談ください。

【サポート体制】一人で抱え込まないために|利用できるサポート体制

療養生活における悩みや不安は、患者さんやご家族だけで抱える必要はありません。

社会にはさまざまなサポート体制が整っています。

医療機関のサポートチーム(緩和ケア、栄養サポートなど)

病院には、医師や看護師だけでなく、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、医療ソーシャルワーカーなど、各分野の専門家がチームとなって患者さんを支えています。困ったことがあれば、まずは看護師に声をかけてみましょう。

患者会や家族会で経験を分かち合う

同じ病気を経験した仲間と話すことは、大きな心の支えになります。治療や副作用対策に関する実践的な情報交換ができるだけでなく、「つらいのは自分だけじゃない」と感じることで、孤独感が和らぎます。

かかりつけ医との連携(地域連携パス)

専門的な治療は病院で行い、日々の体調管理や風邪などの対応は近所のかかりつけ医にお願いするなど、医療機関の役割分担を進める「地域連携パス」という仕組みがあります。これにより、身近な場所でも安心して医療を受けられるようになります。

在宅医療と訪問看護の利用

「住み慣れた自宅で療養を続けたい」という希望を叶えるための選択肢です。医師や看護師が定期的に自宅を訪問し、点滴の管理、痛みのコントロール、体調のチェック、心のケアなど、病院と変わらない質の高い医療・ケアを提供してくれます。

【「APC」とは】これからのあなたのために「人生会議(ACP)」を始めませんか

がんと共に歩む道のりでは、時にご自身の治療やケアについて、大きな決断を迫られることがあります。もしもの時に備え、そして何より「自分らしく生きる」ために、元気なうちから考えておきたいのが「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」です。

1. アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは?

ACPとは、将来の医療やケアについて、ご自身が大切にしたいことや望むことを、ご家族や医療・介護従事者とあらかじめ話し合っておくプロセス(過程)のことです。日本では「人生会議」という愛称で呼ばれています。
これは、延命治療をするかしないかといった「もしもの時」の選択だけを指すものではありません。あなたがどのような価値観を持ち、どのような人生を送り、最期までどのように生きたいかを考え、大切な人たちと共有する対話そのものが重要です。

2. なぜ「人生会議」が大切なのでしょうか?

  • あなたの意思が尊重されるため: 病状が進み、ご自身の意思を伝えられなくなった時でも、あなたの想いに沿ったケアを受けやすくなります。
  • ご家族の負担を軽くするため: あなたの想いが分かっていれば、ご家族は難しい決断を迫られた時の精神的な負担が軽くなります。「あの時の本人の選択はこれでよかったのだろうか」と悩み続けることを防ぎます。
  • 「今」をより良く生きるため: これからの生き方を見つめ直し、何を大切にしたいかが明確になることで、残された時間をより大切に、自分らしく過ごすことにつながります。

3. 何を話し合えばいいの?

難しく考える必要はありません。まずはご自身の心に問いかけることから始めてみましょう。

  • 大切にしたいこと: どんな状態であっても、これだけは大切にしたいという価値観はありますか? (例:痛みや苦痛がないこと、意識がはっきりしていること、好きなものを食べられること、家族と穏やかに過ごすこと)
  • 望む場所: これからの療養生活や、もし最期を迎えるとしたら、どこで過ごしたいですか? (例:住み慣れた自宅、設備の整った病院、自然の見える緩和ケア病棟)
  • 信頼できる人: もし自分で決められなくなった時、誰に判断を託したいですか?その人に、ご自身の想いを伝えていますか?
  • 受けたい/受けたくない医療・ケア: 具体的に希望する、あるいは希望しない医療やケアはありますか?

4. 誰と、どのように進める?

ACPは一人で完結するものではなく、対話を通じて深めていくものです。

  • 話し合う相手: ご家族、信頼できる友人、そして主治医や看護師、がん相談支援センターの相談員など、あなたのことを理解してくれる人たちと一緒に考えましょう。
  • 繰り返しが大切: 人の気持ちは、時間や体調、状況によって変化するものです。一度決めたら終わりではなく、折に触れて何度も話し合い、考えを更新していくことが重要です。
  • 書き留めておく: 話し合った内容は、エンディングノートや「事前指示書」のような形で書き留めておくと、ご自身の考えを整理でき、大切な人に想いが伝わりやすくなります。その他に、市町村が作成している人生会議の冊子などもご活用ください。

がん相談支援センターでは、皆さんがこの「人生会議」を進めるためのお手伝いもしています。「何から話せばいいか分からない」「家族にどう切り出せばいいか迷う」そんな時も、どうぞお気軽にご相談ください。

あなたの想いに寄り添い、あなたが望む療養生活を実現するために、私たちは一緒に考えます。