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長期フォローアップ外来(LTFU外来)

1.LTFU外来とは?

国立がん研究センター中央病院(以下、当院)では年間約100件の造血幹細胞移植を行っています。造血幹細胞移植後は様々な面での回復の経過が長期であるため、入院から外来通院移行後に継続的に支援する体制があることは、患者さん・ご家族が安心して移植に臨むためにも重要です。移植片対宿主病(Graft Versus Host Disease:GVHD)などの様々な移植後合併症や感染症のリスクを考慮したモニタリングを行い、それらに早期対応し、日常生活だけでなく職場や学校などの社会生活への復帰をスムーズに進め、患者さん・ご家族のQOLを高めるための長期フォローアップが求められます。

このような背景から、平成24年度診療報酬改訂で「造血幹細胞移植後患者さん指導管理料」が新設され、全国の移植実施施設において移植後患者さんを対象とした専門外来(LTFU外来)の開設が拡大しはじめました。

LTFU外来を開設しているほとんどの施設が「造血幹細胞移植後患者指導管理料」という診療報酬を算定しています。これは、造血細胞移植を行った患者さんへの適切な外来支援体制を設けて、移植後に生じる感染やGVHD、晩期障害を予防したり対処したりすることに対する加算です。算定している施設では、指定された条件に合う医師、看護師、薬剤師が配置され、専門外来を運営しています。診療報酬点数は1回300点(3割負担の方で900円)で、1か月に1回だけ算定されます。同じ月の2回目以降の受診ではこの算定はありません。

図1

2.当院のLTFU外来(図1)

当院スタッフは移植後患者さんの長期フォローアップの取り組みを先駆的に行ってきた経緯もあり、日本造血細胞移植学会が主催するLTFU外来担当看護師育成のための研修会の企画立案や講師協力も行い、同学会のLTFUガイドライン作成にも貢献しています。

当院では平成18年から看護師が週1回の任意相談対応を行ってきましたが、「造血幹細胞移植後患者指導管理料」が新設された平成24年4月から週4回(月曜日から木曜日の9時から13時)の新規外来枠を開設しました。この看護師主体のLTFU外来は医師の外来日に連動して実施するように運用しています。LTFU外来担当看護師は、幹細胞移植科外来担当の看護師や医師との連携の下、移植後経過に応じた節目受診(下記2-1):移植後3か月、6か月、1年、以降年1回)とそれ以外(下記2-2))で相談を希望される患者さん・ご家族を支援しています(図2、3)。年間およそ360から380件のLTFU外来受診に対応しています。

2-1.節目外来受診

まずLTFU外来担当看護師が、全身状態、日常生活活動の状態、慢性GVHDのスクリーニング評価の予診を行い、医師の外来診察につなげています。必要時は、担当看護師から医師に他科受診や軟膏類や含嗽、点眼薬などの処方を依頼します。問題の有無に関わらず、移植後経過期間に応じて、感染予防、GVHD予防、ワクチン接種のタイミング、その他の晩期合併症、二次がん、性腺機能障害などについての生活指導や助言、必要時に薬剤師や管理栄養士などの他職種への相談の調整を担当看護師が行っています。

2-2.節目以外の外来受診日

移植後の時期に関わらず、患者さんやご家族側から相談の希望がある場合や、医師が必要と判断した場合に、合わせて対応しています。長期化したGVHD症状がある場合は、その状態をアセスメントし、セルフケアを指導しています。特に口腔・目・肺のGVHDの場合の日常生活への影響は大きく、生活の調整やご家族の協力体制を話し合うこともあります。長期的な療養経過に伴う心理的問題や社会復帰準備、ご家族のストレス、再発時の不安などに関する相談も多く、「どこに相談してよいかわからなかったことを話せただけでも気持ちが落ち着く」という患者さんも少なくありません。

図2

図3

2-3.LTFU外来での支援を支えるツール

当院LTFU外来で相談対応した内容について行った調査では、様々な移植後患者さんの問題とセルフケア支援の必要性が明らかになりました(図4)。このような院内における調査結果や海外の移植施設が活用・公開しているLTFU・晩期合併症に関する情報やツールを参考にして、当院のLTFU外来ではいくつかのLTFUツールを構築し、活用しています。

図4

 

当ホームページでは、現在当院のLTFUで活用されている下記のツールを公開しております。

  1. 慢性GVHD臓器スコアリングシート(PDF:310KB)
    2014年にNIHより報告された臓器別の慢性GVHDスコアリング(Biol Blood Marrow Transplant. 2015 Mar;21(3):389-401)をもとに、当科の稲本医師が和訳をしたものです。移植後3か月、6か月、1年目以降年1回の節目LTFU受診時に、まずはLTFU外来で看護師が予備診察をして各臓器のGVHD症状のスコアリングを行い、最終的に医師が確定をしています。
    GVHD症状を確認すべき8つの臓器それぞれについて問診と診察をすることで、新しい症状の出現や前回から比較した進行・改善を確認し、国際的な判断基準を用いて漏れなく記録を残すうえで有用です。
  2. 患者問診票(PDF:225KB)
    海外でLTFUを活発に行っているFred Hutchinson Cancer Centerで用いられているLTFU問診票と、当院におけるLTFU外来とその前身外来を含めた経験から得られた患者さんによく認められる症状・訴えを組み合わせ、作成された50項目の問診票です。皮膚・眼・口・呼吸・消化管・筋肉と関節・陰部生殖器という慢性GVHDが起こり得る臓器に関連する症状のほか、心理面についても項目を設けており、患者さん自身に5段階で症状の有無を答えていただきます。
    中程度以上の症状があるとチェックされている項目や、前回から新しく出現した症状などを中心に、LTFU担当看護師が実際のLTFU外来で問診や診察を行い、外来担当医とともに介入を検討します。
    患者さんに外来受付後、LTFU外来受診までに前もって問診票にチェックしておいていただくことで、速やかに症状の種類や程度を把握することができるほか、心理面や生殖器など、直接患者さんがお話ししにくい点についても、なにか問題がある場合には察知できるといった点でも有用です。
  3. 看護師指導内容リスト(テンプレート(PDF:276KB))
    LTFU担当看護師、移植の診療を担当する看護師の経験と過去のLTFU記録のレビューから、LTFU外来においてスクリーニングすべき項目、情報提供・指導内容をリストアップしたものです。
    この指導内容リスト(テンプレート)を用いることで、移植後の様々な症状に対して、必要な情報を漏らさずに、かつ、できるだけ均一な情報提供・指導を行うことを目指しています。電子カルテ内には共通の項目について記録できるテンプレートが設けられており、LTFU外来におけるスクリーニング項目や指導内容について、必要事項を漏らさず、速やかに記録するうえで有用です。
    また、患者さんにどのような情報提供をしたかということを指導内容リストに基づいて簡単にチェックできる紙様式には、“医師への連絡事項欄”が設けられ、医師の診察までにカルテ入力ができない場合にも、看護師から医師への情報共有をタイムリーに行う上で活用されています。

これらのツールを活用して担当者間で情報共有したり、次回の受診時にも前回の情報を確認したうえで継続的に対応することができています。外来受診がスムーズに進むよう、また、今ある問題だけでなく、気づきにくいことや予測される問題にも対応できるように工夫を重ねてきたツールです。

3.移植後患者さんのサバイバーシップをチームで支えるLTFU外来

LTFU外来では看護師が多様な役割を担っていますが、患者さん・ご家族だけでなく、関わる多くの医療者のもち得る力をも最大限に引き出し、移植後患者さん・ご家族の長期経過を支える原動力になっていると考えます。

今後、全国的にもさらにLTFU外来が普及すると予測されます。移植累積件数や患者さんの特徴などの異なる全国の施設でのLTFUに関する取り組み実績を明らかにし、効果判定や評価を行い、移植後患者さんのサバイバーシップケアの質の向上に貢献することは、自施設の移植患者さんに対する診療のほか、当院の重要な役割であると考えて取り組んでいます。