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乳房再建
乳房再建について
乳がんの切除により変形あるいは失われた乳房をできる限り取り戻すための手術を乳房再建といいます。女性にとって乳房が変形・喪失することは生活の質(QOL)を大きく損ねることになるため、乳房再建は乳がん治療の一部であり、当院では乳腺外科と形成外科が緊密に連携を取り診療を行っています。乳房再建を行うことにより乳房の喪失感が軽減し、下着着用時の補正パットが不要になるなどの日常生活の不都合が減少しますが、乳房再建は手術する時期や手術法が数種類ありますので術前に形成外科医とよく相談することが重要です。
乳房再建の時期
乳房再建を行う時期は2つに分けられます。1つは乳がん切除と同時に再建まで行う方法(一次再建)であり、もう1つは乳がん切除を行った後にしばらくして乳房再建を行う方法(二次再建)です。
一次再建は1度の手術で乳がん切除から乳房再建まで行うことができるため手術回数が減ることや乳房の喪失感を軽くすることができることなどの長所がありますが、手術時間や入院期間が長くなることなどの短所もあります。乳がんの診断から手術までの比較的短い期間に再建法を選択する必要があるため、形成外科外来で再建法の説明を聞き、十分に理解していただく必要があります。
その一方で二次再建は再建法を検討するのに十分な時間があることなどの利点がありますが、乳房をいったん失うことになるため乳房の喪失感があること、手術・入院回数が1回増えることなどの欠点があります。
当院で乳房再建を受ける患者さんの9割以上の方が一次再建を選択されています。しかし、乳がん切除を行った後に「友達と温泉に行きたい」「運動が好きだけど、フィットネスクラブの更衣室で他の人の視線が気になる」「乳がんの治療が終了したら再建をやりたくなった」などの理由で二次再建を希望する方も多くいます。
他院で乳がん切除を受けた方の二次再建も行っています。他院治療後に当院での二次再建を希望される方は、紹介状をお持ちになり形成外科外来(月曜日・火曜日・金曜日 午前中)を受診してください。
乳房再建の方法
乳房再建の方法は大きく分けて、自分の組織(皮弁(ひべん))を使って再建する方法と人工物(シリコンインプラント)を使って再建する方法の2通りがあります。再建の方法は年齢、職業、乳がんの部位や切除範囲、反対側の乳房の形態や大きさなどさまざまなことを考慮して選択する必要があるため、形成外科外来で説明したうえで患者さんに選択していただいています。いずれの方法を選択しても形の左右差や手術の傷跡などの二次修正術が必要となることがあります。
自分の組織(皮弁)を使って再建する方法
自分の体の一部を血が通った状態で乳房に移動して乳房を再建する方法です。主に背中から採取する方法(広背筋皮弁)と腹部から採取する方法(深下腹壁動脈穿通枝皮弁)に分けられます。当院で皮弁を用いた乳房再建数は2011年から2014年の4年間で163例(二次再建を含む)であり、全国有数の症例数となっています。
広背筋皮弁(こうはいきんひべん)
背中の皮膚・脂肪・広背筋を血管がつながったままの状態で胸部に移動して乳房形態を再建する方法です。背中の脂肪は腹部より少ないことが多いため、比較的小さい乳房の方に向いている再建法です。手術時間は乳がん切除が終了して4時間から5時間程度、入院期間は手術後10日から14日程度です。
深下腹壁動脈穿通枝皮弁(しんかふくへきどうみゃくせんつうしひべん)
腹部の皮膚・脂肪を血管付きで採取し、顕微鏡を使って胸部の血管と皮弁の血管をつなぎます(マイクロサージャリー)。マイクロサージャリーにより腹部の皮膚・脂肪を血流がある状態で胸部に移植することができるので、それを用いて乳房を再建します。腹直筋がつながったままの状態で移植する方法や腹直筋を一部採取する方法(腹直筋皮弁といいます)もありますが、当院では腹直筋を全く採取しない深下腹壁動脈穿通枝皮弁で大多数の方の再建を行っています。近年では、さらに術式の改良を行い、腹直筋に全く切開を加えない浅下腹壁動脈皮弁も積極的に使用しています。腹直筋を採取する方法では、術後に腹壁瘢痕(ふくへきはんこん)ヘルニアや腹壁弛緩(下っ腹がポコッと出てしまう状態)などが生じることが多いのですが、当院の方法は腹直筋への侵襲が最小限なのでこのような後遺症を生じることは非常に稀です。腹部は比較的脂肪が豊富であるため大きな乳房の方に向いている再建法です。手術時間は乳がん切除が終了して5時間から7時間程度、入院期間は手術後10日から14日程度です。
利点と欠点
利点
- 入れ替えの必要がなく形態が保たれる
- 仰向けになったときや動いたときに自然な移動がある
欠点
- 体の他の部分に傷ができる
- 筋力の低下を感じることがある
- 手術時間、入院期間が長い(離床・食事は手術翌日より可能です)
- 深下腹壁動脈穿通枝皮弁は将来妊娠の可能性がある方は使用できない
- 深下腹壁動脈穿通枝皮弁は血栓形成(注)の可能性がある
注:血栓形成について
深下腹壁動脈穿通枝皮弁を用いた乳房再建では顕微鏡を用いて胸部の血管と皮弁の血管をつなぐ必要があります。血栓形成とは血管をつないだところやその近くに血栓(血液の塊)が生じることであり、放置すれば皮弁に血液が通わず壊死してしまうため緊急手術が必要になります。当院の2011年から2014年の4年間の血栓形成率は2.4%、皮弁生着率は99.2%であり世界的に見ても非常に良好な成果をあげています。血栓形成は早期に発見することが重要であり、当院ではティッシュオキシメーターという特殊な器械を用いて移植皮弁の組織酸素飽和度を常時モニタリングしています。
人工物(シリコンインプラント)を使って再建する方法
乳がん手術では乳輪乳頭を含む乳房の皮膚が切除されることが多いため、まずは組織拡張器(ティッシュエキスパンダー)で皮膚を伸展させる必要があります。そのため初回の手術では、乳がん切除後にティッシュエキスパンダーを大胸筋の下に挿入してから傷を閉じます。手術時間は乳がん切除が終了して1時間程度、入院期間は手術後7日から10日程度です。
ティッシュエキスパンダーは外来で徐々に拡張させ(2週から3週に1回程度通院していただきます)、皮膚を伸展させます。皮膚が十分に伸展したところで伸展した皮膚が安定するまで3か月から6か月程度待機していただきます。そして2回目の手術で、ティッシュエキスパンダーを取り出し、シリコンインプラントに交換します。もともとシリコンインプラントは保険適応外であり高額なことが問題でしたが、2013年から保険適応となりました。
インプラントを用いて再建した乳房ではわきとインプラント上方に凹みを生じやすいことがしばしば問題となります。当院では腹部あるいは大腿より脂肪吸引を行い、生じた凹みに脂肪注入を行っています。インプラント交換と脂肪注入を同時に行うことにより1回の手術でインプラントの欠点を補い、より自然に近い形の乳房を再建することが可能になります。
利点と欠点
利点
- 体の他の部分に傷をつけなくてすむ
- 手術時間、入院期間が短い
欠点
- 感染や破損、広範囲の皮膚壊死がおきた場合には、人工物を取り出す必要がある
- 将来的に入れ替えの必要がある
- カプセル拘縮が出現して硬くなったり変形したりすることがある
- 最低でも手術を2回受ける必要がある
- 仰向けになったときや動いたときに乳房の自然な移動がない
乳房形態の3D画像解析
当院ではVECTRA(ベクトラ)という3D画像の撮影装置を用いて乳房形態の解析を行っています。乳房のカラー3D画像を用いることにより1人1人の患者さんのインプラントの選択や脂肪注入量のシミュレーションを行うことができるため再建乳房の整容性や手術の安全性を向上させることができます。